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言葉のクレヨン

僕がはじめてもらった1ダースのクレヨン
そのクレヨンは色をぬると言葉を話すんだ

みかんをオレンジ色にぬると笑い声がきこえる
水色の空をぬると風がちいさくささやく
草原のミドリからは羊の声が聞こえる
なんだか面白くなってきて
僕はお母さんの顔を描いた
肌色をぬると僕を呼ぶ優しい声がひびく
赤い口紅をぬるとガミガミ叱られた
黒い森のよるは一羽の鳥のなき声が聞こえて
なんだか とつぜん 一人になった
黄色の月だけがぼんやり光って
「おやすみなさい」と僕を包みこむ
雲のカケラを持たない青い海が
どこまでも静かなさざ波を奏でている
水面にゆられ漂う白い舟は
ホイッスルのようなスタートをつげる

あした 僕はこの街を出る
机から使いかけのクレヨンが出てきた
僕は小さなクレヨンを手の平にのせる

あのころの僕はスケッチブックに
毎日 まいにちを残していた
いろんな音で溢れる
いろんなキモチを抱きしめながら
そうやって 少しずつ大人になったのかも知れない
ただ 僕はまだサクラ色の言葉を聞いたことがない
ひんやりとした重みのクレヨンをしっかり確かめる
いつか いつか 僕にもその音色は響くのだろうか


lyrics by 定行恭子

(2018.2.13)



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