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【百人一首】(やすらはで/五九・赤染衛門)

やすらはでねなまし物をさよ更けてかたぶくまでの月を見しかな(五九・赤染衛門)

【解釈】

迷わず寝てしまえば良かったのに、あなたが来ると言ったのを信じて待ってしまったばかりに夜が更けて、月が西の空にすっかり傾くまで見てしまいました。

平安時代らしい、待つ女の歌。
何も一晩中待ってなくてもいいのに、という気もするけれど、LINEとかもない時代です。
手紙をやり取りしたり遣いの人をたてたりしてデートの約束をするなんて、情緒はあるもののやっぱり不便です。

まあ、そんなふうに歌にしただけで実はさっさと寝てしまっていたのかもしれないし、待っているうちに寝落ちして気付けば朝だったのかもしれない。そんな重すぎない、ちょっとかわいい女の歌であるといいなあとも思います。

作者の赤染衛門(あかぞめえもん)は中古三十六歌仙のひとり。中宮彰子のサロンで宮仕えをしていたようで、紫式部や清少納言、和泉式部とも交流があったとされています。

出典は「後拾遺集 恋二 六八〇」。
詞書はちょっと長めで「中関白少将に侍ける時はらからなる人に物いひわたり侍りけり、たのめてこざりけるつとめて、女にかはりてよめる」とあります。

「藤原道隆が少将だった若い頃、赤染衛門の姉か妹にあたる人を恋人にしていた。来ると言われて待っていたのに来なかった翌朝、代わりに詠んだ」ということになります。

つまり、赤染衛門自身の恋の歌ではないのですね。
お姉ちゃんの彼氏をなじる歌を代わりに詠むってどんな状況やねんという感じもしますが、ラブレターを代筆したり誰かの代わりに歌を作ったりするのも珍しくない時代です。

その後の恋愛の行方がどうなったのかは分からないけれど、彼氏全然来ないねーひどいとか言いながらガールズトークで夜更かししていた姉妹の姿は、なんだかかわいいと思います。


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