英国結晶学会(BCA)に参加してきました
約2年ぶりにIn-personの学会!英国リーズ大学で開催された"BCA Spring Meeting 2022"で口頭およびポスター発表をしました。BCAには今回が初参戦です!日本人と思われる参加者が他に見当たらなかったので,英国の関連学会コミュニティに入る良い機会になりました。
日本国外で開催された会議に参加したのは,2019年8月末にウィーンで開催されたECM32(European Crystallographic Meeting)以来です。2020年3月以降しばらくオンラインもしくはハイブリッドのセミナーや学会が続いていましたが,今回のBCAは完全にIn-personでの開催でした。
一部の講演者は会場に来ることができず,ZOOMで講演された方もいました(Easter休暇直前だったため,家庭の都合等で現地に来れなかった人がリモート講演できるようにしたのは良いと思いました)。
BCAとは?
BCAは"The British Crystallographic Association"="英国結晶学会"で,1982年に設立されたそうです。関連する分野としては,化学(Chemistry),生物(Biology),物理(Physics),物質科学(Materials science),そして工学(Engineering)と幅広い分野をカバーしています。
2022年2月上旬ごろに,ボスから"BCAのMembrane proteinセッションで口頭発表しないか?"と声をかけてもらって,せっかくのIn-person会議が英国内であるのならと思い登録することに。その際に(何故か)ポスター番号もアサインされていて,こちらもせっかく誰かと話せる機会になるかもしれないと思って持っていきました。
研究所のあるHarwellからリーズまで公共交通機関で行くとロンドン経由になるため5時間超。一方で車だと3時間くらいで行けることが分かり,185マイル(300 km)ほど運転して現地へ。途中まで超順調でしたが,最後で高速出口を間違えてリーズ市内のややこしい道に迷子になり40分ほど無駄にぐるぐる回る羽目になってしまいました。ナビがあっても難しかった...
全体の流れとプログラム
学会は大きく分けて、
①Young Crystallographers (YCG) Early Career Satellite Meeting: 4/11(月)午後から4/12(火)昼まで
②Main Meeting: 4/12(火)午後から4/14(木)昼まで
の二部構成で開催されました。
印象に残った講演などの詳細は気が向いたらまとめていこうと思います。
Twitterのハッシュタグは#BCA22。私も便乗しました(最初は間違えて#BCA2022としてしまった)。
ちなみにYCGはPhD取得後概ね5年以内と位置付けられており,PhD学生や取得後間もないポスドクに口頭発表する機会が与えられています。YCG Meetingは2日間合わせて口頭発表が15演題+プレナリー2演題あり、それとは別にポスターの内容を30秒以内スライド1枚で紹介するフラッシュプレゼンテーションが8演題ほどありました。ざっと見た感じ化学系の発表が多く,生物系の講演は装置系(ビームライン)で生物試料を対象にした講演がありました。
Main Meeringはプレナリー講演を除き,3つのセッションが同時進行で実施され(パラレルセッション),そのうち1つは生物系(BSG)でした。トピックごとに1人のKeynote(30分)と2-3人(20分/1人)のOral講演があり,話題のトピックを扱っていることが伺えました。
ちなみに,KeynoteスピーカーもEarly careerが多く,PIもしくはグループリーダーとして独立して数年後の研究者がInviteされていました。そのため最先端の研究発表が多く,自身ともそれほどキャリアステージの大きく離れていない方々の話を聞けたのは,ある意味刺激的でした。
いわゆる『生体分子』にフォーカスしたセッションは,『RNA-Protein Interactions』『Membrane Protein』の2つあり,いずれのセッションで聴講した内容もクライオ電顕を用いた構造解析が中心でした。私もMembrane ProteinセッションのOralで発表しました。質疑は内容に即したものを多数頂けて,発表終了後に座長,他の発表者,質問してくれた先生と雑談する時間もあったので,これぞIn-personで発表するメリットだと再認識しました。
またBSGの中で手法にフォーカスしたセッションとしては,『Correlative Tomography』『Electron Diffraction』『Room Temperature Data Collection』がありました。かなり特殊なセッションを組んでいる印象を受けましたが,特に『Electron Diffraction』は会場超満員で立ち見が出るほど人が溢れていました。『Room Temperature Data Collection』ではXFELとSRのシリアル測定系の開発とデータ解析についての議論が中心で,ファシリティで少し働いて得た知識が理解の助けになりました。
プレナリーレクチャー
大きく分けて3つのPlenaryがありました。
① Prize Lecture (Lonsdale Lecture, Hodgkin Lecture)
② Plenary Lecture (PCG, CCG, IG, BSG)
③ Early Career Prize Lectures (PCG, CCG, BSG)
Hodgkin Lecture PrizeはUniv. of OxfordのProf. Elspeth Garmanが受賞され,ECM32で受賞されたMax Perutz Prize 2019に続いて講演を聞くことができました。Garman先生の講演では,最初に賞の由来となった研究者がどのような研究をされ,成果を残されていたのかを紹介してくれます。ご自身の素晴らしい研究成果はいつ聞いても感銘を受けるのですが,それ以上に先人にリスペクトを常に示し,誰に対してもフレンドリーな人柄は多くの人から好かれていて,私は心から尊敬している先生の一人です。
BSG Plenary LectureはUniv. of CambridgeのProf. Randy Readから『Structural biology in a post-AlphaFold world』という演題。こんなホットなタイトル,聞きにいかないわけがない!感想を書くと長くなるので割愛しますが,今後まだまだ発展しそうなので,それを見越した構造生物学としての研究戦略が必要そうです。生命現象を追うような研究は上手く使えるとプログレスが大幅に上がるし良いと思うのですが,構造決定に特化するような研究(手法開発を含む)は,何が今後必要となるかを改めて考えていく必要があると感じました。
BSG Early Career Prize LectureはUniv. HamburgのDr. Andrea Thornが受賞されました。彼女とはECM32 YCG Satellite Meetingの懇親会で話したことがあり,CCP4 WSのLectureとして招かれたり若手でとても活躍されている研究者です。SARS-CoV-2のゲノムや構造情報から,これまで得られている情報とこれから解明していくべきことなどを,とても分かりやすい動画を交えて紹介してくれました。
ポスターセッション
ざっとみて100演題近くあったように思います。YCGのポスターセッションが4/11の夜,Main Meeringのポスターセッションが4/12の夜に開催されました。参加者はビュッフェスタイルのディナーとワイン/ビールが提供され,和気あいあいと交流しながら研究の話をするとてもいい機会でした。私のポスターにも何名か来てくださり,構造のことからBiologyの機能に関する質問も受けました。口頭発表とはまた違ってじっくり話せるのは楽しかったです。
日程的にはポスター発表翌日に口頭発表があったので,口頭の時には新しく得てまだ論文になっていないデータも加え,さらに突っ込んだ議論をしました。それに関する質問もあったので,ポスターと口頭の両方できたのはとても良かったと思っています。
企業ブース
展示場には協賛企業によるブースが設置してありました。これも学会の風物詩的な感じですね。普段お世話になっている装置や試薬,消耗品などを取り扱う企業の方と情報交換できるのはかなり貴重です。何か困っていることはないか?最近どんなことをしているか?いろいろと話していると,他のラボでのトラブルシュートなども共有してくれるので,とても勉強になりました。さらにノベルティいっぱいくれました。各企業いろいろ凝っています。
欧米では当たり前ですが,ブースで話した方は全てPhDホルダーでした。どんな研究されていたのか?今何されているのか?話がいろいろ弾みます。中には,PhD学生がreplacementとして企業で研究活動を行い,その一環で学会展示会で説明しているという人もいました。
学会運営事務局がスタンプラリーを準備していて,期限内に各ブースを回り全てのスタンプを集めると,アマゾンギフト£150が当たる抽選に応募できる!というものでした。これは!と思って気合を入れて臨みましたが,残念ながら当たりませんでした笑。まぁまぁ本気で狙ってただけに悔しいです!笑
懇親会~想定外のPrizeを受賞!~
さてさて,学会のメインイベントと言えば何と言っても懇親会(Conference Dinner)ですね。BCAの懇親会は最終日前夜の4/13にMarriot Hotel in Leedsにて開催され,料理は着席フルコースの提供,中央にはDJとダンス・スペースがありました。ウェルカムドリンクにプロセッコ(もしくはオレンジジュース),各テーブルには赤白ワインというお洒落な感じでした。
食事がひと段落したら,お待ちかねのPrize発表でした。BSG,CCG,PCG,IG,YCGの各グループごとに発表がありました。最初は,BSG 1st PrizeであるBSG David Blow Poster Prizeの受賞者が発表され...
え...?まさか…自分の名前が呼ばれた…!?
ノミネート(というかエントリー)していたこと全く知らず,最初何が起こっているのか理解できなくて動揺しながらも周囲に拍手をされてAwardを受取りに行きました。渡されたのは賞状ではなく,謎の箱に入った石と木材。かなり重さもある。これは一体...!?
Blue John crystalのトロフィー(詳細はこちら)
よく見ると歴代の受賞者の名前が刻まれていて,1年後のBCA meetingで返却するというものでした。2012年にはResearch Complexの方(現在はグループリーダー)が受賞されていたり,今回Hodgkin Lecture Prizeを受賞されたProf Elspeth Garmanの名前もありました。ここに自分の名前を入れられると思うとなんだか不思議な気持ちになります。
続いてスポンサー(Calibre Scientific)によるBSG Group Poster Prizeの発表があり,再び私の名前が呼ばれ運営側が先のPrizeを渡し間違えたのではないか?と混乱し始めて会場がざわつきました。本来はPrizeが一人に複数渡らないように調整されているようなのですが,どうやら何か手違いがあり結果的に2つのPrizeで私の発表が選ばれていたようです。想定外すぎてびっくり。
懇親会翌日の朝,スポンサーであるCalibre Scientificの方と展示会場で会うことができて『君のポスターを選んだんだよ!』と言って頂き,感謝の意を伝えたのと同時に『一体何があったのか?』と尋ねましたが,結局よく分からないみたいな感じでした。懇親会に参加されていた他の企業の方にも声をかけて頂けました。あのハプニングがあったからでしょうか,良くも悪くも目立ってしまいました。
後日学会運営事務局から連絡があり,cash prizeも振り込まれるとのことです。本当にありがたい。
研究所からは恐れ多いことにプレスリリースを出してくれました。
最後に...
というわけでポスター発表の予定はなかったのですが,せっかく番号がアサインされたからと思い持っていったら,期せずして2つのPrizeを頂くことになりました。発表内容自体は過去の成果であったとしても,イギリスに来てゼロから始めた新しい研究プロジェクトで,論文出せて,学会で発表出来て,こうして新しいコミュニティの中でPrizeを取れたと思うと,何だか感慨深いものがあります。
これまで参加した国際会議とは違って英国の学会であったため,やはり英語の面でまだネイティブ(に近い人を含む)の中に溶け込むには程遠いし,研究発表自体や関連する話は出来ても,それだけではコミュニティに入ることは難しいと痛感しました。コミュニケーションスキルが圧倒的に足りていないので,そこは何かしら普段から意識して改善していこうと強く感じました。
さてさて,これを機にBCAのメンバーになりました。しばらくはメンバーシップを維持しようと思っていますが,今後会議にどれくらい参加できるのかは不透明です。ただし,BSG David Blow Poster Prizeで受け取ったBlue John crystalは,翌年のBCA Mettingで返還する必要があります。すなわち,今回Harwellに持ち帰ったので来年の開催地まで持っていくのが私の義務ということになります。というわけで,ぜひ来年もこの会議に出れるように準備しようと思います。
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