小話エッセイ/兄の愛読書が「赤毛のアン」であると知ったとき①
想像していただきたい。
20歳、ニキビでお悩み、彼女いたことナシの実家暮らし、
京大文学部に現役合格したくせに突如休学、
東大医学部に入り直すと宣うイカレ変人であった兄の、
参考書まみれの自室の本棚の特等席(目線よりもちょっと上のど真ん中。ブックエンドで仕切ってある)に、
可憐な赤い背表紙の「赤毛のアン」シリーズ文庫本がズラリ並んでいるのを目撃した妹の心境を。
――はあ? 赤毛のアンて。
かつてKOEIのファミコン「三国志」を対戦モードでやりたいがために、
まずは吉川英治の三国志全8巻読了を妹に強要したあの兄が。
一日一局将棋の手合わせを妹に義務づけ、
しかも指し手が気に入らないといって
盤上の駒を脳天に直撃させてきたあの兄が。
ーー赤毛のアンて。
長年の虐待(?)に加え、知能でも差をつけられてスッカリひねくれた妹・・つまり私は、
――キモっ。
恥ずかしながら、そう思ってしまいました。
――もしかして、ロリコン?
そんな言葉さえ頭をよぎる短絡さであったのです。
それにしても、と、のけ反った姿勢を戻して考えた。
以前は三国志が占めていた特等席の場所を譲り渡すとは。
引き出しの奥に隠してるエッチな本とは随分扱いが違うやんけ。
好奇心で赤い背表紙に手を伸ばすも、1ミリのズレなく揃えられた本たちに、ちょっと尻込み。
なんだか簡単に触れてはいけないような気がしたのです。
結局は何もできずに兄の部屋を後にして、母に告げ口(?)してみます。
「お兄ちゃん最近『赤毛のアン』読んでるみたいやで」
「ああ、知ってる」
「いつからメルヘンに鞍替えしたんや。あんなん女子どもの読むモンちゃうんか」
女で子どもであった、当時の私の「赤毛のアン」のイメージはこんな程度。
今でいう「おジャ魔女ドレミ」などの幼児向けアニメと大差ない認識でした。
・・と、そうこうする内に兄はまたしても突飛なことを言い出した。
「今度ちょっとカナダに行ってくるわ」
仮面浪人中にも関わらず、なんと単身でアンの舞台・カナダのプリンスエドワード島へ行くと言い出したのです。
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