【論文レビュー】 組織の雰囲気と個人の性格はメンタルヘルスにどう影響するか?
おはようございます、ゆあさです。
先日は、メンタルヘルスと組織開発のつながりについて綴りました。
♡やInstagramで複数メッセージをいただき、とても嬉しいです。お読みいただきありがとうございました。
今日は、メンタルヘルスと組織開発のつながりについて、先行研究から考えていきたいと思います。
お付き合いいただけますと幸いです。
メンタルヘルス不調と職場組織の風土
今回レビューさせていただいた論文はこちらです。
背景
こちらの論文が作成されたのは2014年。
前年の厚生労働省による労働者安全衛生特別調査により、過去1年間にメンタルヘルス不調による休業または退職した労働者がいる事業所の割合は8.1%であり、調査対象の6割弱の事業所でメンタルヘルスに問題を抱えている従業員がいることが分かりました。
さらに、そのうち3割強の事業所では3年前に比べてその人数が増えていたとのことです。
また、メンタルヘルス不調者の増加が目立つ年齢階層を調べたところ、20代・30代が多く、特に20代でのメンタルヘルス不調者が増加傾向にあったとのことでした。
目的
メンタルヘルス不調に陥る要因について、過去の研究では以下の要因が挙げられています。
本人の性格要因がストレスの原因に対する反応に重要な役割を果たす(Bolger & Zuckerman(1995))
性格検査のBig5とストレスとの関連では、情緒安定性とストレス反応の間に強い負の相関がある(浅野・小田島・宮・阿久津(2008))
職業ストレスにおける組織内ストレッサーの一つとして、組織構造や風土があり、意思決定の少なさが仕事の不満足やモチベーション低下につながる(ooper & Marshall(1976))
20代では、労働条件や業務内容よりも組織風土などの組織による影響を受けている可能性がある(池上・江口・大崎・中尾・中元・日野・廣 (2014))
上記の背景を踏まえて、この研究ではメンタルヘルス不調者が増加している20代を対象に、個人要因としての「性格特性」と組織要員としての「組織風土」の組み合わせがメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として行われました。
対象者
一般企業で働く正社員27社1185名(男性 727名,女性458名)
分析方法
質問紙調査を実施し、対象者のうち、20 歳代の27社550名(男性291名、女性259名分)のデータが使用されました。
質問紙から用いられた変数は「メンタルヘルス良好度」、「情緒安定性」、「組織風土」の3要素。
メンタルヘルス良好度に関して、情緒安定性の高中低(3)×組織風土(4)を要因とする2要因配置の分散分析をSPSSで行われています。
面白いなぁと思ったのは、情緒安定性はSPIの検査結果を用いているということ!
SPI3の中から、「敏感性(些細なことが気になるなど神経質な傾向を示す)」尺度を用いて、この平均点からの乖離の状況で、対象者を高群・中群・低群に分けて分析をしています。(信頼性係数0.87)(表1)
また、組織風土は、園田・渡辺・山田(2012)による「課題設定と判断の仕方」と「人と組織のつながり方」の2軸による4分類で分析されており(表2)、”対象者本人の所属する組織に対して認識がメンタルヘルスとの関係性において重要である”という理由で、主観的なデータを用いられています。
業務ではエンゲージメントサーベイのような客観的データを用いることが多いので、こういう観点で組織を見ることも大切だなと思いました。
結果
情緒安定性の群間におけるメンタルヘルス良好度の平均値差はそれぞれ1%水準で有意であり、情緒安定性高群、中群、低群の順にメンタルヘルス良好度の平均値が低くなっていることが確認された。
組織風土では、結果重視風土とそれ以外の風土の間で平均値差が有意であったことから、結果重視風土は他のいずれの風土と比較しても、メンタルヘルス良好度が低いことが確認された。
情緒安定性と組織風土では、
情緒安定性の低群において、結果重視風土は他のいずれの風土よりもメンタルヘルス良好度の平均が有意に低いことが確認された。
情緒安定性の中群においても、結果重視風土は他のいずれの風土よりもメンタルヘルス良好度の平均が低いことが確認された。
一方で、情緒安定性が高い群においては、組織風土によってメンタルヘルス良好度の平均値に差はないことが確認された。
本研究の考察
本研究の結果からは、20歳代の若手社員においては、本人の性格特性と組織風土を考慮に入れたうえで、本人への適切なフォローを行うことの重要性を示唆するものといえるとのこと。
とりわけ本研究で取り上げた、<高い目標に対して結果を要求される>、<合理性を重視し>、<意思決定が速い>といった特徴を持つ組織風土においては、ストレスに対して極端に弱くない性格的特徴であったとしても、メンタルヘルス良好度は低くなる可能性があり、社員に対する支援やフォローがより一層重要になると考えられるとのことです。
(3割はメンタル強者!とかではなく、他者との関係性や環境の中に人は存在するので、誰もがメンタル不調を起こす可能性があるのだと捉えました)
まとめ
この論文では、メンタルヘルス良好度と組織風土の関係性についてまとめられていました。
当たり前のようにも感じられるかもしれませんが、やはり組織の雰囲気や文化・風土はメンタルヘルスと切り離せない関係性なのだなと改めて考えた次第です。
また、メンタルヘルスの切り口だけで考えると、メンタルヘルス良好度の高い組織づくりの指標にもなりそうですし、メンタル不調の予防という観点で、就職試験でのSPIから個人特性を確認し、配属組織の傾向とのマッチングからリスク予想行うなどの打ち手も考えられそうです。
いずれにしても、人と組織は切り離せない関係性ゆえ、個に対するメンタルヘルスと組織に対する組織開発は表裏一体の存在なのかなと思ったり。
そんなことを考えさせてくれた論文でした。
お付き合いいただき、ありがとうございました。