【一日一捨】 折り畳み傘の袋
折り畳み傘の袋を一度も失くさぬまま人生を終える者はひとりとして存在しない、と前に誰かがTwitterで呟いていた。たしかに。めちゃくちゃ失くす。けど、これは本体の方を先に失くしてしまった。失くしたのは、高校の同窓会の帰りだ。
まだコロナ前のこと。その日は10年ぶりに開かれた同窓会だった。10年という月日は残酷で、みんなびっくりするほどおっさんおばさんになっている。ということは、それつまり自分もまた人から見ればびっくりするほどおっさんになっているということだ。
二次会はカラオケに流れた。
同窓会のカラオケは苦手だ。みんな古い歌ばかり歌う。松田聖子だの長渕剛だの米米CLUBだの。定番は長渕剛の『乾杯』だ。あと定番といえば『世界で一つだけの花』とか。曲そのものは別に嫌いではないんだけど、「みんなで仲良くそういった曲を歌う」という状況が死ぬほど苦手だ。
前回の同窓会には来ておらず、今回、高校卒業以来はじめて会った岩下君が『陽はまた昇る』を入れた。谷村新司。また古い曲か…と思ったら、同じ『陽はまた昇る』でも、髙橋優の『陽はまた昇る』だった。髪はだいぶ白くなっていたけれど、高校時代からあまり変わってない岩下君が空気を読まずに歌う『陽はまた昇る』はちょっとかっこよかった。
そんな同窓会の帰り、地下鉄の車内に折り畳み傘を忘れた。すぐに気づいて駅員さんに言ったのだけど、結局、見つからなかった。傘袋だけいつまでもとっておいても仕方ないので、捨てる。
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