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アロンアルファ点眼事件

私の小説の師匠は数々の非合法活動の末に間違って人を殺し、若い頃12年間も刑務所に入っていたという変わった経歴の人でした。
その師匠のすべらない話のひとつに「アロンアルファ点眼事件」というのがあります。

服役中、師匠は問題囚として所内にその名をとどろかせていたそうで、そのためほかの囚人を洗脳してはマズイ、というので12年間のほとんどを独房に入れられていたそうです。

ところが独房って大変だった? と聞いたら「雑居房よりは快適だった」。なにしろ演説の練習もし放題だし(師匠は政治犯でした)、「陰部摩擦罪」(オナニーのこと)を犯すときもひと目を気にせず済んだからだそうです。

しかし長い間せまいところに閉じ込められているというのは人格に支障をきたすもので、きっとそのせいでしょう、出所して作家になってからも師匠は数々の奇妙な習慣が抜けず、48時間寝て48時間起きるという変則的な生活を送っていました。

だから、それまでもときどきとんでもない時間にハイテンションで電話をかけてくることがあったのですが、その日はいつもと少しばかり様子が違っていたのです。

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