新刊『氷室冴子とその時代 増補版』のお知らせ

2023年は氷室冴子さんの没後15年です。その節目にあわせて『氷室冴子とその時代 増補版』(河出書房新社)が発売になりました。

80~90年代、少女小説を中心に活躍し、再評価の機運も高まる作家・氷室冴子。少女小説研究の第一人者が丹念な調査と取材から、その全貌に迫る。作家や編集者に追加取材を行い増補刊行!
少女小説の革新、「女性作家」としての活躍と葛藤、新たなジャンルへの挑戦――80~90年代、エンタメ小説の最前線で戦い続けた、
いま、最も再評価すべき作家の全貌に迫る。

増補版の目玉のひとつは、氷室さんの各社担当編集者への追加取材です。『銀の海 金の大地』第二部に関する新証言をはじめ、書籍化されることのなかった「誕生石」シリーズと直木賞と氷室冴子に関するエピソード、復刊されて話題を呼んだ『いっぱしの女』の新旧担当者へのインタビュー、コバルト文庫編集者が語る加筆版「月の輝く夜に」による再始動とその矢先のがん発覚など……。一般文芸側の証言を増やしたことで、少女小説やその書き手である氷室冴子が正当に評価されなかった状況を再認識することができました。そしてこの問題は、結局のところ今も解消されていないと感じます。先日放送されたNHKの氷室冴子番組で、使用された私のコメントがいかに男性たちが少女小説や氷室冴子を軽視していたのかを指摘したものだったにも関わらず、男性MCが作品を読んでいないと明言して作者への関心や敬意が感じられない的外れなコメントをしていました。この構図こそが私が指摘している問題点なのです。『氷室冴子とその時代 増補版』は氷室冴子ファンや少女小説に関心のある層のみならず、男性を含めた幅広い読者に届いてほしいと願っている一冊です。フェミニズムの文脈でも、氷室冴子と少女小説にまつわる問題はもっと語られてもよいはず。

他にも作家の若木未生さんと桑原水菜さんにもお話をうかがい、氷室さんにまつわる思い出を託していただきました。若木さんが語ってくださったエピソードは、いろいろな意味で心に痛みを呼び起こします。ともにコバルト文庫という場所で書き続けた作家であるからこそ語れるお話です。桑原水菜さんには現代演劇をテーマにしたシリーズ『赤の神紋』をきっかけに、氷室冴子さんとお芝居をご一緒した思い出をお話いただきました。エピソードから浮かび上がる氷室さんの好奇心や演劇への情熱、そして世代を超えたコバルト作家の交流に胸が熱くなりました。他にも氷室さんのご友人だった児童文学評論家の赤木かん子さんにも取材をさせていただきました。

『氷室冴子とその時代 増補版』は9月頃に電子書籍版も発売予定です。電氏派のみなさんはもう少しお待ちください。なお、小鳥遊書房版にだけ掲載の資料もあるので、元本をお持ちの方もぜひお手元に残していただけると嬉しいです。萩尾望都の『トーマの心臓』を論じた附録「少女マンガの可能性」(大学時代に氷室さんが執筆したテキスト)の手書き原稿画像、そして元本p.343とp.344ページ収録の闘病中の氷室さんの写真は増補版には収録されていません。氷室さんの貴重な資料は小鳥遊書房版のみの掲載なので、あわせてお読みいただけたらと思います。

『氷室冴子とその時代 増補版』の発売にあわせて、朝日カルチャーセンターでオンライン講座を開催するのでこちらもお知らせを。日時は8月5日(土)18:30~20:00で一週間のアーカイブあり。6月末まで【WEB割】で安くなっています。有料のクローズドな会なので、ここではより踏み込んだ話をするつもりです。ご参加をお待ちしております。


MCにまつわる苦言を先に書いてしまいましたが、NHK北海道で放送された「没後15年 氷室冴子をリレーする」の番組本編と特設サイトは見どころたっぷりです。こちらは北海道限定の放送でしたが、NHK+で全国から視聴可能です。全国放送も決定しているので、情報解禁をもう少しお待ちください。私も出演者の一人として取材をしていただき、特設サイトでスペシャルインタビューも公開中です。

他にも『スピン』第4号の少女小説特集や、氷室冴子も取り上げている3月に出した『少女小説を知るための100冊』(星海社新書)についても近日中にエントリーをアップする予定です。増補版とはいえ三ヶ月間隔で新刊を出すのはスケジュール的に厳しく、諸々告知が追いついておらず申し訳ありませんでした。これからはもっとこまめにnoteを更新したいと思います。


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