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電車

何かアイデアを思いついたとき、昔はメモ帳を持ち歩いていた。
ここ十数年はそれがノートPCの『ネタ帳』というファイルになった。
そこに1行のフラッシュアイデアから、わりと長文のあらすじ的なもの、思いついた台詞やギャグ、様々なものを書き込んでいく。ファイルの頁数も随分と増えた。アイデアに詰まったときにたまに見返していたのだけれど、最近はほとんど見返すこともなくなっていた。

昨夜、ふと思い立ち、久しぶりに古いメモまで読み返していて出てきたのが、『電車』というタイトルのついた短文だった。少なくとも6、7年以上昔に書いたものと思われるが、しかし。

僕はこの文章を書いた記憶がない。

なんか酔っ払ってるときに適当に書いたのかな。
それとも深夜に寝ぼけて書いたのか。あるいは自動書記的な何かか。
自分が書いた記憶がないものが自分のパソコンに入っているとわりと怖い。


『電車』

朝の満員電車に揺られながら繁雄はふとつり革を持った手を見た。手の甲に大きな傷跡がある。それは五十年以上も昔、繁雄がまだ小学生だった頃、姉と喧嘩をしていてもみあった拍子に倒れ、勉強机の上にあった刃を出しっぱなしにしてあったカッターナイフが落ちて手の甲にぶっ刺さったときの傷だ。子供部屋は血まみれになった。グレーの絨毯が真っ赤に染まり、繁雄は驚くような出血の量に一瞬気が遠くなりかけたが、今夜は好物のハンバーグカレーだということを思い出し、なんとか踏みとどまった。しかし、出血の量に驚いた両親によって繁雄は車に乗せられ近くの病院まで連れて行かれ、その場で7針も縫って包帯でぐるぐるに巻かれ、結局、その夜は近所で出前をとってハンバーグカレーは食べられなかった。ハンバーグカレーといえば、手の甲のこの傷を思い出す。今夜はハンバーグカレーが食べたい。繁雄はスマホを取り出して、妻にLINEを送ろうとしたとき、意識が飛んだ。気がつけば、繁雄は


そこで途切れてる。
気がつけば繁雄は、なんなんだ。
どうしたんだ繁雄。


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