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ドイツ鋼鉄奮闘記(11)

「ドイツ鋼鉄奮闘記」は2005年2月から翌年4月、CDチェーン店すみや(現在は TSUTAYAの一部⁈)の月刊フリーペーパー「METAL ON METAL」に連載したコラムを一部加筆、修正してまとめた連載エッセイです。

METAL ON METAL Vol.34 
2005.8.25号

 今月(7月)18日は私の誕生日。気がつけばもう31歳、人生あっという間です。

 そしてっ、来月、8月には、遂にあの世界最大メタル・フェス Wacken Open Air(ヴァッケン・オープン・エア) に出演します!それも、アジア人女性としては初めてです。
 14歳で世界でメタルをプレイしたいと思ったあの日から・・・長かった〜!

 ですが、その前に、7月に予定されていたチャリティ・フェスティバルは、急遽イベント自体がキャンセルされました(涙)。代わりに 7月30日に METAL BASH というイベントへの出演が決定。ライブに向けて日独混合の4人のメンバーが集結しました。
 日本人組はアルバムでもベースを弾いてくれたMARIと長年の友人でもあるギタリスト SATOKO、ドイツ人組はハンブルクに来てから知り合った 女性ギタリストのジュリア、オーディションで決定したドラマーのアスガルド。
 一ヶ月で全てを形にしないといけないので、今月は何かと忙しくしています。

 まず7月8日にMARIとSATOKOが日本からハンブルク迄やって来て(格安フライトだったので30時間程かかったらしい😅)、私のアパートで3人の共同生活が始まりました。部屋はそんなに広くないけど、狭い家に慣れている日本人同士、玄関にMARIのエアベッド、キッチンにSATOKOのエアベッドを並べ、なんとかやっています。私一人、正規のベッドで寝て申し訳ないけど…。

 そして、この共同生活の中、音の方だけじゃなく、なんと、私たち日本人3人でステージセットまで手作りしております。
 歌舞伎の演出方法の一つ、"振り落とし"を利用したセットを作りたかったのですが、ドイツ人スタッフ達に説明しても、誰も理解できない & 理解できても「そんなものはドイツに売ってない」「ドイツでは制作不可能」の一点張りだったので、「ほんなら私らで作ろ!」と。3人でホームセンターで色々買い込んで、自分たちで制作することにしたのです〜。(写真は全部で3セット作った振り落とし幕のうちの一つ、SATOKOと私 ▼ )

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 ちなみに、私、今まで孤独で語り合う人がいなかった反動か、朝から晩まで毎日語りまくり(笑)。まぁ、舞台装置作りとか、ちゃんと仕事はしておりますよ。でも、二人とも私の喋り相手をするのに、相当疲れてるかもしれません。ごめんやで。

 それにしても、こうして皆で一緒に何かを作り上げるのって、やっぱりとても意義がありますね。ジュリアやアスガルド、その他のスタッフ達も、それぞれがベストを尽くして同じ目標に向かって頑張っています。
 ライブへの意気込みが強ければ強いほど、お互いに苛立ちを感じる瞬間も出て来るし、文化の違いのせいで、うまく行かないこともあるけどね。

 あ、「文化の違いのせいってどんなこと?」って思われるかもしれませんね。

 例えばね、日本なら全てが前もって予定され、皆がちゃんとその全体プランに合わせるでしょ。だから、なんでも実際にプラン通りに進行する。
 でも、ドイツでは本当の本当にギリギリになるまでプランが決定しなかったりします。
 日本なら「あうんの呼吸」で調整できそうなことも、ドイツでは各人が自分の希望を言いまくるので、いちいち皆でじっくり調整しないとダメなんですよね。だから、プラン立てるのにやたら時間が掛かってどんどん先送りになるし、やっと決まったと思ったら、これまた突然誰かが(全体プランへの影響など考えずに)急にキャンセル……。責任感という言葉を知らんのか〜!
 今月のチャリティ・イベントの急なキャンセルも、ある意味、ドイツって感じ。日本だったら、こんなに急にイベントそのものがキャンセルされたりはしないはず。
 おかげで、私たち日本人3人組は(イラチな大阪人性格のせいもあるけど)先週くらいまでかなり参ってました。

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 それにね、日本人って体が小さいし顔も子供っぽいし、それで、舐められるというのかなぁ。世界的に有名なロック・バンドが殆ど欧米勢で、日本勢がほぼ皆無なせいもあるかもしれないんですけどね…。(2021年現在は、日本のロックバンドの海外認知度も上がったな〜と思います。でも、2005年当時は本当、誰も日本のバンドなんて知らなかった!)

 ドイツ人達に「日本人の君たちにロックやヘヴィメタルがわかるはずないんだから、こっちの意見に従いなさい」みたいな空気で接されるというか……私たち日本人女子3人組はよほど強く主張しないと話を聞いてもらえない!!これも私達にはかなりきつかった。

 当時、ギターのSATOKOが、日本の父へ出したメールには、その大変さがよく現れてるので、ここにちょっぴり紹介しますね(▼)。

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昨日はリハーサルやってんけど、各個人の性格や民族性などバンドをまとめて行くうえでの問題が露呈して大変やった。

お父さんはドイツは凄い国やと思ってるみたいやけど、確かにそうなんやろけど、今回の渡独でつくづく感じるのは謙虚で誠実で器用で真面目な日本人の素晴らしさばかりやわ。サエちゃんに言われて初めて気付いたけど、こっちの人には提案とか質問とかが上手く伝わらないみたい。何か発言するとすぐに強制的な意見の様に受けとめられる気がする。日本人みたいに互いの言葉の真の意味を思いやる文化がないんかな。話し合いになると各々“自分”の意見の言い合いになって、誰も譲らないから何も決まらない。 

きっと日本人ほど他者を思いやる民族はおらんよ。散り行く桜を見て儚さを感じられる繊細な心を持った民族はいないよ。そういうとこが優柔不断とか言われるけど、それは相手を思いやるからこその事であり、何ら恥じる必要はない。日本人ほど頼りになる民族はいないよ。ほんまにそう思う。日本人はもっと美しき謙虚さに誇りをもたなあかんわ。
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 とまぁ、こんな感じでとにかく苦労しましたが、だんだん私たち日本人3人組の間で「日本流の対応をドイツ人に求めても仕方無い」、「まず異文化を理解し合おう」って話になって、それでジュリアとアスガルドと互いの文化を紹介し合ったり、そういう音楽以外の部分も含めてしっかり話し合うようにしました。結果、最近はお互いに以前より分かり合えるようになってきました。小さな国際親善かな?

 いや、ほんまに、日本人3人で言ってたんです。
 「外国人とバンド一つやるのもこんなにも大変で、誤解を解く話し合いを何度も何度もしなあかんねんから、政治とか外交の世界はめっちゃ大変やろうな」って。

 日本を出るまで、国が変われば、物事の考え方とか、こんなに違うんやって気づかなかったな〜。それも、一緒に仕事するのって、旅行や留学するのとは違う次元の体験やからね。本当、大変。
 そう言えば、MARIとSATOKOは、「この一ヶ月で日本の生活で言うと50年分くらいの経験をした気がする、私、老けてない?」って言うてたな😅 
 ドイツ滞在中に、MARIは人生初の白髪も生えてきたし。いや、ほんまに。

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 はぁ、それにしても、全てあるがままに受け入れられたら楽なんやろうなぁ。私たちがイライラするのは、無意識で彼らに日本人の常識を求めるからだし、彼らが私たちを誤解したり、私たちの反応にストレスを感じるのも、彼らが私たちにドイツ人の常識を求めるからでしょ。
 世界は本当に広い。私たちの国の常識が相手の国の常識とは限らないんよね〜。

 でも、とにかく私は今ドイツにいるのだし、この状況の中でのベストを信じて頑張るしか無い。予定通りに進まないことだらけで勿論不安はあるけど、もう出たとこ勝負!全てが予定通りの日本じゃ出せない勢いというか、火事場の馬鹿力みたいなんがでるかも……。
 まぁ、なんとかなるやろ!
 ありのままの私を見せられればそれでいいんや。ありのままのSAEKOが出来る最高のステージを届けられたら……。

真田:この号が出る頃にはフェスティバルも終了していますね。W:O:Aという大舞台でどんなパフォーマンスを披露したか凄く気になるところです!次号が今から楽しみです。メタル親善大使(!)SAEKOさんの頑張りにHail!

おまけ

 さて、こちらはその後、Wacken Open Air 会場で、プレス&メタリウムの皆と撮影した一枚です。
 上には書き切れなかったけど、他にも本当に色々大変なことがあったので、私たち3人は「日本人の根性見せたろ!」という気持ちで一致団結してました。
 だから、私は侍Tシャツ、私の右のMARIは水墨画風シャツ、一番右のSATOKOも、実はこのジャケットの下は竜馬Tシャツでした(笑)

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