web3の思想を理解するために必要な前提知識：【第4話】歴史的思想背景の全体像

昨年から続く企業の破綻や市場価格の下落により、web3分野には停滞感が漂っています。web3企業では、新規雇用の中止やレイオフの動きが見られます。また、市場価格が低迷し続けているため、暗号資産の投資を控えるか、場合によってはやめようと思っている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、このような時期だからこそ、自分自身の考えを整理することが大切ではないでしょうか。そんな中、web3について学ぼうと、Vitalikの本を購入した方も多いでしょう。しかしながら、冒頭の数章を理解できたとしても、その後の内容が難しく感じられ、諦めて本棚に飾ったり、Zoomミーティングで見える場所に置いたりしている方もいらっしゃるかもしれません。

この本が難しいのは当然です。なぜならば、哲学書であるため、深い哲学的内容が含まれているからです。英語版の表紙にも「the Philosophy of Blockchains」と記載されているように、彼の論理構築には歴史的な思想や哲学が根底にあるため、前提知識がなければ理解が難しい場合があります。単に読むだけでは、「若き天才が示す暗号資産の真実と未来」を理解することは難しいです。

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歴史上、思想や哲学は社会を変革する一つの原動力となってきました。現代社会でも、新しい考え方により社会は変化し、新しい解決策や価値観が生まれます。

テクノロジーの進化も社会の変化を促し、さらに思想と結びつくことで、社会は常に変化し続けています。そのため、将来を予測するためには、テクノロジーの進歩だけでなく、思想や哲学的背景も理解することが役立つと考えられます。このため、Vitalikの著書に書かれているようなweb3の思想を読み解くことが、今後の発展を見通す上で助けになることでしょう。

しかし、web3の思想を理解するためには、背景にある基本的な知識を知っておく必要があります。それは、政治や社会の問題について倫理的・哲学的に問う学問である「ヨーロッパの社会契約論」と「米国の政治哲学」です。なぜならば、web3の思想は、これらの思想を根底としているからです。

米国で発展した政治哲学には、リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズムの3つの思想的立場があります。リバタリアニズム思想を持ったサイファーパンクが、Bitcoinの誕生に大きな影響を与えたことは広く知られています。

しかしながら、web3に関する価値観や議論の対象は、単にリバタリアニズムだけでなく、リベラリズムやコミュニタリアニズムにおいても同様に扱われています。そのため、web3の思想背景を正しく理解するには、米国政治哲学3つの立場ついての理解が不可欠です。

そこで、本レポートでは、歴史的な思想とweb3の思想の関連性を整理して、図にしてみました。web3における価値観や議論の対象は、Vitalikの本で扱われている内容を参考にしています。

リベラリズムが平等な社会の実現、コミュニタリアニズムが道徳的・倫理的な観点を含めた正義について考えてきた論拠を基に、web3の思想原理が現在構築されつつあります。

例えば、Vitalikは、非中央集権型システムを活用する際には、倫理的な行動に基づく協力・協調体制の構築方法について議論してきました。また、公共の利益を重視した議論や、平等で公正な状態を維持する方法についても検討してきました。ガバナンスと意思決定のプロセスにおいては、価値観が多様な世界で不平等さを測る基準を設定する必要性を指摘しています。

web3の思想は、9・11事件やリーマン・ショック後に停滞しているとされる政治哲学に代わる革新的な源泉となるかもしれません。政治的・社会的ムーブメントとして、web3が現代社会に与える影響は今後も注目されると筆者は思っています。

最後に、本レポートは、Ethereumを喧伝する目的ではなく、web3思想背景を探求することのみを目的としています。が、正直に申し上げますと、私はEthereum、NFT、DAOに対して特に興味を持っておらず、むしろ軽薄な印象を抱いており、好きではありませんでした。しかし、Vitalikの本があらゆる歴史的思想や哲学を根拠に議論を展開させていることを知り、困惑と驚きの気持ちで一杯になりました。また、彼自身が積極的に哲学を学んでいることが伺え、その深い知識に感銘を受けました。（これは、大嫌いだったはずの男性の意外な面を知り好きになる恋物語か！）

さては置き、今後、Vitalikの論文を歴史的思想や哲学の原理と比較した、解釈レポートの執筆に挑戦したいと思っています。この章について知りたいといったご希望があればご連絡ください。

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表紙画像：Unsplash