【日記】夏の宵と、シェヘラザード。
夜は、人をいつもより、おしゃべりにしてくれる。
『千夜一夜物語』など、長く愛される物語が
生まれたのも、夜だった。
私がペンをとって文章を書きはじめるのは、
決まって夜遅く。
寝ようとしたらいきなり小説やエッセイなどの
ネタが見つかるのだ。
「このネタ、いいかも。
今書き残さないと忘れちゃうかも」
「もしかしたら、このネタから想像がパン生地
みたいに膨らんでいって、もっとおもしろくなる
かも?」
といった感じで、ほとんど衝動的に言葉にしはじめるのである。
言葉は、なんだか小麦粉みたいだなあと感じる。
同じ小麦粉でも、料理の仕方や加える食材を
変えればいろんな食べものをつくることができる
から。
言葉もまた、組み合わせ次第でさまざまな姿に
変化していく。
水を入れてこねた生地に酵母を入れて発酵させるとパン生地ができる。じゃあ言葉の場合はどうかというと、夜の空気と闇をたっぷり加えておけば、発酵を経なくてもいつの間にか作品ができあがる。
そんな、言葉と夜の空気と闇を混ぜたパンのようなものを誰かにみてもらったらおもしろいかなと思ったから、私は「同zineサークル シェヘラザード」を立ち上げた。
サークル名の「シェヘラザード」は、先ほども出てきた『千夜一夜物語』の登場人物。若い娘を招いては命を奪っていた、シャフリヤールという王のもとを訪れ、毎夜、千の物語を語り続けた女性である。
彼女は、毎回、登場人物もシナリオも異なる短編
小説のような話を語っていたとされている。
そう聞いたときに、ふと、「そうか。確かに、今まで出会った人たちもみんな異なるストーリーを持っていた」と気づいた。
作品をみせるというより、「異なるストーリーを集めて、語り継いでいきたい」という思いの方が強かったかもしれない。
シェヘラザードはひとりだけじゃない。
みんなのなかにも、きっといるはず。
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