Webデザイナーがプレイヤーから管理者になった結果の話
デザイナーとしての経験が長くなっていくなかで、組織が再編されたり、組織そのものが大きくなったりして、いつの間にか管理業務が増え、気づいたらプレイングマネージャーになっていた、なんていう経験お持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
僕もそんなひとりです。
当時の僕は、こう思っていました。デザイナーとしては、自分のスキルを成長させたいし、デザイン業務以外に時間作るのもったいないんだよなー、なんて。
今となっては、こう思っています。
僕がひとりでできるデザイン業務なんて、たかが知れてるし、それよりもまわりの仲間に協力してもらいながら一緒に大きな仕事をするのが楽しいんだよなー、って。
そんな僕はきっとプレイヤーよりも管理者の方が向いていたんだろうと思います。向いてると思えるようになったのは、ここ数年の話ですが、そこに至るまでには紆余曲折ありましたので、今回はそんな話を書いておきます。
デザイナーとしてのキャリアパスを考える年頃
このままプレイヤーとして技術を磨き続け成長し続けることが良いのか。マネジメント経験を積んだ方が良いのか。はたまた、その両方を追いかけた方が良いのか。
30前後にもなってくると、こういうこと考えたりしませんか?当時の僕は、すごく考えてました。今回は、そこから8年後の僕の出した答えを発表します。
僕の出した答えは、ずばり「マネジメント経験できるならした方がいい」です。ただし、これはあくまで僕の答えです。こんなことを言ってしまうと元も子もないですが、どの道が合ってるかは、人それぞれです。
例えば「デザイナーとしてのスキルを磨きながらマネジメントしてる人」というのは、実際に世の中たくさんいます。やりたいのであれば、もしくはできる環境があるのであれば、すべてやって良いと思います。
ただ、僕はそうしませんでした。
もちろんデザイナーとして、この道を行けば正解なんていうのもありませんよね。なので、どの道を選択しても正解にも不正解にもなりえます。ただ、大事なのは「自分がやりたくて、その道を選んだ」と自信を持って言えるかどうかです。
僕はいろんな人に協力してもらって、みんなで同じ目的を目指しながら、ゴールへ向かうためにサポートする仕事が好きです。だから自分はその道を選びました。
意図せずプレイングマネージャーに
きっかけは意図しないものでした。なんなら冒頭でも書いたとおり、チームのための業務とかは気が乗らなかったです。当時はデザイナーとして個人のスキルをあげることを第一に考えてたので、自分以外のことになるべく時間を使いたくなかったんですね。
とはいえ、組織が成長するという流れのなかでプレイングマネージャー(当時は肩書きも役職もなかったですが)のような形で、自分のデザイン業務を持ちながら、メンバーへタスクを割り振り、デザインをチェックし、必要あらば指摘をして、必要あらば実際に手を入れてサポートする。というようなことをしはじめました。
インハウスのデザイナーだったので、営業メンバーやマーケッターなどから数多くの依頼を対応することで、直接的に感謝の言葉をもらえたり、制作メンバーとの関係性も良かったこともあり、そういう役割も思ったより悪いものではないなという印象でした。
デザイナー価値を高めたい。がリーダーになるきっかけ
いろいろなチームからあがってくる依頼をいかに効率よく制作メンバーに割り振って、どれだけタスクをこなせるかに躍起になっていたときもありましたが、依頼内容をみて違和感を感じることも増えてきました。
インハウスデザイナーのクライアントは、いわば社内のメンバーですが、こんな依頼が来ることもありました。「○○さんが、ここを目立たせたいって言ってるから、ここを赤文字にしてください」と。おそらく、そこに課題があるのは間違いないのでしょうが、アウトプットの指示内容に違和感がありました。
デザイナー以外の方にお伝えしたい。デザイナーには、課題をお伝えいただければ、その解決方法をいくつも提案できる能力がありますし、そもそも課題を見つけるのも得意です。(僕はそういう職業の人たちだと信じてます)
純粋に僕は課題を見つけて、その課題を解決するのがデザイナーの仕事と思っていましたが、社内では「こっちで考えたとおりに、これをこうしてください」「これを見映えよくしてください」というような「デザイン=意匠」と考えるような人が多くいました。(意匠はデザインの一部ですが、デザインのすべてではありません)
とにかく当時は、個人の市場価値どうこうよりも、デザイナーとしての社内価値がとても低い状態でした。
これはまずい。ちゃんとデザインの力を知ってもらって、デザイナーの価値をもっと高めたい。そう思ったのが、正式にリーダーをさせてもらった、きっかけです。(さくっと書きましたが、リーダーになった話は長くなるのでまた別の機会に)
管理者として意識して行動していた3つのこと
そんな社内価値が低いチームのリーダーとして意識して行動していたことがあります。ここでは特に気をつけていたことを3つ紹介します。
1. デザイナーが何をできる人なのかを社内に啓蒙
2. 課題解決の仕事は自分でつくる
3. 自分じゃなくてもできる仕事は誰かに任せる
1. デザイナーが何をできる人なのかを社内に啓蒙
そもそも、デザイナーだけで完了する仕事は、ほとんどありませんよね。市場調査する人、戦略を考える人、マーケティングする人、企画に起こす人、開発する人、売る人、などなど。複数の業務を兼任する人もいますが、役割としては数多くありますよね。
そんな多くの人が入り乱れるなかで、デザイナーが何をできる人なのか知ってもらわないことには、デザイナーの価値を最大化できません。とにかく僕たちが何者なのかということを伝える努力をしました。
デザイナーは課題を解決するために、誰に何をどう伝える必要があるのかを考えます。そして、そのためにどんな調査をして、どういう意図でそのアウトプットに至ったのかということをクライアントに説明する必要があります。これはとても大事なことで、これを省いてしまうと「それはあなたの主観でしょ?」となるわけです。
デザイナーが作ったものは、おおよそ目で見られるものです。それは専門家だろうが素人だろうが「好き・嫌い」という趣味嗜好を含めて自由に批評できるものです。
制作物を見せるときには、いろんな人の主観が入ってきます。だからこそ、それが意図的に作られたものなのか感覚的に作られたものなのかということはとても重要ですし、そこはデザイナーとしての価値が左右する部分になってくると思います。
定量的な目標に対して、結果は確実にコミットできるものではありません。ただし、意図的にすることで、PDCAをまわすこともできるし、コミットする確率を上げることもできます。
案件を進める際には担当者に説明する時間を増やしたり、空いてる時間にほかの職種の人と話したり、制作チーム主催の社内勉強会とかやったり、少しずつデザインというものに興味をもってもらうきっかけを増やすようにしました。
2. 課題解決の仕事は自分でつくる
売り上げを上げるために何ができるか。導入件数を増やすためには、どういうプロモーションをすればいいのか。LTVを伸ばすためにユーザーにどうアプローチをすればいいのか。ユーザーが困っていることを解決するにはどういう機能を用意すればいいのか。
マーケッターに相談し、マーケティングの視点も取り入れつつ、そういう課題を見つけながら、その課題解決を考えられる仕事を勝手にやりはじめました。
勝手にやりはじめたというのは、ほかの社員がデザイナーに求めている仕事ではなかったので、そういう依頼が来るわけないですよね。だから、そういうことをしたいなら、こういうこともできるという実績を出すしかないわけです。ということで、もともと依頼されていた「見た目をよくする」というような案件は最低限こなしながら、リソースを捻出してデザイナーが課題解決できる施策をなるべく多く増やすように努力しました。
なにせ、当初は何も期待されていない状態なので、なにかカタチにしたときには、デザイナーなのにそういうこともやるんだねと驚かれることもありました。
3. 自分じゃなくてもできる仕事は誰かに任せる
これは、やりたくない業務を誰かに押し付けるわけではなくて、スキルセットがマッチしてる人にどんどんタスクを割り振るようなイメージです。
もちろんメンバーによって得意・不得意もありますが、基本的には任せられる仕事は、どんどんメンバーにやってもらうようにしました。
僕も、最初はメンバーに割り振った案件にあれこれ指摘して、手取り足取り事細かに指示を出していた時期もありました。なるべく自分が理想とする形に寄せていくように何度も指摘したり調整したりする。もちろんデザイナーの成長フェーズによっては、そういうことを繰り返しやってあげる時期も大事と思いますが、少なくともすでにある程度経験あるデザイナー達には、具体的な案件の指摘よりも、案件に対する責任感を持たせる方がよっぽど大事です。
もちろんクオリティを管理する立場であるので、最低限そのレベルに達していることができている前提の話ですが、一番見落としていけないところは、そのアウトプットで課題が解決しているかどうかです。あとはメンバーに案件を任せる勇気を持つことがデザイン業務を管理する人の役割かと思います。
以上、管理者になってから意識していたことを紹介しました。特別難しいことしているわけではないですが、これらを意識することで、実際にデザイナーチームがよりよい環境で仕事ができるようになりました。今後、同じような経験をする方にとって、なにかしらのヒントになったらとても嬉しく思います。
最後に
こういうことを意識しながら業務をすすめることで、最終的にはマネージャーという肩書きでデザイナー以外のチームも管理もさせていただき、さらに社長ととても近い所でビジネス視点で物事を考え、会社全体の改善施策を考える経験もさせてもらいました。
そんな多くの経験をさせてもらった会社をやめた話はこちら↓
僕はデザインに関わる職業を誇りに思いますし、デザイナーという人たちを、心から尊敬しています。
僕はもともとグラフィックデザイナーで、もともとWebデザイナーです。今はサイト制作や印刷物をつくることは、ほとんどありませんが、広義のデザインという部分には、ずっと携わっていたいと思っています。
デザインは課題を解決するための手段です。課題を解決する手段は、Webサイト制作や印刷物をつくるということ以外にもたくさんあります。今後はデザインを通してどれだけの人にインパクトを与えられるかということを考えながら活動していきます。
あまりにデザイナーを好きすぎて、ほかの職種の人をリスペクトすることも忘れずに。