【徒然草】某とかやいひし世捨て人(第二十段)
某(なにがし)とかやいひし世捨人の、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ、空の名残のみぞ惜しき」と言ひしこそ、まことに、さも覚えぬべけれ。
【解釈】
何とかという名前の出家した人が「面倒なしがらみとか束縛されるものなんて、もうこの世にはないと思っているけど、ただ美しい空にだけは心が動かされる。このヤバいくらいにきれいな空も死んだら見られなくなる、と思うと途端に命が惜しくなる」と言っていた。これはマジでその通りだな、と思う。
空の名残。美しくて切ない響きを持つ言葉です。
どこか現代的で、ポエティックな雰囲気がありますね。
何もかも捨ててしまった今でも「空の名残」だけは断ち切れない。
名もなき出家者が言ったそんな言葉に兼好は深く感銘を受けて、この短くも印象的な段に綴っています。
もしかしたら同業者が言った言葉にかこつけて、兼好自身の思いを書いているのかな、という気もするけれど、そうでもないのかな。
岩波文庫の解説によれば、このエピソードは山家集・九一五の「嵐のみ時々窓におとづれて明けぬる空の名残をぞ思う」なんていう歌が下敷きになっているようです。
西行法師をベースにしているなんて、ますますときめきますね。
あらゆる束縛やしがらみがなくなって自由になって、最後に残るのは空への愛着。
確かに空は美しいけれど、それが最後の心残りって、本当なのかしら。
世捨て人どころか俗世間どっぷりで暮らしている身には、ちょっと不思議な表現でもあります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?