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【一日一捨】 根付け

もう10年以上昔のこと。近くの公園で開催されたフリーマーケットで、僕は文学フリマで売れ残った自作の小説を売っていた。隣のスペースでは、ちょっと年齢不詳なお兄さんがアクセサリーや小物を売っていて、せっかくのお隣さんだから何かひとつ買おうかと、木材を加工した手作りらしきその根付けを買った。
「それ、ラッキー根付けっす。きっといいことあるっすよ!」
「じゃあ、キーホルダーにしようかな」
お兄さんは「じゃあ、オレも…」と、僕の本を一冊買ってくれた。僕はその根付けに当時つきあってた彼女の部屋の鍵をぶらさげたのだけれど、それから半年ほどして彼女と別れてしまった。どこがラッキー根付けだ。でも、捨ててしまうには忍びなくて、机の引き出しの中に放り込んだままになっていた。

次の年、またフリーマーケットに出た。隣はまたあのときのお兄さんだった。
「あ、どうも」
「また会いましたね」
ちょっと気まずい空気。ポケットの鍵にはもうあの根付けはついてない。お兄さんも僕の本を読んでくれたのかどうか。それからあのフリーマーケットには行ってない。捨てる。


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