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02 つるえさん

『02つるえさん』
0823文字で
おやすみなさいに繋がることを書こう。

女性と静かな部屋で2人きりで過ごしたのは、 2014年のクリスマスイブのことだ。

部屋は薄汚れた白。
地域に根ざした古い病院の一室で意識なく彼女は下顎を大きく動かしていた。

彼女の名前はつるえさん。99歳。
1ヶ月程の入院の果てに、
急に危篤になったらしいと
ケアマネジャーが連絡をくれた。

それは夕方の話で仕事も落ち着いたので、

千代紙で折り鶴を折り、
それをベースにクリスマスカードを作る。
そうそう…つるえだけに、ね。 

実は1人で折り鶴を折ったのははじめてのことだった。

デイの管理者と利用者として出会った時には、
もう相当耳は遠かった。

迎えに行くと、玄関の中から、行きたくないなぁーと大きな声で、不満を漏らしていた。

けれども、とにかくユーモアとサービス精神の塊みたいな人で、こちらの姿を認めると、満面の笑みで歓待をしてみせ、手を取りキスをする。

そんな人だから、周りのお客様にもスタッフにも男女問わず愛されていた。
(ご本人、割と大きな声で悪口も言うのだけど)


クリスマスカードをもち、病室につくと、
ご家族も病院の職員も誰もいない。

1人と1人、男と女。
とりあえず床頭台にクリスマスカードを置き、
椅子に座る。

つるえさん、クリスマスイブすよ。
2人で、こんなところで何してんすかねぇ。

もちろん、答えは返らず中空に浮いたまま。

少しふっくらしてみえた。浮腫だ。
心臓はそもそも強く無かったはずだから。

10分程、居ただろうか。
下顎呼吸のつるえさんに、
「もう、いいと思いますよ?
ちょうどいいところで、
ゆっくりしてくださいね」
そう言って病室を出た。

結果、彼女は翌日早朝に息を引きとり、
僕は、亡くなる最後に会った人物となった。
(病院職員以外でね)

後日知ったが、ご家族も間に合わなかったらしいので、マジで選ばれてるやん。

次はもっとロマンチックなところにいきましょうね、つるえさん。
とりあえず、またどこかで。
おやすみなさい。

(以上0823文字)

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