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ロック最初の曲って何だろう? 〜4つの説を検証する〜

みなさんこんにちは。日々未知なる音楽への探究をやめない大学生です。

みなさん"ロック"と聞いて何を思い浮かべますか?おそらく大抵の人は音楽のジャンルとしての"ロック"を思い浮かべると思います。岩や鍵を思い浮かべる人はあまり多くはないでしょう。それくらい今の世の中にロックミュージックは浸透しています。特に日本においてあまり音楽を知らない人となると"メインストリームの音楽=ロック"と思っている人も少なからずいるはずです。(本来はそれをポップスと呼ぶことが多いのだが) 日本においてはフェスなどで見られるいわゆるJ-Rockがいまだに人気を博していますし、アメリカにおいてもヒップホップに覇権を握られつつもその存在感はいまだに大きいです。

 しかし、そんな巨大なジャンルになってしまった"ロック"ですが、いつどこで生まれたのか??ということに関してあまり考えたことがないはずです。しかし、物事には必ず遡れば始まりがあります。今回はそんなハード、サイケ、パンク、ガレージ、ニューウェーブ、メタル、ハードコア、デスコア、オルタナティブ、グランジのすべての源流となったロック最初の曲と言われている曲たちを見ていきましょう。ちなみにタイトルにあるようにロック最初の曲を一つに限定するのはとても難しいため(諸説がある)、今回はそんな諸説から四つ紹介したいと思います。

①"Rock Around The Clock"-Bill Haley & His Comets 
(ロック・アラウンド・ザ・クロック-ビルヘイリーと彼のコメッツ)


ビル・ヘイリーと彼のコメッツ 
とてもロックバンドという感じがしない(この当時ロックバンドという概念はまだなかったが)


 正直この曲がロック最初の曲の説として一番王道です。1955年7月にアメリカで最も権威のあるチャート「ビルボード誌」においてナンバーワンを獲得し、曲名の中に"Rock"が入っていることから後にロック時代の始まりを記念する一曲として語り継がれることになります。以降、この曲がロック最初の一曲として多くの人に認知されることになりました。それもそのはず、この年に公開された映画「暴力教室」や、その後の数々の映画にこの曲が使用され、全世界で2500万枚以上を売れあげたことから知名度は抜群でした。

 しかしながら、この当時の音楽シーンを理解し、曲を聴きあさっていくと「果たしてこれが最初のロックの曲なのだろうか?」と疑念が湧いてきます。たしかに、ロックの曲で最初にお茶の間に受けメジャーになったのはこの曲かもしれません。ですが、この曲が発売される前からロックの曲はあったようです。まあ兎にも角にもこの曲がロック時代の幕開けを告げていることには間違いありません。

 歌っているのはビル・ヘイリーという歌手。元はカントリー系の曲やR&Bを歌う人だったらしいですがこの曲により一躍有名になります。しかし、この当時のロックンロールのような新しいものをものを求めていた若者にとっては髪をカールで巻いたおじさん、ビルヘイリーには何か物足りなさを感じていたとか。しかし、その物足りなさを感じる若者たちにとって憧れの的、大スターがこの時代に登場します。

 そう、Elvis Presleyです。次はそんなエルビスによる"ロックンロール最初の曲"と言われている曲を紹介します。

②"That's All Right"-Elvis Presley
(ザッツ・オール・ライト-エルビス・プレスリー)


1960年ごろのエルビスプレスリー

 ロック最初のスーパースターは誰か?と聞かれたら間違いなくこの人でしょう。そう、エルビス・プレスリー。そのスーパースターのデビュー飾った曲がこの曲です。まだ無名のエルビスがテネシー州のメンフィスにあるサン・レコードに訪れ実力を認められ録音させてもらった一曲。後にサン・レコードはロックンロールの礎を築いたアーティストを多数輩出し、ロックの歴史に名を残すレコード会社として認識されることになります。

 実際にこの曲はイギリスでは発売すらされず、アメリカでも全く売れなかったとか。しかしながら、歴史を辿るとこの曲が果たした歴史的役割は大きいです。

 この曲はサン・レコードのスタジオ、いわゆるサン・スタジオで行われていたセッションの中でたまたま録音されたものと言われています。この時、最初はエルビスはプロデューサーから支持された過去のカントリーやブルースのヒット曲を歌わされていましたがいまいちパッとせずセッションもほぼ終わりに近づいていました。みな、諦めかけていた頃、エルビスがふとギター持ち1949年のブルースの曲「ザッツ・オール・ライト」を暴れながらギターを弾き歌いはじめたそうです。当時サン・レコードは「黒人音楽のエッセンスをうまいこと拾いながら表現できる白人」を探していたそうで、それにエルビスの歌唱と立ち振る舞いはがっちり合ったそうです。エルビスの「ザッツ・オール・ライト」を見たプロデューサーは興奮気味で「もう一度やってくれ」と頼みそれを録音したものが世に出ている「ザッツ・オール・ライト」の音源となっています。エルビスはサンレコードを訪れた当時から「君は何を歌えるんだ?誰に似ているんだ?」と問うと決まって「僕はなんでも歌えるし、誰にも似ていない」と答えていたそうです。そして、「ザッツ・オール・ライト」の光景を生で見たスタジオミュージシャンやプロデューサーたちは「今までに全く見たことがないものを見た」と口を揃えて言ったそうです。

 時にして1954年7月6日未明。ここからロック時代の幕が開けた、という人も一定数います。そのくらいロック史における重要な出来事がこの日に起こったのです。エルビスはその後ロックンロールやポップス曲を歌い続け歴代3位の18曲全米No. 1獲得を果たしました。兵役やビートルズなど新たなスターの登場で人気が翳りを見せた時期もありましたが"キングオブロックンロール"として、その影響力や功績は永遠に残り続けるでしょう。

 さて、ここまで紹介した二曲はどちらもかなり有名な曲になっています。ロック好きであれば誰でも知っているであろう名曲です。しかし、これよりもっと前に「これがロック最初なんじゃないか?」という異端児的な曲が存在しています。次はそちらを見ていきましょう。

③Rock The Joint -Jimmy Preston&His Prestonians
(ロック・ザ・ジョイント-ジミープレストン&彼のプレストニアンズ)

ジミープレストン


 時を一気に巻き戻して1949年。まだロック、ロックンロールという言葉がなかった時代。ちなみにロックンロールという言葉は50年代半ばにアメリカのラジオDJ、アラン・フリードが定着させたと言われています。ロックンロールは音楽的にはカントリーやリズムアンドブルースから派生してできたジャンルと言われており、この曲も時代と音楽的な要素を加味すると、リズム&ブルース、ジャンプブルースと部類分けできるでしょう。

 が、しかしこの曲はしばしば"ロックンロール最初のレコード"と言われます。なぜでしょう。2点ほど理由が考えられます。
①曲名に"ロック"が入っている最初期の曲であるということ。
②ロックンロール特有のアップテンポな跳ねるリズムと、1-3-5-6度を使用した初期のロックンロールに見られる基本的なフレーズが象徴的に使われていること。

 歌い手のジミープレストンは元々はサックス奏者だったらしいですが、R&Bのビックバンドを率いるバンドリーダーになり、この曲を録音しました。後に"ロック・アラウンド・ザ・クロック"で有名なビル・ヘイリーもこの曲をカバーしています。この曲を聴いているとロックンロールは黒人音楽、特にリズムアンドブルースと強い結びつきを持っていたのだなと感じます。シーンとしてのロック時代の幕開けは1954.55年ごろだと言われていますが、曲単位になるとこの曲が最も古いと言われても納得できます。リズムアンドブルースとロックンロールの境界線の捉え方が難しくなっていますが、「Rock The Joint」はロック最古の曲と言っても過言ではないでしょう。

④"Rocket 88 -Ike Turner /Jackie Brenston"(ロケット88-アイク・ターナー、ジャッキー・ブレンストン)


 今度は時を少し戻し、1951年。この曲もジャンプブルース、リズム&ブルースに位置付けられますが、今までの一般的な曲と明らかに違う部分がありました。それはこの曲にファズ(もしくはディストーション)ギターが取り入れられているということです。しかし、このファズギターは意図して入れたわけではなく、バンドがハイウェイ61(アメリカにある有名な幹線道路)で機材を運んでいたところアンプを過度にぶつけてしまい、それを治すためコーンの種を新聞紙に丸めアンプに突っ込んだらそのような音が出たという嘘のような本当の話だそうです。

 このファズギター(?)と印象的なリズムがこの曲をただのリズム&ブルースではない何か新しいリズム&ブルースであると認識されていきます。しかし、この新しいリズム&ブルースが後のロックンロールとなり、それが世界の音楽シーンを席巻するとはこの当時は誰も思っていません。

 この曲に対して、後の作曲家たちが口を揃えてロックの発展に多大な貢献をしたと言うのですか、この曲は全てがオリジナルで新しいわけではなく、過去のジャンプブルースの要素を引用した曲であると作曲者のジャッキー・ブレンストンは言っています。しかし、この曲はブルースの殿堂に1991年、グラミー殿堂賞に1998年、ロックの殿堂に2018年それぞれ入っています。また、ロックンロールの先駆者たちにも多大な影響を与えており、(ビル・ヘイリーはこの曲をカバーし、リトル・リチャードはこの曲のピアノのイントロを聴いて衝撃を受け、自身の曲"Good Golly Miss Molly"に引用した)まさにロックンロールの祖父のような曲です。


番外編 "ヒップホップ、ラップ最初の曲とは?"


 ここまでロック最初の曲について四つの説を紹介しました。このようにロックはルーツを辿るといろいろなジャンルの要素を融合させているため、最初を限定することがとても難しいです。しかしながら、今の時代、世界の音楽シーンを席巻しているのはロックではなくヒップホップです。ではヒップホップ最初の曲とは一体なんなのでしょうか?


 これにもいくつかの説がありますがロックほど最初を特定するのは難しくないです。セオリーではSugarhill Gangの Rapper's Delightと言われています。

 ヒップホップ、ラップは歴史的に見てファンクなどの楽曲のドラムビートやリズムビートを繋ぎ合わせてディスコなどでDJが踊れるように作り直したものから始まっています。しかし、それらは曲と呼べる代物ではなくただ気持ちよく踊るために作られた"リズム"でした。そして、その時代(1970年代中盤から後半)は主にヒップホップの主導権はビートを作って流すDJ、そしてその前にいるダンサーにありました。しかしながら、この曲の発売によりそれは一変していきます。

 現在ではヒップホップといえばラッパーのイメージがありますが、それはこの曲から来ていると言っても過言ではありません。これは当時ニューヨークの一都市、ブロンクスで燻っていたヒップホップを有名歌手のシルビア・ロビンソンが聞きつけ、その辺にいるラップができる人たちをテキトーに集め1979年にSugarhill Gangというユニットを結成させたことに始まります。

 そして、Sugarhill Gangに歌わせたこの"Rapper's Delight"が爆発的大ヒット。ビルボードにもチャートインし、全米にラップ、ヒップホップという音楽が知れ渡りました。これによりこの曲は"ラップ最初のヒット曲"として後世に永遠に名を残すことになりました。

 しかし、現代ではコンシャス(社会派)ヒップホップやギャングスタラップなど、ラップにメッセージ性や知的センスを問われるようになっているものが増えている中、この曲はただただ言葉遊びのような韻を踏んでいるだけの能天気な歌詞でした。ですが、当時はこの韻を踏む、リズミカルなボーカルがどれだけ新しいものだったか想像もつきません。

 この曲は当時勢いがあったディスコ/ソウルバンドの"Chic"の"Good Times"をそのままサンプリングしています。しかし、当時サンプリングという技術に対して世間は無知であり、しかも無許可でサンプリングしていたため、Chic側から訴えられかけたとか。

終わりに


 いかがでしたでしょうか?このように普段聴いてる音楽にもまず間違いなくルーツというものがあります。それらを遡っていくと意外なところがつながったり面白いものが見えてくるかもしれません。音楽を点ではなく線聴くと色々なものが発見できてとても楽しいですよ。

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