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【宣伝】5/19文学フリマ東京38にてE・ユンガー&E・v・ザロモンの翻訳を頒布します

文学フリマ東京38出店のお知らせ


5/19日に東京流通センターにて開催される第38回文学フリマにて、サークル名「ROSE BUD」、D-25~26ブースにて『Inquirer文庫1 ドイツ保守革命Ⅰ』を頒布します。定価2000円、イベント後boothにて通販もする予定。

ドイツ保守革命家の代表的人物エルンスト・ユンガーエルンスト・フォン・ザロモンの翻訳物を収録しています。それぞれの著作は以下の通り。

・エルンスト・ユンガー『内的体験としての戦闘』
 (原題:Der Kampf als inneres Erlebnis , Ernst Jünger)
・エルンスト・フォン・ザロモン『無法者たち』
 (原題:Die Geächteten , Ernst von Salomon )

両名共、今日に至るまで邦訳には恵まれていませんでした。
ユンガーの場合、1920年代ナショナリスト期の著作は処女作「鋼鉄の嵐の中で」の佐藤雅雄訳を除いてなし(訳題『鋼鐵のあらし』, 先進社 , 1930)。今ある邦訳書は月曜社からでている『労働者』『ユンガー政治評論選』を除き、殆どが戦後に書かれたもののため、保守革命家としてのユンガーを知ることは困難でした。
ザロモンに至っては、著作の翻訳がそもそも今までされておらず、ドイツ保守革命に関する文献で間接的にしか人物像やその思想をうかがえませんでした。
このたび頒布する本は、拙訳ながら、そうした現状を打破する第一歩になったと自負しております。気になる向きの方はぜひ、手に取っていただけたら幸甚です。
附録として、ドイツ保守革命にかんする軽い解説と、『内的体験としての戦闘』序文を試し読みできる記事を載せました。ユンガーやザロモンの名前は知っていたけれど保守革命運動についてはあまり知らなかったという方は参考にしていただければ幸いです。

また、こちらが頒布予定の本の表紙となります。

附録①:ドイツ保守革命に関して

①-1:概論

第一次世界大戦後、混沌状態にあったヴァイマルにおいて、敗戦と帝国崩壊の経験を背景に生まれた政治思潮・政治運動のひとつ。それまで構築されてきた市民社会と、その近代的な秩序や価値観を徹底的に破壊しつくすことで、新しい人間像が創造されうるという思想が、この運動に加わった人々に通底していた。そのほか、彼らの共通点として挙げられるのは以下のようなものが挙げられる。

  • ヴェルサイユ条約への反発&ドイツを主導とした欧州秩序の復活の希求

  • 現在の国家ヴァイマル共和国と過去の国家ドイツ帝国両方を堕落した国の姿として否定する急進的姿勢

  • 若い頃に味わった戦争の経験の英雄主義的な解釈

  • フェルキッシュな政治的価値観

  • ロマン主義的価値観を継承しつつより激しく展開される近代社会や合理主義、文明・文化への批判

このような反近代主義・反合理主義的な態度に加えて、近代的価値観や啓蒙主義を拒絶しつつも、それらに与する科学技術の発展は受け入れるという相反する姿勢、鋼鉄のロマン主義(stählernde Romantik)が指摘されている[1]。

また、ひとくちに保守革命といっても一枚岩ではない。保守革命の研究家アルミン・モーラーは彼らの思想を以下のように分類している[2][3]。

フェルキッシュ派(Völkische)
いわゆる国粋主義に与するものであり、自分たちが古代から続くドイツ民族の一員であることに重きを置いている。それゆえ、人種差別的な思考と結びつきやすく、ナチスの人種主義的イデオロギーを展開したハンス・フリードリッヒ・カール・ギュンター(1891-1968)やヘルマン・ヴィルト(1885-1981)がここに挙げられている。
(余談だが、ヴィルトは疑似科学者やオカルト思想家のシンクタンクと化していたことで有名なナチスの科学研究機関アーネンエルベの初代会長であり、ゲルマン民族の血を引くオランダ貴族の家系図を13世紀ごろの作として発表するも、それが19世紀に作られた偽書であることが判明し、学会を放逐されている)

青年保守主義派(Jungkonservative)
反王党派の共和主義とみなされる。ヴァイマル体制に対抗するドイツ文化防衛論を説き、国(Reich)とキリスト教の中世的な再生を志した。『西洋の没落 (Der Untergang des Abendlandes)』(1918/1922)の著者オスヴァルト・シュペングラー(1880-1936)、ヴァイマル共和国末期の首相フランツ・フォン・パーペンの秘書をつとめた政治思想家エトガル・ユリウス・ユング(1894-1934)、ナチスの膨張主義の標語になった小説『土地なき民 (Volk ohne Raum)』(1926)を執筆した作家ハンス・グリム(1875-1959)がここに挙げられるが、代表的な人物は、「第三国家(das dritte Reich)」で知られる思想家アルトゥール・メラー・ファン・デン・ブルッ ク(1876-1925)である。彼はWW1まで存続していたドイツ帝国の否定派であり、反西欧帝国主義者として戦うため、ロシア共産主義とドイツ右翼の連帯を目指す「ナショナル・ボルシェヴィズム」の形成に関与したほか、ナチス内部の反ヒトラー派(ナチス左派)へ影響を与えている[2]。
(ナショナル・ボルシェヴィズムは当時の帝国の植民地であった第三世界との連携をスローガンにもしており、そこで支配されていた人々との反帝国主義的な連携を目指す、社会主義的な国民革命、ファシスト的な革命運動であった。また、ブルックの唱えたライヒ概念は具象としての国ではなく、『永遠に存在する国』といったような理想観念である)

国民革命派(Nationalrevolutionäre)
極右と極左の思想の双方を累ねてうまれた主意主義的なナショナリズムであり、なおかつ軍事的なファシズムでもある。行動主義を第一とし、外相ラーテナウと蔵相エルツバーガーを暗殺した義勇軍「エアハルト旅団」や、北ドイツの農民運動において爆弾逃走を仕掛ける、ナチス政権樹立期の官邸襲撃やヒトラー暗殺計画を計画した極右地下武装組織「コンスル」など、実際に多数の軍事テロやクーデターをおこなった者たちがおり、ここには前線世代の思想家たちが分類される。代表的な思想家としては、エルンスト・ユンガー(1895-1998)、彼の弟で詩人のフリード リッヒ・ゲオルク・ユンガー(1898-1977)、前述したナショナル・ボルシェヴィズムの政治思想家であり、ナチスをドイツ革命の敵として厳しく糾弾したことで知られるエルン スト・ニーキッシュ(1889-1967)、エルンスト・ユンガーが編集者をつとめた雑誌『アルミニウ ス(Arminius)』の出版者であった宗教思想家フリードリッヒ・ヒールシャー(1902-1990)、「コンズル 」の一員であったエルンスト・フォン・ザロモン(1902-1972)など。

盟約派(Bündische)
ヴァンダーフォーゲルを前身としてうまれた、ギムナジウムの生徒や大学生からなる男性同盟的なエリート青年の集団。彼らはヴァイマル共和国の政治体制のなかで大戦以前と変わらぬ「老人の支配」に反抗し、「青年の国」をもとめて世代間闘争を強めた。宣教師ヘルマン・ホフマン(1864-1937)と彼の後を継いでヴァンダーフォーゲルを組織的に展開させたカール・フィッシャー(1881-1941)がその起源に位置しているほか、「ドイツ義勇団」の指導者トゥスク、ユンガーやメラーの著書に大きな影響を受けて組織された「シル義勇軍」のリーダー、ヴェルナー・ラスとハンス-ゲルト・テヒョウがおり、青年たちに自然地帯での軍事訓練を施した。

ラントフォルク運動(Landvolkbewegung)
1928年に窮乏化したシュレースヴィヒ・ホル シュタイン州の農民の負債問題から大規模に展開された運動である。この運動には「国民革命派」のザロモン兄弟と極右の活動家たちが加勢し、爆弾テロ事件にまで発展した。またこれには、ユンガーも運動に加わっており、この事件がナチ党員の隠れた「市民的核心」を暴き出し、攪乱させえたものとして評価している。[4][5]

以上がドイツ保守革命一般を俯瞰したものであるが、上に出てきたメラーやニーキッシュなども、同じく邦訳に恵まれていない。今後も、このような活動家の残していった軌跡を現代に復活させていきたい所存である。

①-2:今回翻訳した著作と筆者に関しての若干の説明

エルンスト・ユンガー「内的体験としての戦闘」
これはユンガーが1922年に世に出した著作であり、年代的な位置づけとしては、前作に「鋼鉄の嵐の中で」(1920)、この本のあとに、『小森林第一二五号』(1924)、『火と血』(1925)、『シュトゥルム』(1923)といった、自身の第一次世界大戦の体験をモチーフにした作品が続き、30年代には復員軍人組織『鉄兜団(Stahlhelm)』の機関誌『軍旗(Standarte)』や、ユンガー自身の主催していた同人誌に百を超える政治論文を発表するほか、思想の集大成ともいえる主著『総動員』(1930)、『労働者 支配と形態』(1932)を発表することとなる。
また内容としては、第一次世界大戦での自らの従軍経験をもとに、己の戦争観、戦闘観を展開していく一種のエッセイである。①-1でまとめた保守革命家の姿像からも察せられるように、しかしこれはレマルク『西部戦線異状なし』に代表されるような戦争否定の文学ではなく、その間逆である。ユンガーがどのように戦争を、戦闘を「肯定」したのか、末尾に添付した試し読みででも参考にしてもらえれば有難い。

エルンスト・フォン・ザロモン「無法者たち」
ヴァルター・ラーテナウ暗殺を企てた筆者の自伝小説。
彼は西暦一九〇二年、ユトラント半島の南部、デンマークに程近いプロイセン州シュレスヴィヒ=ホルシュタインの軍港都市キールに生を享けた。父は警察官で、母と共に厳しく息子たちを躾けた。バルト海群鎮守府司令部が置かれ、街頭には赤=白=黒の三色旗が翻るこの町で、模型軍艦のおもちゃ遊びや戦争ごっこに興じた少年は、レッシング・ギムナジウムにおけるラテン語科の成績不振から地方幼年初等学校へ編入し、そこで教練を受ける中で兵士的エートスを涵養させていく。一九一四年の大戦勃発の際にはまだ十二歳であり軍務に就くことはなかった。ユンガーが従軍し果敢に戦った世界大戦は、ザロモンにとっては遥か彼方の前線での営為にとどまり、少年の生活環境に顕著な変化が起こるのは、むしろその戦争の終結以後、ドイツ帝国崩壊の引き金となった「キール軍港の」水兵反乱を、それまで傍観者であった少年はまざまざと見届けることになる。少年のその後十年近くに渡る放浪と遍歴を記したのが本書である。

補足として、ユンガー、ザロモンの簡単な略歴を記しておく

エルンスト・フォン・ザロモン Ernst von Salomon
1902(Kiel)-1972年(Hamburg)。 ドイツ帝国時代に生れ、第一次世界 大戦の間を幼年学校で過ごす。戦後 は義勇兵として各地を転戦。後に地下武装組織コンスルに所属しヴァル ター・ラーテナウ暗殺に関与する。 1930年の「無法者たち」以降、映画会社ウーファの脚本作家としても活動しつつ、自身の義勇軍・武装闘争経験を題材に数多くの自伝的小説を発表した。1972年、ハンブルク近郊の自宅で心臓麻痺のため死去。

エルンスト・ユンガー Ernst Jünger
1895(Heidelberg)-1998年(Riedlingen) 1914年に志願兵として第一次世界大 戦に出征。西部戦線で戦い、前線士官としては最年少でプロイセン最高の勲章プール・ル・メリットを受ける。1920年代には処女作「鋼鉄の嵐の中で」を著し、保守革命家としてナショナリズム運動に挺身する。ナチス台頭後はベルリンを去り、森に隠棲。第二次世界大戦後、亡くなるまで多岐にわたる分野で旺盛な執筆意欲を示した。


①-3:参考文献&ドイツ保守革命に関する邦訳書


参考文献
[1] 保守革命とモダニズム , ジェフリー・ハーフ , 岩波書店 , 1991
[2] 保守革命と黙示録 「没落」の不安と「ライヒ」の勃興 , 稲葉瑛志 , 2020 
[3] 思想としてのファシズム , 千坂恭二 , 2015 , 彩流社
[4] Sven Olaf Berggötz, Ernst Jünger und die Politik, Ernst Jünger, Politische Publizistik , 1929
[5]Ernst Jünger, “Nationalismus” und Nationalismus, Das Tagebuch, Berlin , 1929

ドイツ保守革命、特にユンガーやザロモンに関しての言及がある文献について、如何に簡単にまとめた。興味のある向きは手に取ってみてほしい。

・ハーフ『保守革命とモダニズム』
参考文献にも挙げたが、保守革命運動にかんして近代の技術発展にたいする需要という観点から、ユンガーのほかにシュペングラー、ゾンバルト、シュミットを俎上に載せて論じている。

・カイヨワ『戦争論』
『内的体験としての戦闘』から『労働者』に至るまでのユンガーの思考の微妙な変遷を捉え、その戦争の仮借なきまでの残酷な描写を礼賛している。

・クロコウ『決断』
ユンガー、シュミット、ハイデガーを対象に、彼らの思想における「決断主義」という共通項を抽出し、目的ではなく手段を重視する者として彼らを論じている。

・テーヴェライト『男たちの妄想』
義勇軍兵の日記や論文とともに、ユンガーが駆使するレトリックを俎上に、彼らが共通して用いるモチーフから、彼らの夢見た男性的主体について精神分析の手法を用いた批判的考察をおこなっている。

・バタイユ『呪われた部分 有用性の限界』
大部分はバタイユの思想の核となる普遍経済学を巡るアイデアを取りまとめたものだが、その一部として『内的体験としての戦闘』の戦場描写を引用して、バタイユ独自のユンガー解釈を試みている。

・八田恭昌『ヴァイマルの反逆者たち』
・ステファーヌ『冒険家の肖像』

数少ないザロモンに関する言及がある書籍。前者は保守革命運動全般にかんする俯瞰的言説も載っており、民族主義的アナーキストの顔を知る文献として貴重なものである。

・ポイカート『ワイマル共和国』
・小野清美『保守革命とナチズム』

保守革命家が誕生し、ユンガーやザロモンが運動を繰り広げたヴァイマル共和国とはどのような場所だったのか、理解するための2冊として。

附録②:「内的体験としての戦闘」序文試し読み

以下URL。

https://note.com/sad_happy_happy/n/n3a5a6d0e3be0

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