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ポピュラーミュージックの"曲の長さ" 〜時代によって曲の長さはどのように変化していったのか〜【前編】

①はじめに

 こんにちは。人があまりやってないことをやりたがるめんどくさい性格の音楽愛好家、K.Oです。今回のテーマは、そんな誰かがやってそうであまり語られないテーマ、そう、曲の長さに関してです。
みなさんの好きな曲は大体何分ぐらいの曲が多いですか?こう問うても、とても変な質問だな、という感情が一番最初に湧き出てくると思います。おそらくこんな質問をされることは普通に生きていたらまずないでしょう。これまでとんでもなく様々な音楽評論がなされていますが意外や意外、曲の長さに関してはあんまり語られることが少ないんですよね。
 みなさんが好きな曲を思い浮かべて長さを調べると大体4分台前後の曲が多いはずです。私の肌感覚ではポピュラーミュージック、ポップスの平均的な曲の長さは4分前後であると思っています。しかし、さまざまな時代、さまざまなジャンルの曲を聴いていると曲の長さは本当にピンキリです。例えばロック一つとっても、パンクロックの曲の中には1分台の曲もありますし、プログレッシブロックの曲の中には1曲23分というものもあります。

 私はこの時代やジャンルによってまちまちな曲の長さに関して、具体的にデータをとってどのようにして曲の長さが変化しているのかということを知りたくなりました。しかしながら、現代音楽誕生からほぼ全てのジャンルと時代を網羅して曲の長さのデータを取るのは不可能であると考えました。ですので、私はジャンルを一つに絞りました。それが先ほども申し上げた「ポピュラーミュージック」です。

 「ポピュラーミュージック」の誕生をどこにするのか、ということは非常に難しいですが、私は1955年という年をポピュラーミュージックの誕生の年、というふうに位置付けてデータを取ろうというふうに考えました。この年はいわゆるロックが生まれた年というふうにされていることが多いです。詳しくは私が以前書いたノートをご覧ください。↓

 しかしながらポピュラーミュージックと言っても星の数ほど曲があります。ですので、今回はポピュラーミュージックにおける最も権威のあるチャート、ビルボード(Billboard)チャートの1955年からの歴代の全米No. 1ソングの曲の長さを調べていき、それを年ごとに平均の値を出していき、データを取る、という手法をとっていきたいと思います。(非常に骨の折れる作業でした、、、)
 ちなみにチャートとは、日本におけるオリコンランキングと同じような、週ごとに更新される、その週で最も人々に聴かれている曲をランキングで示していくものです。つまり、このビルボードチャートを見ればポピュラーミュージックの今が一目瞭然でわかるわけです。

 果たして、ポピュラーミュージック一つとっても時代の変遷により曲の長さが変化していくのでしょうか。私はこのデータの検証前から「昔の曲は短そうで、そこから時代が経つにつれてだんだん長くなって行くんじゃないかなあ、、、」ということを考えていました。みなさんはどう思いますでしょうか?
 この仮説が当たっているか外れているか、これから見ていきましょう。

②ビルボードチャートから見るポピュラーミュージックの曲の長さの変遷

1.1950年代(1955〜1959)

No. 1ソング平均時間:2:29

まずは、1955年の「Rock around the clock」登場から1959年末のナンバーワンソングの平均時間です。みなさんもお分かりの通り、

なんと言っても短い

 そもそも論、50年代にアメリカ、世界でどんな曲が聞かれていたのかなんてパッと想像つく人の方が少ないはずですので、私が選んだナンバーワンソングの中で特に聴きやすい代表的なものを3つほど置いときます。

Rock Around The Clock (1955)
8週連続No.1

Hound Dog (1956)
11週間No.1

Mack The Knife (1959)
8週間No.1

 聴いていただけるとなんとなーくわかるかと思いますが、この時代のヒット曲は昔懐かしのオールディーズヒット、という感じです。ロックンロール、ドゥーワップ、オールディーズ。まさにアメリカングラフィティの世界観。しかしながら、この時代にポップミュージックの基礎が確立されたことは間違いありません。ポップスの古典中の古典という曲たちが勢揃いしています。

2.1960年代前半(1960〜1964)

No.1ソング平均時間:
1960年 2:46
1961年 2:21
1962年 2:32
1963年 2:25
1964年 2:48

 続いて1960年代前半のヒットソングの平均時間です。引き続き曲の長さは平均して2分台中頃と、短いですね。
 この時代の印象的なナンバーワンソングを置いておきます。

Will you still love me tomorrow (1961)
2週連続No.1

Sherry (1962)
5週連続No.1

I Want To Hold Your Hand(1964)
7週連続No.1

 この時代の最大の出来事であり、事件でもある。それは、The Beatlesの登場です。本国イギリスでは1962年にメジャーデビューしましたがアメリカのチャートに載っかってくるのは1964年と若干の時差があります。私の感覚では、ビートルズ登場以前と登場後でチャートにランクインしてくる曲の質感がガラッと変わっていると感じます。1960年からビートルズ登場までは50年代の甘いオールディーズポップスの流れを引き継いでいますが、ビートルズ登場以後はブリティッシュインベイジョン勢やビーチボーイズ、モータウンなどまさに百花繚乱という感じの戦国時代に突入します。

3.1960年代後半(1965〜1969)

No.1ソング平均時間:
1965年 2:46
1966年   2:51
1967年 2:53
1968年 3:19
1969年 3:14
60年代平均時間 2:48

 60年代が終わりに近づいてくるほど曲の長さが微妙に長くなっていることがわかりますね。
 この期間の印象的なナンバーワンソングを置いときます。なお、この期間のNo.1ソングには個人的に好きな曲が多すぎるため、5つ置かせていただきます。

I Can't Help Myself(1965)
1週間No.1

Good Vibrations(1966)
1週間No.1

You Can't Hurry Love (1966)
2週連続No.1

Daydream Beliver(1967)
4週連続No.1

Hey Jude (1968)
9週連続No.1


 いやー、、、。すごいっすねこの時代は。
 私情を挟ませてもらいますけど、5個選ぶのでも少なすぎて困りましたもん。ビートルズを筆頭に、ローリングストーンズ、ビーチボーイズ、サイモン&ガーファンクル、ドアーズ、シュープリームス、アレサフランクリン、オーティスレディング、モンキーズ、ライチャスブラザーズ、バーズ、エルビスプレスリーがNo.1に名を連ねている世界線、、、。通な音楽ファンなら、名前だけで白飯3杯はいけるのではないでしょうか。まさに百花繚乱、戦国時代。平均曲時間が1968年から3分を超えてきているのもターニングポイントかもしれません。

4.1970年代前半(1970〜1974)

No.1ソング平均時間:
1970年 3:27
1971年 3:32
1972年 3:45
1973年 3:30
1974年 3:23

 続いて1970年代に移ります。60年代後半からの流れを引き継ぎ、平均時間は長期化しているように見えます。3分台中頃になっています。この時代にどういう音楽が流行っていたのか、印象的なナンバーワンを置いておきます。

I Want You Back(1970)
1週間No.1

Bridge Over Troubled Water(1970)
6週連続No.1

Crocodile Rock(1973)
3週連続No.1

音楽の多様化やジャンルの確立によりさまざまな曲がチャート入りしている印象を受ける、70年台前半です。表現豊かな曲がチャートインしているため、曲の長さも徐々に長くなっているのが見てとれます。"I Want You Back"のようないまだにお茶の間でたまに聞くような名曲もランクインしています。

5.1970年代後半(1975〜1979)

No.1ソング平均時間:
1975年 3:28
1976年 3:27
1977年 3:43
1978年 3:39
1979年 4:11
70年代平均時間 3:37

曲の長さは相変わらず3分台中頃を推移するも1979年にとうとう4分台を突破。80年代の幕開けを感じさせそうなそんな動き方ですね。この期間の印象的なナンバーワンソングを置いておきます。

Dancing Queen (1977)
1週間No.1

Hotel California(1977)
1週間No.1

How Deep Is Your Love(1977)
3週連続No.1

この時代の特徴として映画の挿入歌や主題歌がチャート上位に食い込んでいるケースが多くなっています。また、ディスコ時代の幕開けと共にディスコで踊れるような音楽が全米No.1になっていることが多いです。そんなところも曲の長さが長くなっている要因ではないでしょうか。

6.1980年代前半(1980〜1984)

No.1ソング平均時間
1980年   3:44
1981年 3:48
1982年 3:42
1983年 4:06
1984年 3:57

曲の長さは3分台後半から4分台を前後していますね。この時代の印象的なナンバーワンを置いておきます。

Billie Jean (1983)
7週連続No.1

Jump(1984)
5週連続No.1

Wake Me Up Before You Go-Go(1984)
3週連続No.1

80年代に入り、MTVという番組が始まりました。これは、24時間常に流行っている曲のPVを垂れ流すという番組で、MTVの普及により世界的にアメリカのポップスが聞かれるようになりました。アメリカンポップスが商業的に華開いた時代でもありました。(評論家筋からは割と煙たがられる時代というのが悲しいです、、、。)
言われてみると、印象的なPVの曲が多い気がします。(上の3曲もPVがかなり印象的ですのでぜひ見てみてください。)

7.1980年代後半(1985〜1989)

No.1ソング平均時間
1985年 4:19
1986年 4:12
1987年 4:03
1988年 4:16
1989年 4:03
80年代平均時間 4:01

曲の長さがかなり長くなってきていることがわかります。5年間とも曲の平均時間が4分台を超えています。この時代の印象的なナンバーワンソングを置いておきます。

We Are The World (1985)
4週連続No.1

Walk Like an Egyptian(1986)
4週連続No.1

Like A Prayer (1989)
3週連続No.1

この時代の音楽界は、We Are The WorldやLive Aidなどチャリティイベントが盛んになりました。世界が一つに、という機運が時代の雰囲気としてあったのではないでしょうか。それが影響してかはわかりませんが、全体的にヒット曲に占めるバラード曲の割合がかなり増えていると感じます。よって曲の長さも比較的長くなっていると言えるでしょう。

8.1990年代前半(1990〜1994)

No.1ソング平均時間
1990年 4:18
1991年 4:10
1992年 4:04
1993年 4:15
1994年 4:13

80年代後半から引き続き曲の長さは相変わらず4分台前半のままですね。この時代の印象的なナンバーワンソングを置いておきます。

Nothing Compares 2 U (1990)
4週連続No.1

To Be With You (1992)
3週連続No.1

I Will Always Love You(1992)
14週連続No.1

1991年11月よりビルボードチャートの集計方法が変化し、従来のラジオなどのエアプレイからからシングルのセールスを重きを置いたものになりました。よって、同じ曲が何週もランクインするという事態が発生するようになりました。また、サブジャンルだったヒップホップがメインストリームにも上陸し、ヒップホップ的な要素を持つポップス曲がランクインすることも多くなりました。

9.1990年代後半(1995〜1999)

No.1ソング平均時間
1995年 4:27
1996年 4:11
1997年 4:05
1998年 4:13
1999年 4:11
90年代平均時間 4:11

相変わらず曲の長さは4分代前半をキープしています。そろそろ20世紀も終わりに近づいてきました。どのような曲がチャートを賑わせていたのでしょうか。

Macarena [Bayside Boys Remix](1996)
14週連続No.1

I Don't Want to Miss a Thing (1998)
4週連続No.1

...Baby One More Time(1999)
2週連続No.1

集計方法が異なったことにより、同じ曲が何週も連続でNo.1になっている確率が比較的高くなっています。チャートを賑わせた曲を見てみると、今でもよく聞かれるコテコテのポップス曲だったり懐かしの曲だったりが顔を揃えています。ですが、音楽的に影響力を持った曲が多いかと言われるとあまりそうではないと感じます、、、。これも「時代」と片付けてしまえれば容易いのですが。

10.2000年代前半(2000〜2004)

No.1ソング平均時間
2000年 3:58
2001年 3:56
2002年 4:14
2003年 3:56
2004年 4:05

やはり、4分台を行ったり来たりしていますね、、。このまま変化はなく現代を迎えるのでしょうか?!

Lose Yourself (2002)
12週連続No. 1

Crazy In Love(2003)
8週連続No. 1

Hey Ya!(2003)
10週連続No.1

ついに21世紀に突入。この時代はR&B、ヒップホップと従来のポップスがミックスされたような楽曲のチャートインが多い傾向にあります。上記のCrazy In Love や Hey Ya!が最たる例です。また、10週連続No. 1などのメガヒットを飛ばしている楽曲も目立ちます。

11.2000年代後半(2005〜2009)

No.1ソング平均時間
2005年 3:34
2006年 3:53
2007年 4:06
2008年 3:38
2009年 3:58
00年代平均時間 3:56

 おやおや、、?なんか曲の長さが短くなってきてるような、、。2007年以外平均時間が4分台を切っています。不思議ですね、、。それはさておきこの時代の印象的な曲たちを見てみましょう。

Gold Digger(2005)
10週連続No.1

Bad Day(2006)
5週連続No.1

Poker Face (2009)
1週間No.1

 やはり、ビルボードも時代の流れに合わせて集計方法を変えなくては行けない時期が来るわけで、2006年にはCDシングルの売り上げやラジオでのエアプレイに加えて曲のダウンロード数をチャート成績に反映させるようになりました。よって、2005年には8曲しか誕生していないNo.1ソングが2006年には18曲にもなっています。この時期は本格派の黒人ヒップホップアーティストから白人のロックバンドまで様々なアーティストがチャートインしているという多様性に富んでいる印象があります。

12.2010年代前半(2010〜2014)

No.1ソング平均時間
2010年 3:48
2011年 3:53
2012年 3:37
2013年 3:45
2014年 3:30

明らかに平均時間が短くなっていますね、、。
なんで??
全期間で3分台ですね。

Rolling in the Deep(2011)
7週連続No.1

Call Me Maybe(2012)
9週連続No.1

Shake It Off(2014)
4週No.1

 これは個人的な話ですが、自分が中学生時代にこれらの曲がヒットしていて、めちゃくちゃ聴いていたので、思い入れがある曲が多いです笑。この時代には、YouTubeやSpotifyなどの音楽ストリーミング再生に関してもチャートの集計方法に加わり、ビルボードチャートはさらにデジタル方面に加速していきます。また、チャートのランクインしている曲の中にロックの曲が少なくなってきているということがわかります。メインストリームとしてのロックが衰退していることに気付かされます。

13.2010年代後半(2015〜2019)

No.1ソング平均時間
2015年 3:41
2016年 3:45
2017年 3:45
2018年 3:38
2019年 3:04
10年代平均時間 3:39


明らかに曲の長さが短くなり、全期間で3分台をキープしています。

Uptown Funk(2015)
14週連続No.1

Shape of You(2015)
11週連続No.1

Bad Guy (2019)
1週No.1

いよいよ終わりが近づいてきました。この時代はApple Musicなどのサブスクリプションサービスの台頭、YoutubeなどのSNSの発展などにより音楽そのものの聞かれ方が変化していった時代でもあります。ビルボードチャートでもYoutubeなどでの再生数をチャートに反映するようになりました。曲時代の長さが短くなっているのもそのような背景が少なからず起因していることでしょう。


14.2020年代〜(2020〜2022)

No.1ソング平均時間
2020年 3:15
2021年 3:23
2022年 3:13

とうとう現代に至るまで曲の長さは3分台をキープしたままでした。

Dynamite(2020)
3週No.1

Leave the Door Open(2021)
2週No.1

As It Was(2022)
15週No.1

長い旅もとうとう終わりを迎えようとしています。この時代は集計に占めるストリーミング再生の比重が圧倒的に重いため、1位の曲が頻繁に入れ替わる現象が多々起きています。上記の「As It Was」も連続ではなく隔週の記録になっています。
今まで線で見てきたポップミュージックの歴史、これからの未来でどのような新たな変化が起こると思いますか?!

③平均時間の変遷


ここまで記事を見てくださってる皆様、どうもありがとうございます。ここで、データを順番に並べられてもよくわからなかったという方々に私が見やすくグラフを作りましたので、ここに置いておきます。

いかがでしょうか!これで違いが一目瞭然といった感じでしょうか。(←グラフ作るのが下手くそ)
これを見て皆さんは何を感じますか、、、?
きっと思うところがあるかと思います。私もあります。しかし、考察は長くなりそうなので次回の記事に持ち越したいと思います。

④終わりに

今回の記事は調査にそこそこ長い時間を費やしました笑。それだけ私が古今東西の音楽を聴く中で気になっていた話題だったのです。こうやって自分の感覚だけではなくデータ化できたので、何か少しだけ達成感があります笑(どんな達成感)。

 後編ではこれについての考察をしていきます。そして、みなさん気づいている方がいるかもしれませんが、日本のポップスの曲の長さはどうなんだ?!ということです。安心してください。ちゃんとそれについても調べてありますので後編で触れていきたいと思います。では長い間お付き合いありがとうございました。

                   続く

あ、最後に予備知識としてビルボードチャートで初めてNo.1になった記念碑的な曲を置いておきます。

I'll never smile again(1940)

ほんで、こっちは2023年8月8日現在のナンバーワン。

Last Night (2023)


歴史は紡がれている!!



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