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【一日一捨】 チェコのビール瓶

何年か前、彼女の友人宅で開かれたホームパーティーに行った。
彼女の友人である篠宮さんと僕は会ったことはなく、他に来ていた何人かも僕は面識がない人ばかりだった。その中のひとりにチェコ人の男性がいた。

チェコ人の彼は、篠宮さんがチェコ旅行に行ったときに知り合って仲良くなったという。親日家で毎年一度は日本に遊びにくるらしい。そんなふうに外国に旅行に行って、そこで仲良くなった現地の人とその後も親交が続くなんて僕にはとてもできそうにない。

僕はチェコには行ったことがなく、プラハという地名くらいしか知らなかったけれど、相対性理論という名のバンドの人工衛星という曲の中に、

『プラハで見た流れ星が 散会 今夜 空 朱色混じり』

というフレーズがあり、ちょっと切ないメロディとその歌詞が大好きだったので、その場でiPhoneで聴いてもらった。「とても素敵な曲だ」と彼は言ってくれた。

彼が持ってきたチェコのビールはとても美味しくて、瓶も可愛い。その場にいた誰かが、「この瓶、もらっていいですか?」と言ったので、「じゃあ、僕も」と1本持って帰らせてもらった。

瓶はたまに一輪挿しに使ったりしていたけれど、そのうちキッチンの隅に調味料なんかと並べて置きっぱなしになった。その後、彼女とは別れてしまったで、あのチェコ人の彼とももう二度と会うことはない。彼の方もホームパーティーで一度会っただけの僕のことなんてたぶん憶えていないだろうけど、相対性理論のあの曲だけでも憶えてくれてると嬉しいなって思った。音楽は世界中どこでも聞ける。彼がプラハであの曲を聴いていたら、ちょっと嬉しい。けど、瓶は捨てる。

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