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原因不明ー②

 彼はまた気怠そうに視線を携帯に戻しました。「他の方はいらっしゃったりしないんですか?」私は聞いてみました。「うーん、最近は俺しかここいないかな」と携帯から目を逸らさず彼は言い、「新入生?」と私に問いかけてきました。「2年生です、去年学校に来れなかったんで」と答えました。「大変だよね。それでうちのサークルに入りたいの?」他人事のように彼はまた質問をしてきました。「興味はあります。」と私。「そっか、じゃあこちらへどうぞ」彼はスマホを持った手を向かいのベンチに向けてエスコートしてきました。私はその誘いに乗り、彼が座っているベンチの向かい側の席に座ることにしました。

 先輩っぽい人は、先輩でありました。映画サークルの四年生であるようで、映画サークルの活動や、年間の行事、サークル内の変わった人たちの奇行、気をつけなければないOB・OGを教えてもらいました。意外としっかり話してくれたので、少し驚きましたが、なんとなく楽しいイメージを浮かべることができました。私が先輩に親近感を覚えたのは先輩の好きな映画が「ホームアローン2」である事でした。恐る恐る私は、もともと映画サークルに抱いていたイメージや、サークル費、サークル内の恋愛事情、有名な卒業生などいらっしゃるのかや、好きな映画の話をしました。

 それからというもの毎週この時間は映画サークルのベンチに行く事にしました。毎回先輩は気怠そうに座っていました。私がベンチの近くに行くと先輩は「あら」と気のない返事をして先輩の前のベンチに手招きしてくれます。そもそも他のサークルの人たちは来ないのでしょうか、それともいないのでしょうかと疑問を投げかけたのですが、先輩は意外と映画サークルの人間は律儀だし偏った考えの人も多いから学校に近づかないのか、この機に乗じていろんな所で撮影しているのか、はたまたこの機に乗じて家で安酒をたらふく飲みしこたま寝てるのかじゃないかなと話してくれました。やばい人が多いんじゃないかと私の危機察知アンテナがまた動き出したのは言うまでもありません。

「先輩は撮影とかしないんですか?」映画サークルの予想の過ごし方とは異なる行動をしている先輩に聞いてみました。「俺は単位やばいからね。」と先輩はさらりと答えました。確かに、こんな夕方の変な時間に就活真っ只中の四年生がいるのはおかしい事です。この人もまあまあやばい人でした。「一年生から三年生までは結構サボっちゃった感じですか?」私は遠慮なく聞いてみました。「そうね、同期と映画撮ったり、見たりで全然授業そっちのけだったからツケがまわってきたのかな〜」先輩はいつも以上に気怠そうに答えました。「先輩の作品見てみたいです」と言った私のお願いに先輩は「ろくなもんじゃないよ」と答え、少し恥ずかしそうな表情をしていました。

 先輩初対面から2ヶ月ほど過ぎ、で大学の授業が全てリモートから校内で受講する様になりました。私はまた同じ時間に先輩へ「来週から授業も通常に戻りますね」と嬉しいような少し嫌なような気持ちで話しました。「これでやっとサークルにも加入できるんじゃない?」といつもと同じ調子で答えました。「でも本当勝手ですよね、リモートにしたり、行動制限かけたり、急に元にもどしたり、全部大人が決めてるじゃないですが、それでいて子供がかわいそうだのどうだのって私たちの事何がわかるのって感じですよね。」私は珍しく社会派な事を先輩にぶつけました。もう愚痴を言うのも慣れたもんです。「仕方ないでしょ、大人は何かを決めないと落ち着かないんだよ」と簡単に先輩に説き伏せられました。そのまま続けて先輩は「飯でも食いに行く?」と私に質問してきました。初めてお誘いを受けた私は間髪入れずに「行きます!」と答えました。

 どうして先輩は急に誘ってきたのでしょうか、そして私はどうしてすぐに返事をしたのでしょうか原因不明です。

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