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ライブパフォーマンスで陰茎を破壊してから復活後初めて射精した話

その日のセットリストは全11曲だった。

9曲目までは順調。いつも通りの素晴らしいライブ。
残り2曲完奏したら今日も素晴らしい酒を飲める。そう思っていた。

でも、この日だけは違った。
10曲目のAメロで後ろに転ぶ小芝居をした際、僕のギターが股間に落下した。一瞬宙に浮いたギターが縦になりダイレクトに衝突。一瞬何が起きたか分からなかった。大したことはないだろうと立ち上がろうとした時、激痛が走った。立てない。座り込んだまま演奏を続け、ドラムを睨みつけた。ドラマーはなぜ睨まれているのか分からないといった表情だった。僕も分からない。

しかし、いつまでも座り込んで弾いているわけにもいかない。サビがやってくる。僕が歌う部分がある。

「僕らファンシーアニマルパンクバンド」
とみんなで歌った後、
「それが何を指すかはまだ分からん」
と僕が歌う。自分で書いた詩だ。

アドレナリンの力を借り、なんとかマイクの前まで行くことが出来た。そして歌う。

「それが何を指すかはまだ分からん」

その時、僕は思った。
「陰茎を怪我することは指してないな」と。



やり切った。最後の曲までやり切った。
吐き気を堪えて物販をした。ライブは上出来だったらしく、お客さんからビールを頂いた。

お客さんが帰った後、あまりに青ざめた僕にメンバーがちょっかいをかけてきた。
「大したことないくせに心配されようと大袈裟だな。」
僕も少し頭にきたので、男メンバーをトイレに連れ込み股間がどうなってるか一緒に見ようじゃないかと提案した。メンバーはヘラヘラしながらついて来た。
僕もまだ自分の股間がどうなってるか分からなかったが、太ももに血が伝う感覚だけはあった。せえのでパンツを下ろした。完全に陰茎の形、色が変わっており、血も出ていた。
メンバーの態度が変わった。「ごめん」と言い、早く帰った方が良いと僕を帰らせてくれた。百聞は一見に如かずとはこのことだ。



家に帰った。救急車も考えたが、翌朝に病院に行くことにした。バイ菌が怖いので、とりあえずシャワーを浴びることに。

だが、シャワーを手に持って気付いた。

「これ、絶対しみる。」

絶望した。どうしても股間にシャワーを当てる勇気が出ずに、海老反りで90分間頭だけを洗い続けるという奇行に走った。しかし、いつまでもそうしてては埒があかない。頭を洗いながら「あっ、ミスったあ〜!」と1人で言い、髪の毛から滴る水を少しだけ股間の方に流してみた。身体中の力が入る。歯が軋む。水はどんどん股間へ流れ込む。ついに到達。痛い。痛かった。

なんとか、シャワーを終えたが次の問題がやってきた。尿意だ。ライブ後、お客さんにビールを頂いたため、ここで尿意がやってきた。初めて差し入れを恨んだ。ここもかなり色々あったのだが少し内容がショッキングなため割愛する。結論だけ言うと激痛だった。この激痛は2週間ほど続くことになる。これを見ている人は演者にお酒を差し入れする前に、陰茎の調子を確認することを推奨する。



翌朝病院にいった。初めての泌尿器科で3種類の薬をもらった。「これ、治りますか?」と僕は勇気を出して聞いた。希望が欲しかった。医者は「分からない」と言った。もしこの時、映画ランボーを観た後だったら殴りかかっていただろう。

ここからも色々あった。痛みから、トレードマークであるタイトなズボンが履けなかったり、性欲が一切なくなるどころか下ネタに対して嫌悪感を示すようにもなった。「モテたい」と思うことも、女性への興味も、何も無くなった。結婚も子供も諦めないといけないかもしれないと思った。けど、ここのくだりも割愛する。



2週間後、形状以外は全て復活したのだ。

性欲も戻った。モテたいとも思うようになった。あれ以来初めてオナニーをしたいと思った。でも怖かった。尿による痛みはもう無いけれど、事故後射精はまだ一度もしていない。昇天すると同時に昇天する可能性もある。発生するかもしれない痛みにただただ怯えていた。
しかし、いつまでもこうしてはいれない。2週間ぶりのオナニーを開始した。こんなにドキドキした事はない。AVを見ることもなく、妄想だけをオカズにした。恐怖が共存するため少し時間がかかった。やっとのことで快感が迫る。もうすぐ来る。来るんだ。来た。さあ、来た。

その瞬間、身体に電気が走った。

ここから先は約0.5秒の間で巡った思考の話だ。

その電気は左半身のみに走った。
擬音化するなら「ビリビリ」と「ピキーン」だ。
確信した。「半身不随になってしまった。」と。
陰茎丸出しで半身不随になった場合、救急車を呼べるのか。
呼んだところで、死んだ方がマシな恥をかくかもしれない。
どうしよう。
いや、待て。この感じは半身不随では無いのでは?
左半身というよりは、左足の先から張りを感じる。
いや、これ足つってるだけやん。
久しぶりのオナニーに力入って足つっただけやん。
なんや、半身不随て。アホらし。良かったあ。
てか、ちょ、待て待て。
久しぶり過ぎてめちゃくちゃ精子出るやんけ。
ティッシュ全然間に合えへん。うわ、ビックリや。
あっ、足つったまんまやから痛みきた。
すぐさま体勢変えないと。
いや、それにしてもめちゃくちゃ出てるやん…。

ここまでが0.5秒。考えることが多過ぎて快感も特になく、とにかく射精自体になんの痛みもないことが分かり安心した。この0.5秒間を振り返り、1人で笑った。でもその笑顔は面白さだけではなく、安堵も含まれていたと思う。

それからしばらくして、形状も戻った。僕は陰茎損傷ギタリストとしての肩書きに幕を下ろすことが出来たのだ。窓の外から夕陽が差し込む。冬の夕陽は15時頃。今、これを書きながら夕飯のことを考えている。これだけの文章を書くのは久しぶりだった。論文を書いていた大学時代を思い出す。哲学科。第2言語として学んでいたのはドイツ語だった。今じゃ何も覚えていないけど。ドイツといえばそうか。

今日の夕飯はソーセージにしよう。

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