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【徒然草】よろずにいみじくとも(第三段)

万(よろず)にいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵(さかづき)のそこなき心地ぞすべき。
露霜にしほたれて、所定めずまどひ歩き、親の諫め、世の謗りをつつむに心の暇(いとま)なく、あふさきるさに思ひ乱れ、さるは、独り寝がちに、まどろむ夜なきこそをかしけれ。
さりとて、ひたすらたはれたる方にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。

【解釈】

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たとえあらゆることに優れていても、恋愛の情緒がわからない男はものすごくつまらない。玉でできた美しい盃なんだけど底がなくて使えない、みたいな役立たず感がすごい。
朝露の時間、夜霧の時間もあちこちにいる恋人を訪ねて歩いて、親が諌めたり世間が噂をするのも気にしない。
あれこれと思い乱れ、そうは言っても恋しい人とばかりは過ごせずに独り寝で悶々としている夜も多い、なんていう男こそが魅力的だ。またそれが恋愛の醍醐味、なのかもしれない。
そしてそんな恋愛マスターであっても、ただ色恋に溺れるのではなくて、簡単には落とせない男だわとか思われて、自然と女性を夢中にさせてしまう、みたいなのが理想なのだと思う。

どちらかというと下世話というかアダルトな話題なのだけど、むやみに文章がきれいな段。

兼好の文体は、やっぱり独特の味があっていいなと思います。テーマが幅広い徒然草の中で、こういうトピックがあるのって大切かも。しかも二百四十三段の中で第三段って、まあまあ冒頭です。

兼好は他人のラブレターを代筆していたという話も聞きます。
自らの恋愛だけでなく、よその色恋を垣間見る機会も多かったのかもしれません。

色を好む男って、光源氏みたいな人のことを言ってるのかな。

ほれっぽくて女好きで、でも独り寝も多くてさびしく寝ているなんて、確かにしょうもないけど何だか愛おしく感じてしまいます。


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