これから来る!? "みなぎる"成分 「NO」 とは ~硝酸塩編~
NO(エヌオー(Nitric Oxide):一酸化窒素)は血管などの組織を柔らかくし、栄養素の供給が高まるなど様々な働きを高めてくれます。いわば "ブースター" のような役割を果たしてくれます。NOは食品に含まれる栄養素ではなく、体内で作られる成分です。1998年のノーベル医学・生理学賞で受賞理由となったのがこのNOの発見で、比較的新しい科学分野です。現在、健康・スポーツ分野の両分野で注目されています。
健康分野では Raubenheimerらが複数の観察・介入研究の結果をまとめ、硝酸塩は心血管系の保護作用(心筋梗塞などの予防効果)があると2019年に報告しています ¹⁾。
スポーツ分野ではNOによって酸素やエネルギーになる糖などを、筋肉によりスムーズに届けられやすくなるため、うまく活用できればパフォーマンス向上の期待もできます。このサプリメント効果はIOC(国際オリンピック委員会)でも認められています ²⁾。
NOの仕組みを例えると、2車線の道路を必要な時に3車線にできるようなものでしょうか。途中で渋滞してしまっては、必要な栄養素を必要なタイミングで届けられません。NOはあらゆる栄養素の価値を高めるポテンシャルを秘めています。
元となる栄養素は?
前述のようにNOは食品に含まれる栄養素ではなく、体内で作られる成分です。そのため、作るための材料となる栄養素を食事で摂らなければなりません。その材料は2つあり、1つが硝酸塩・亜硝酸塩と呼ばれるもの。もう1つがアミノ酸のアルギニンです。今回は硝酸塩に絞ってお伝えしていこうと思います。
IOC(国際オリンピック委員会)が認めているサプリメントがこの硝酸塩で、マラソンで効果が期待できるのは硝酸塩とカフェインの2つのみです ²⁾。
海外ではよく「ビートルートジュース」という形で硝酸塩を摂るようにされています。これは製品名とかではなく「ビーツ」と言う野菜のジュースなのですが、そのビーツは凄い色をしているのが特徴。それがこちら。
何も加工しないでこの色です。まな板もピンク色に染まってしまう位です。あまりスーパーで見かけることもないビーツですが、イモのような皮で覆われ、触感・味は大根に似たような感じがしました。ジュースやスープにするのが一般的なレシピのようですが、私はサラダにして頂きました。
噂では「味さえ問題無ければ…」と聞いてしたビーツですが、全然嫌な味もしませんでした。むしろ、シャキシャキして美味しかったです!
(ちゃんと切れてないよ、と言わないで…(;'∀'))
硝酸塩はビーツ以外の食品からも摂れますが、その摂った硝酸塩は体内を循環しながら亜硝酸塩、そしてNOに変わります。硝酸塩は一度消化管で吸収されてから再度唾液中に分泌され、口腔内の細菌の働きで亜硝酸塩になります。亜硝酸塩からNOへの変化はまだ未解明な部分ですが、低酸素・酸性条件下で多くのNOが作られます ¹⁾。そのため、ランニングのように大量に酸素を消費したり、乳酸で酸性化しやすいハードなスポーツには相性が良いと言えます。
実際に2021年に発表されたシステマティックレビューでは「硝酸塩の補給が持久スポーツのパフォーマンス向上」を示唆しています ³⁾。
複数の研究でも数日間の継続摂取によって運動パフォーマンス向上が示されていることからも ⁴⁾、硝酸塩はサプリメント的というよりかは、日常的に "必要な" 栄養素の1つとして捉えてもよいと思います。
何から摂ればいい?
研究ではよく「硝酸塩摂取=ビートルートジュース」という形で表現されますが、それ以外でも硝酸塩は摂れます。以下に食品と硝酸塩の含有量をまとめました。含有量は左列が Jonvikらの論文 ⁵⁾、右列は2020年版の食品成分表 ⁶⁾からのデータになります。
食品名:硝酸塩含有量 ()内はデータの範囲 単位 ㎎/100g
アスパラガス:4.0 (0~10.0) 微量
さやいんげん:52.5(21.0~100.0) 微量
トマト:9.5 (0-37.0) 0
カボチャ:3.5 (0-11.0) 微量
ブロッコリー:27.5 (6.0–100.0) 微量
人参:15.0 (0-43.0) 0
ネギ:57.5 (25.0-105.0) 微量
ジャガイモ:17.5 (0-35.0) 未掲載
バナナ:5.5 (2.0-10.7) 未掲載
ビーツ:125.0 (35.0-258.0) 300
パクチー:325.0 (229.0-490.0) 300
レタス:80.0 (26.0-186.0) 200
ほうれん草:180.0 (22.7-336.0) 200
ルッコラ:420.0 (78.0-629.0) 400
セロリ:90.0 (51.5-119.3) 200
大根:210.0 (172.0-251.0) 根100・葉200
アスパラガスやトマト、ブロッコリーなど健康に良いと言われて馴染み深い野菜が少なく、レタスや大根など「意外!」と言える野菜に多かったりするのが硝酸の特徴です。硝酸塩は80%以上を太字の野菜から摂取しているので ⁷⁾、「硝酸塩を摂ることも心掛けないと」と思った時には、濃い緑色をした葉物の『緑葉野菜』をキーワードとして覚えておけば、概ね十分な量を摂取できるでしょう。
数値のバラツキが多いのも遺伝子・土壌・天候・貯蔵条件によって異なるためで ⁸ ⁹⁾、これは他の栄養素でも同じことが言えるでしょう。
鉄分補給になる野菜の代名詞とも言えばほうれん草ですね。ランナーの方であれば、どなたもご存知かと思います。硝酸も高い含有量を誇るところからも「ほうれん草、強し」としか言いようがありません。アニメ「ポパイ」も笑い話ではないのかも…
発がん性のリスクは?
勘の鋭い方はお分かりだと思いますが、硝酸塩から作られる亜硝酸塩はハムなどの加工肉の発色剤として利用されており、発がん性のリスクが懸念されています。しかし、実際にヒトにおけるがんとの関連は実証されていません¹⁰⁾。
もし多少のリスクがあったとしても、NOとしてのメリットの方が上回っているのが現実的な考え方かと。研究も盛んに行われている所以だと思われます。
とは言え、加工肉ではないと摂れない栄養素があるか?と言うと「う~ん」といったところでもあります。塩分や脂肪が多いので "ほどほど" にして、肉・魚で料理できるようにしたいですね。
健康×トレーニング=最高の自分へ
ただでさえ忙しい日常の中、ランニングをするだけでも大変なことです。そのご褒美にアイスやビールも嗜みたいものですよね。SNSでも 「#走ったらゼロカロリー」で "暴飲暴食" してしまったりする方もチラホラ。まぁ、私も時たましています(笑)。ご褒美無くして、辛いトレーニングをこなすことはできませんからね。
でも、普段は健康に気遣った食事、特に野菜を食べることもある意味体力向上のための "トレーニング" になるのでは?
今回ご紹介したNOのことだけでなく、健康作り、自分磨きに欠かせない栄養が少しでも充実していくきっかけになれば嬉しいです。
参考文献
1) Raubenheimer, Kyle et al. “Effects of dietary nitrate on inflammation and immune function, and implications for cardiovascular health.” Nutrition reviews, nuz025. 30 May. 2019,
2) Maughan, Ronald J et al. “IOC consensus statement: dietary supplements and the high-performance athlete.” British journal of sports medicine vol. 52,7 (2018): 439-455.
3) Gao, C., Gupta, S., Adli, T. et al. The effects of dietary nitrate supplementation on endurance exercise performance and cardiorespiratory measures in healthy adults: a systematic review and meta-analysis. J Int Soc Sports Nutr 18, 55 (2021).
4) Van der Avoort, C.M.T., Van Loon, L.J.C., Hopman, M.T.E. et al. Increasing vegetable intake to obtain the health promoting and ergogenic effects of dietary nitrate. Eur J Clin Nutr 72, 1485–1489 (2018).
5) Jonvik, K. L., Nyakayiru, J., van Dijk, J., Wardenaar, F. C., van Loon, L. J., & Verdijk, L. B. (2017). Habitual Dietary Nitrate Intake in Highly Trained Athletes, International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 27(2), 148-157.
6) 文部科学省, 日本食品標準成分表2020年版(八訂)
7) Hord, Norman G et al. “Food sources of nitrates and nitrites: the physiologic context for potential health benefits.” The American journal of clinical nutrition vol. 90,1 (2009): 1-10.
8) Pennington J. Dietary exposure models for nitrates and nitrites. Food Control 1998;9:385–95.
9) Anjana SUIM, Abrol YP. Are nitrate concentrations in leafy vegetables within safe limits? Curr Sci 2007;92:355–60.
10) Weitzberg E, Lundberg JO. Novel aspects of dietary nitrate and human health. Annu Rev Nutr. 2013;33:129–159.
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