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おかきを食うおじちゃんを見て出した結論──人生とは○○。

コンビニに入った。
イヤリングをジーンズのポケットに突っ込んだまま家を出てきてしまったのでつけようと思い、イートインスペースで鞄を置いた。

ひとりの男性が、今買ってきたと思われるスナック菓子の袋から、しょうゆ味のあられ的なものをひとつ、またひとつ、つまんでいた。
この、仮に男Aは、年齢は60代だろうか、例えるなら、どこに行くにもトレパンに煙草、みたいな、私の住む田舎あるあるのおじちゃんである。

男Aのすぐ近くにコーヒーマシンがあり、30代くらいの男Bがいそいそとコーヒーを入れていた。二人はワイワイと話している。

B「父親が食いてぇって言うから。朝までねばったけど5匹だったっす」
A「メスか?」
B「みんなオス(笑)」
A「ダメだねがぁ~(笑)」

そして男Bはコーヒーが出来上がると、「おつかれさまっす!」と駆け足で車に乗り込んだ。

冬の裏日本で、オスだのメスだのの話題と言ったらハタハタしかない。会話の余韻でニヤけながら、相変わらずひとりあられを食っている男Aに話しかけてみた。ハタハタですか?

A「んだぁ。朝までいて5匹だど(笑)。北浦まで行って5匹(笑)。して皆オスだっつうもの(笑)。」

北浦とは、秋田県男鹿市北浦の港のことで、昔からハタハタ漁の盛んな町だ。冬に漁が解禁になると「北浦産」を売りに来たり、逆にわざわざ港まで買いに行くハタハタ好きも少なくない。そしてオスよりも、ブリコ(卵)を抱えたメスが珍重される。

男Aによると、男Bはコンビニのすぐ近くにあるパチンコ屋の従業員で、今日は休みなのだそうだ。つまり男Aはパチンコ屋の常連ということらしい。私たちは少しの間、今年のハタハタのとれ具合いや、男Aの子ども時分、ハタハタが捕れすぎて弁当にまで入っていたこと、秋田県人はなぜこうもハタハタに夢中なのか、など話した。

そして男Aによると、男Bは朝までハタハタ釣りでねばった後、これから車で郊外のドッグランに行くらしいという。

A「ドッグランだどや。優雅だぁ~。」

優雅だぁ~、と私も応える。が、内心は全く釈然としないのである。
相変わらずおかきを食う男Aはドッグランをちっとも羨ましく思っていなさそうに見える。休日を充実させるべく走り回っているよりも…そんなことよりここで着の身着のまま、ぼんやりおかきを食っているほうがよさそうに見える。男Aは、ひとりでいるときも誰が来ても、変わらずこんな感じなんだろうと思われる。

イヤリングはとっくにつけ終わったのだが、まだ位置が決まらないフリをして耳を触りながら、少し考えた。窓の外を─そこは単なる駐車場であるが、焦点のぼけた目で眺めながらまだおかきを食っている男Aを見て考えた。
優雅とは何か。人生とは何か─。

結論はすぐに出た。

人生とは、

、、、

なんでもない。
全くもってなんでもない。

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