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Day 7: キッチン / 7-Day Book Cover Challenge

Day 7: キッチン / 7-Day Book Cover Challenge

7冊目は吉本ばななのキッチン。いまの文庫本は角川文庫からでているけど、僕が持っているのは福武文庫のもので1995年に刷られている。中学生のころに買ったんだと思う。

この本には「キッチン」、「満月―キッチン2」、「ムーンライト・シャドウ」という3つの作品が収められている。キッチンもいいけど、最後のムーンライト・シャドウもとてもいい。それぞれの書き出しが印象的なので引用する。

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。
どこのでも、どんなのでも、それが台所であれば食事をつくる場所であれば私はつらくない。
キッチン
秋の終り、えり子さんが死んだ。
気の狂った男につけまわされて、殺されたのだ。
満月
等はいつも小さな鈴をパス入れにつけて、肌身離さず持ち歩いていた。
それはまだ恋ではなかった頃に私が本当に何の気なしにあげたものだったのに、彼のそばを最後まで離れない運命となった。
ムーライト・シャドウ

関係ないけど綿矢りさの書き出しは秀逸で、「蹴りたい背中」の「さびしさは鳴る。」という最初の一文を、ムーライト・シャドウを読むたびになぜか思い出す。

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みかげが料理に本格的に取り組むときの、この一節が好き。

私はヤケドも切り傷も少しも恐くなかったし、徹夜もつらくなかった。毎日、明日が来てまたチャレンジできるのが楽しみでぞくぞくした。手順を暗記するほど作ったキャロットケーキには私の魂のかけらが入ってしまったし、スーパーで見つけたまっ赤なトマトを私は命がけで好きだった。
私はそうして楽しいことを知ってしまい、もう戻れない。

僕もみかげと同じくらいの年齢のとき、こんな感じでプログラミングをしていた。

どの作品でも人が死んで、いろいろなことに参っていて、なにかしら美味しいものを食べて、なんとか立ち直っていこうとしている。全体的に哀しい状況なんだけど、それを打破しようとする前向きさや、立ち向かう姿勢がある。

生きてれば大変なことはときどきあるけど、美味しいものを食べて、ひとつひとつを丁寧にこなして、シンプルにやり抜いていこう、と思える

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この福武文庫のキッチンで使われている書体は大好きな秀英体で、思い入れのある一冊。

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秀英体は広辞苑で使われている書体で、5冊目で紹介した神様のボートの文庫本でも秀英体が使われている。というか、かなりいろいろなところで使われているし、特徴ある書体なので慣れればすぐに見分けられる。秀英体という書体を知ったときに、なんだか好きな書体だなと感じて、その後手元にあるキッチンで使われている書体であることに気づいて、なるほど、中学生のころから繰り返し読んでいたのなら、馴染みがあるはずだと思った。

秀英体の一字一字の筆脈をじっと見つめると、ちょっと不思議な流れに思えるけど、こうやって文章が組まれていると気にならない。すうっと読める。

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