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司法試験・条文ステップアップ講座!

1 そもそも法律実務家とは何かを考えてみよう

世の中に,無数に発生する紛争、紛争を放置すれば,国内秩序は乱れ,経済活動は沈滞し,最悪の事態となれば内乱,戦争へとつながっていく。

このことは,けっして絵空事ではない。朝鮮半島、中近東情勢や,アフリカ情勢,さらには,EUのギリシヤ,イタリアの混乱。日本が「安心」という事態はないのである。

そこで,日本の法曹は,市民社会における紛争を解決し,国際情勢の下での多様な経済紛争,文化・政治紛争を解決し,人々の権利を守り,切実な要望を「現場」で実現していく役割を負っているのである。

その意味で,法曹実務家は,国家公務員総合職を通り,一線で働く行政実務家と表裏一体の関係にあるのである。

このことをしっかりと認識し,ひとつひとつの紛争を自分の「頭」で解決していく能力を修得することが求められている。

その基礎が,事案を分析し,該当条文をすぐに導き出すこと。

そして、その条文の文言から規範(要件,効果,適用範囲)を定立し,その根拠との関係で,事実評価基準を示し,事実を評価し,あてはめ,処理することである。

紛争で生じる事実、全てを順々に処理していくことが必要である。

即ち,争いのない条文については,直ちに前提的法律関係として確定し,争いのある条文については,原告と被告の主張を自分の頭で正確に示せるようにし,それぞれの主張について,プラス事情とマイナス事情をきちんと評価し,結論を導いていくことが求められているのである。


2 実務家になるための基礎学習


① 「基本書」を読むことの意味
自分の見解を作っていくことが「読む」ことの目的である。基礎的用語概念について,理解し覚えることは学習の出発点として当然である。

例えば,「意思表示」,「法律行為」とは,「行為規範説」,「裁判規範説」とは,「二重の基準」,「規制目的二分論」など、いずれもその意義を正確に暗記・理解をしていなければならない。

但し,これらについても,正確に理解するためには,条文構造から自分なりの民法論,刑法論,憲法論を作っていくことが不可欠である。
  
基本書」とは,その基本思考の参考が示されている「参考文献」なのである。

以上を前提に各条文についての解釈論が示されているのが基本書であり,各条文について,解釈し,事案にあてはめ,処理できるようにしていくことが求められている。

② 条文の解釈・適用の仕方
たとえば,「判例六法」をみると,判旨の載っている条文と載っていない条文がある。

載っていない条文については,「基本書」で要件効果を確認し,「基本書」に示されている事実に適用し,前提的法律効果を確認する。

載っている条文については,判例集の事案などを素材に原告と被告の主張を検討しながら,規範定立部分,事実評価、あてはめ部分についての見解の対立を押さえていくのである。

このことが,実務家に求められる基礎能力であり,実務家になるための不可欠な学習なのである。以上は、論証の暗記・吐出しで身に付く、思考・能力でないことは自明である。

自分の頭で紛争を解決する人は混迷する現代社会において強く求められている。

そのことは法曹以外の分野でも切望されている。法律を使いこなし、教育、国際、医療、ITなど、あらゆる分野で活躍して頂きたい。

③判例集一問題集の使い方
判例集は,事案の検討→前提的法律関係の確定・争いのある部分についての原・被告の主張・結論(私見)を導くための「問題集」である。

また問題集は,①の基本書を読んで,自説を検討する際の参考資料として有意義である。


3 司法試験の本質を考えてみよう

実務家採用試験であることの再確認…試験は実務家採用のために存在している。

合格したら直ぐに司法修習生です。

修習生は、判決起案,起訴状・不起訴裁定書,訴状・答弁書等を起案する実務家である。だからこそ給料だけで,少し前まで2000人に60億円の国家予算が使われていたのである。
                   
皆さんが解答する問題は,判決集で言えば「事案」すなわち「事件」であり、その「事件」を処理することが試験では求められている。
                     
そこで求められているのは「処理」であって,「論点」「論証」の羅列ではない。
                    
事件を「処理」するためには,事実(争われている事実)を整理し,それに該当する条文を押さえ,その条文文言から規範(要件・効果・適用範囲)を定立し,事実を評価してあてはめ,処理していかなければならない。
                     
そのためには,何の「論点」を書くかという発想で,構成しては絶対にいけない。そう思った瞬間に事実から離れ,逆に「論点」落としをしてしまうからである。
                    
常に「事実→規範定立→あてはめ→処理」をするということだけを意識して,書面構成することの結果として論争点「論点」を落とさない唯一の方法である。

採点が「論点」毎になされていることは事実だが,そうだからこそ,事案処理だけを心掛けて書面構成することが不可欠である。

4 具体的習得課題


 主張の双方性を各条文の解釈において,必ず検討すること。
② 解釈の理論を①のために習得することが不可欠であり,これは知識の記憶を前提とし,その上で,思考力を育成することを意味する。
 
したがって,法学者の各条文についての争点について,言及してある本(これが、いわゆる基本書)を参考に記憶ではなく、「何のために条文の文言をどう解釈することが必要か,その根拠は,定立する規範は,あてはめる際の事実の評価の仕方は」といった思考をきちんと形成していくことが求められる。

③ ①,②の法論理・主張の検討は,事実処理のためである。きちんと事実を検討・整理していくことが思考の出発点である。処理すべき対象事実を的確に検討・整理するために判例集の事案を問題文とみて書面構成していく習慣を身につけること。

④ 処理の道具は条文だけ。条文の文言をきちんと把握することを,日常的に心掛けること。

5 法律家になりきろう


司法試験は受験生1人1人の目標としてトップ合格を目指してはじめてギリギリで合格する厳しい試験である。 
           
その学習はまた,苦しいものではあるが,実務家の能力が身に付いてきたと実感できる楽しい学習でもある。
                     
自分がなりたいと思う実務家の具体的イメージをしっかり持てれば,その仕事をする上で必要な能力は何かを理解できるはずである。
                      
それでも試験に受がるためには「論証」に固執する方は,最初に示した司法試験が実務家採用試験であることを理解していないことを意味する。

以上の通り、実務家登用試験である司法試験においては、答案に実務家としての事件処理の思考過程が示されていなければ、合格答案として評価されません。これは、司法試験予備試験においても同様です。

しかし、多くの受験生は、どの論点をどう書くかという考えで再現答案を読んでおり、本当に学ぶべき「事件処理の示し方」に気付けていません。

「事実→条文→文言→規範(要件・効果・適用範囲)→根拠→基準→評価・あてはめ→反論・対立点」といった一連の事件処理の流れを、事案ごとに条文を使ってある程度、処理できるようになることが合格への目標です。

1 基礎能力修得・実務家としての能力
基本書⇔六法⇔事案の読み方,考え方 事案を処理するための基礎能力の確認
                       
ex.①民法99=解釈の仕方と解釈することの意味 22年新司
 ②民法400 ・ 401 =特定物・不特定物の区別 19年新司

2 基本能力修得・実務家として事案処理するための第一歩

ex.甲(買主),乙(売主)から有名な美術品を100万円で購入した。ところが、美術品は二束三文であり、乙は売却の際に甲を欺罔していた。甲の請求を考えてみよう。

・ 条文による処理:民法555条→96条1項→121条→703条

以上の条文の流れが瞬時に思いつき、示せるのが「条文操作」である。会社法では条文操作で問題が処理・解答できてしまう問題が少なくない。

・論文民法の注意点
1 民法全体を常に意識。物権関係、債権関係の全体をしっかり見渡すこと。

2 短答知識が極めて重要(引出しの数を増やす→問題点・妥当な結論に気づける)。

3 論証を長々覚える科目ではなく、あくまで条文による処理が重要(ただし、基本論点は必要)。

4 実体法の問題で要件事実にこだわりすぎないこと。

5 事案をしっかり整理することは条文の適用の前提条件。

6 条文の要件へしっかりあてはめる。



10017302-法律の本、体重計の裁判官の小槌。ベクトル-イラスト。


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