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レジリエンス-個・組織・社会の回復と成長-

本日のテーマは、「レジリエンス」です。
この言葉、耳にしたことがあるでしょうか。それは、何の分野でしたか。
今回のnoteでは、レジリエンスは非常に幅広い概念であることについて、触れていきたいと思いますが、順を追ってみていくことにしましょう。

ここで、まず復習です。 

以前のnote「ストレスとは何か?」において、ご紹介したストレスモデルの図を再掲します。

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上図のうちの黄緑色の部分が、「個人要因」です。
「環境要因」と対比したときに、我々が生まれながらに、もしくは後天的に、「備えているもの」とイメージしていただけるとよいかと思います。 

「コーピング」に関しては、別のnote「3つのストレス対処法-コーピングの概念-」にまとめましたので、ご参照ください。
 本日は、「レジリエンス」にフォーカスしたいと思います。

●レジリエンスの概念。ストレスコーピングとは違うの?

ストレス概念と同じように、「レジリエンス」は、もともと「跳ね返す力」「回復力」といった現象や特性を表す、物理学分野の用語でした。 

さらに、荒廃してしまった土壌から再び草木が生え、環境や生態が回復する現象のことも「レジリエンス」と呼んだそうです。

こういった「レジリエンス概念」が、「人のこころの健康、社会適応のあり方」と関連付けられ、心理学の分野でも語られるようになったわけです。

 Masten ら(1990)は、「レジリエンスとは、困難で脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応する過程・能力・結果である。」といった包括された概念として、表現しました。

小塩ら(2002)は、「レジリエンスの状態にある者とは、このような困難で脅威的な状況にさらされることで、一時的に心理的不健康な状態に陥っても、それを乗り越え、精神病理を示さず、よく適応している者のことを指す。」と述べています。

宇佐美(2013)は、「レジリエンスは、回復という"結果を伴う"が、コーピングは、"結果を伴わない"認知的行動的対処努力である。」と述べ、コーピングとの違いを指摘しています。

ただし、両者の概念・研究動向には、非常に類似した点があります。 
それは、「未来志向」へと発展していく点です。

レジリエンスにおいては、単なる「回復」 だけではなく「成長」を目指す、といった捉え方、研究の流れがあり、コーピングにおいても、3つ目に台頭する「Proactive型コーピング」は、困難を「成長」の機会と捉えます。どちらも、未来志向へと展開していくのです。

同時代の研究というのは、同じ方向性を見出すものなのかもしれませんね。

さらに、私の好きなセリグマンは、「成長」からさらに発展させて、
『どうしたら幸せになれるのか?』
という問いを立て、well-beingの研究するようになります。(こちらは、またの機会に。)

ちなみに、心理学分野での研究としては、1970年代のホロコースト後、1990年代に紛争の続くイスラエルなどを中心に、サバイバー研究・レジリエンス研究が進みました。
1990年まで320件だった研究が、2000年には2千件を超え、2010年には1万件近くとなっています。

●なぜ、レジリエンスに注目が集まるのか?

どうしてなのだと思いますか?
私は、現代社会において、「困難」をより多くの人々が感じ、「困難の克服」への要請が高まっているからではないか、と感じています。
  
そして、「レジリエンス」は「困難を乗り越える」「成長する」といった文脈にあるからこそ、「不調からフラットへ」のみならず、「フラットからグロースへ」といった希望のある世界観であり、応用の効く概念であるためではないか、と考えます。

実施に、医療や心理学分野のみならず、教育現場、経済問題、環境問題、危機管理システムなどにおいても注目される概念です。 

●レジリエンスを整理しよう。

先にも記したように、応用が効くがゆえに、捉えづらさもあるものです。そこで、レジリエンスを理解するための一定の枠組みを知っておくことは、助けとなるかと思います。

それは、2つの大きな枠組みです。
・1つ目は、レジリエンスの前提となる「リスク」は何か?
・2つ目は、「回復」あるいは「良い適応」といった目的意識があるか?

ここを押さえておくと、レジリエンスが、組織・社会の文脈で語られようと、危機管理システムの文脈で語られようと、整理がつくと思います。

レジリエンスに関して一番伝えたいこと。

となると、どうすればレジリエンスを開花させられるのか?
そんな問いが浮かんでくるかもしれません。

研究者たちも、目下仮説検証しているようですが、平野(2016)によると、レジリエンスを導く要因には、個人のもつパーソナリティ要因(衝動コントロール・好ましい気質・共感性・ソーシャルスキル・自立性など)と、 環境要因(家庭環境・教師・情緒的サポートなど)とがあり、いくつかの要因の相互作用によってレジリエンスが導かれるといいます。 

個人的には、「自分の持つレジリエンスを信じられるか。」は、根っこにある重要な課題のように思います。

褒められる体験、小さな成功体験。

そういったものを積み重ねるうちに、
「なんとかなる!」「やってみよう!」という気持ちは芽生える。
レジリエンスが表現されるのだろうと思うのです。
ちなみにこの2つは、「幸せの4つの因子」の2つです。
あなたは、自分・組織・社会のレジリエンスを信じることができるでしょうか。

気づけば、2020年も半分が終わり、7月になりました。
今月もあなたに笑顔がありますように。

 参考文献 
『レジリエンス研究の動向・課題・展望―変化するレジリエンス概念の活用に向けて―』 佐藤 暁子 ・金井 篤子 著
『最近のレジリエンス研究の動向と課題』 齊藤 和貴・岡安 孝弘 著

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