「わかりやすさ」というジレンマからの脱却
ネットがこれだけ台頭すると、人は「わかりやすさ」を一番に求めるようになる。
つまり時短。
いかに最短で自分の知りたいことを得られるか、ということをインターネットに強く求める。
養老孟司さんの言葉を借り
「AIが人間に近づいているのではなく、人間がAIに近づいている」
とここで書いたように
数字で全部を判断できるのが、究極のスピード感なのだ。
合コンするとき「20代」「看護師」「かわいい系」という曖昧な伝承で出欠を判断するより、「美人度92」と数値化されていたほうが、出欠の回答速度は段違いに早くなるに違いない。
でも、美人度を数値化することなんて、できるのだろうか。『世にも奇妙な物語』でそんな話もあった。
顔だけならできるかもしれない。
でもスタイルの問題もある。
服装や品といった、センスや素行の問題もあるし、そもそも性格が最悪だったら元も子もない。
待てよ。性格の良し悪しはどこで決める。
というより、結局は自分と合うかどうかではないのか。そしてその自分と合うかどうかを、どのようにして数値化するのか。
それが普通に行われているのが現代だ。
食べログでは、味覚という千差万別の価値観を、不特定多数の人間によって十把一絡げに数値でジャッジしてる。
フォロワー数や登録者数で、人間的価値までジャッジされる。
この動画の中で「俺フォロワー今50万人なんだけど」と話したときの学生たちの反応はすごかった。
インターネット上でこの数値を伸ばすためには、「わかりやすさ」が不可欠になる。
なるべく短く、なるべく早く判断したい。できれば数値で示して欲しい。だからこそ、「わかりやすい」ものに数値が集まる。
その反動もあってか、昨今は「わかりにくいもの」にも一部の注目が集まるようである。
例えば、落語であり、本。つまり、理解するのに「一定の時間と教養」を必要とするものだ。
落語なんかは、現代にもっとも適さないフォーマットであるはずなのに、その人気は低迷するどころか、今や様々な方面で落語家の活躍は著しい。
Kindleや電子書籍があるにも関わらず、本屋には大量の書籍が並び、未だ客足が絶えない。
もちろん落ちている。人口動態の変容も影響し、いずれも消費活動は落ちているが、僕がいた音楽業界に比べれば、本の減退速度はかなり緩やかだ。
おそらくこれは、「簡易のインフレ」ではないかと思う。
インターネットのおかげで、どんなものでも簡単に見聞きすることができる世の中になったため、教養の深さや理解度など、なにがどれだけ身体に染み込んでいるかということが、希少な人間的価値とされるようになってきているものだと思われる。
その証拠に、東大王をはじめ、テレビではクイズ番組が根強い人気を誇っている。
池上彰さんや林修さんなどの教養番組は絶大な人気を誇り、中田敦彦氏の教養系チャンネル『YouTube大学』は、カジサックをあっという間に抜き去った。
漢字の読み書きなんてPCやスマホで完結できるのに、それを解答できる人間が高く評価される。
大ベストセラーとなった養老孟司さんの『バカの壁』は、武田鉄矢さんも「一度読んだだけではわからない」とお話されている。
ゴダールの映画は難しいと言われる。
ただわかりにくいだけのものに人は惹かれない。
しかし、本物と称されるものの中には、わかりにくさが多分に含まれていることもある。それは、それを表現するために、安易なことができなかった結晶ともいえる。
それが、ただのわかりにくい駄作なのか、見事な表現技法と感じるかは、本人の素養や教養が肝となる。
だからこそ人は、教養の深さを求める。
しかし一定の教養を得るには、人生はあまりにも短すぎる。
イーロン・マスクや孫正義然り、常人のそれとは思えないような勉強量に到達するほど、我々には暇がない。
我々凡人は、ゲームアプリに課金したり、アダルト動画を貪ったり、人を妬んで匿名で罵ったりと、無駄な時間を費やすことに忙しい。
であれば、せめて凡人が今以上のささやかな幸福を得るために、わかりやすいものばかりに飛びつくことなかれ、扉の向こう側に行くための鍵を手にしよう。
若いうちはいいかもしれない。本能の赴くままに、目先のものに飛びつき動くことこそ、若さがもたらす原動力だ。
「童貞ほど女性の好みにうるさい」という持論がある。女性を知らないから、理想ばかりが肥大化してしまうのだ。
しかし実際に女性を知ると、外からでは見えなかった意外な魅力を次々と発見できるようになる。
いい年して駄菓子ばかり食べていてもしょうがない。
子どもの頃わからなかったウニの美味しさや、お酒の楽しさ。
それがわかるようになったのは、これまでたくさんの食事経験を経てきたうえでの賜物であり、それは芸術やエンターテインメントや女性の魅力までも、全て同じことがいえる。
「子供のような無邪気さを持った大人」ならいいが、「子供のような無邪気さを持った子供」では笑いようがない。
僕はそろそろ40歳になる。もっともっとバカな「大人」を目指して、日々精進していく。
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