【百人一首】山川に(三十二・春道列樹)
山川に風のかけたるしがらみは
ながれもあへぬ紅葉(もみぢ)なりけり
(三十二・春道列樹)
【解釈と鑑賞】
秋の風に飛ばされ舞い散った紅葉が、川のそこかしこにとどまっている。
山を吹き抜ける風の仕掛けたしがらみ(柵)は、紅葉だったのだ。
出典は古今集、秋下 三〇三。
詞書には「志賀の山ごえにてよめる」とあります。
作者である春道列樹(はるみちのつらき)は、情報少なめですが平安前期の人。文章生(もんじょうしょう)だったという記録があるので、歴史や文学に明るいインテリさんだったのでしょうか。
季節は晩秋。滋賀から京都へ(あるいは京都から滋賀へ)抜ける山越えの途中です。
風に吹かれて落ち、川を流れてところどころに流れをせき止めるように溜まっている紅葉。それを風の仕掛けた「しがらみ」と見る。
語感も実に美しく、鮮やかな情景が目に浮かんでくる歌です。「紅葉なりけり」の余韻がさりげなく、そして強い。
底冷えのする京都の冬が近づいているような、ひんやりとした山の空気が伝わってきます。擬人法のセンスもいい。
藤原定家もこの歌をいたく気に入っていたと言われています。
京都、東山の紅葉は11月末頃から12月初旬まで見頃になるイメージですが、この歌はもっと山の中なのかな。比叡山の紅葉とか、見に行きたい。
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