【百人一首】人はいさ(三十五・紀貫之)
人はいさ心も知らずふるさとは
花ぞ昔の香(か)ににほひける
(三十五・紀貫之)
【解釈】
あなたはさあ、一体どう思っているのかな。
あなたの気持ちは分からないけれど、懐かしいここの梅の花だけは、昔と変わらぬ様子で美しく香り高く咲いていますよ。
出典は古今集、巻第一 春歌上 四二。
作者は紀貫之(きのつらゆき)。三十六歌仙の1人で古今集の選者です。
平安期を代表する歌人で、土佐日記の作者としても知られています。
詞書が長いのですが引用しておきましょう。
初瀬にまうづるごとに、やどりける人の家に、久しくやどらで、程へて後にいたれりければ、かの家のあるじ、「かくさだかになんやどりはある」と、言ひいだして侍りければ、そこにたてりける梅の花を折りてよめる
奈良の長谷寺に詣でるのは、平安貴族のたしなみのひとつ。
長谷寺へ行く度に同じところへ泊まっていたのがしばらく足が遠のいていて、久々に訪れた。家の人に「ずいぶん久しぶりですね」と言われて、そこにあった梅の花を手折って詠んだ歌。
「家のあるじ」は、旧知のホテルの支配人というよりは、ずっと昔の恋の相手だった、と解釈したいところです。
久しぶりに会った元彼女も、本気で紀貫之をなじるニュアンスはないように思います。もう私のことなんて忘れちゃったと思ってたのに、みたいな感じでしょうか。
長谷寺は奈良県桜井市初瀬町にある古刹。近鉄にゆらゆら揺られて「長谷寺」駅で降りて、長谷寺駅っていう割には駅からまあまあ遠いなとか思いつつ行くのもまた風情のあるお寺さんです。
桜もいいけど紅葉シーズンが特にいい。
本尊の十一面観音もかっこいいんです。
大神神社から山辺の道エリアの散策と合わせて、またゆっくり訪ねたい。
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