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2023年1月 美術鑑賞東京遠征 感想①

あけましておめでとうございます。どさくさにまぎれて、再開します。
今回の連休を利用して、東京に美術鑑賞に行ったところ、とてもよい展覧会に恵まれましたので、関西在住の美術ファンの皆様にシェアいたしたく思います。どの展覧会も関西に巡回することはないので、東京に行くきっかけにしていただければと思います。

今回の遠征では7つの展覧会に行きました。
① アーティゾン美術館『パリ・オペラ座−響きあう芸術の殿堂』
② 東京都庭園美術館『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』
③ Bunkamuraザ・ミュージアム『マリー・クワント展』
④ 府中市美術館『諏訪敦「眼窩裏の火事」』
⑤ 東京都現代美術館『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』
⑥ サントリー美術館『京都・智積院の名宝』
⑦ 森美術館『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』
今回は①~③について、紹介いたします。


① アーティゾン美術館『パリ・オペラ座−響きあう芸術の殿堂』

パリにあるオペラ座にまつわる絵画作品を中心とした展覧会です。
オペラ座は、一般的には1989年までメインの会場として使われていた歌劇場「ガルニエ宮」のことを指します。けれども、本展はルイ14世の治世に創設された劇団「音楽アカデミー」から始まり、現代で終わります。つまり、本展はオペラ座そのものの展覧会というよりは、オペラ座を主に使用する団体やオペラ座の後身である「オペラ・バスティーユ」の時代まで射程に入れた展覧会といえます。

オペラ座を拡大解釈した展覧会、ということで、本展はとにかく分量が多かったです。最後まで鑑賞するのに2時間もかかってしまいました。同じ日に複数の展覧会を回られる方は時間に注意したほうがよいと思います。

展覧会の内容自体ですが、ホームページにある「見どころ」はあまり参考にしないことをオススメします。展示作品は新古典主義やロマン主義、自然主義が大半を占めており、印象派以降の作品が出てくるのはだいぶ後になります。オペラ座で演じられた芝居に関する絵画も後半になってようやく出てきます。前半はオペラ座の成り立ちについてのお勉強、もしくは「古き良き“おフランス”」を観るという意識で鑑賞するとよいかもしれません。

とはいえ、新古典主義や自然主義の作品よりも、印象派以降の作品のほうが印象に残りました。フランス革命から第二帝政までのフランス美術のところはあまりよい作品はありませんでしたし、ロマン派の巨匠ドラクロワの絵画も小品でした。一方で、マネやラウル・デュフィの絵画はサイズも大きく、作家の特徴がよく現れていました。タンホイザーを描いたルノワールの作品も見どころです。1870年代の、印象派全盛期ころのルノワールが六曲一双の屏風みたいな絵画を描いているのが面白かったです。まあ、主催者側がみどころを後半部分に集中させているのも、無理はありませんね。

ただ、バレエ・リュスのパートは物足りなかったです。2007年に行われたバレエ・リュスの展覧会とくらべると、量はもちろん質もいまいちでした。あまり知名度がないせいか、ほかのひとからは好評だったようですが。なお、バレエ・リュスについては、パイ・インターナショナルからこんな本が出ています。定価 (本体3,800円+税)。高い、高すぎる。

話があちこち行きましたが、結論をいいますと、本展の前半と後半のふたつに分かれます。前半はオペラ座の歴史をたどる博物館のような展示で、後半はオペラ座で行われた芝居や観客などを描いた絵画の展示でした。前半を飛ばして、後半だけを観たほうが手軽に楽しめるかもしれないですね。

② 東京都庭園美術館『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』

アールデコが特徴の東京都庭園美術館で行われている、近代モダンデザインの展覧会です。

題名の「機能と装飾のポリフォニー(多声音楽)」とは、シンプルなインテリアと華やかなファッションとの組み合わせを意味するのでしょう。本展は1900年代から1920年代までのドイツ、オーストリア、フランスそして日本の「製品の量産を前提とした工業製品」を中心に構成されています。したがって、量産に適さないイギリスのアーツ・アンド・クラフツやフランスのアールヌーヴォーはまったく展示されていません。また、アールデコの作品はあっても、直接的な言及はなかったと記憶しています。

そう考えると、本展はアールヌーヴォーとアールデコの隙間でこぼれおちた、近代モダンデザインに関する展覧会といえます。

前述の通り、本展ではドイツ、オーストリア、フランスそして日本における20世紀初頭のデザインを紹介していますが、ここではドイツとフランスに絞って説明します。

ドイツでは1900年代のドイツ工作連盟とバウハウスが中心でした。ドイツ工作連盟はアーツ・アンド・クラフツ運動から影響を受けて結成された団体です。メンバーにはミュンヘン分離派に参加した芸術家や後にモダニズム建築の第一人者となる人物が含まれています。イギリスやフランスで生まれたデザインの潮流が東へ伝播するにしたがって、装飾の簡素化していったわけです。そこで生まれたのが、ドイツ工作連盟です。

個人的には第1回ドイツ工作連盟の展覧会ポスターが見られたのが印象的でした。

バウハウスについては、バウハウスは機能主義、合理主義のデザインばかりが注目されますが、当時最先端の芸術家が関わっている部分にも注目してほしいですね。機能的な椅子ばかりではなく、パウル・クレーやヨハネス・イッテン、ワシリー・カンディンスキーといった、バウハウスで教育に携わった画家の影響を受けた作品も展示されていました。色彩や図形の形態を組み合わせた抽象画はバウハウスのもうひとつの成果なんですね。

フランスの展示は主に2種類にされます。ひとつはポール・ポワレの衣服を中心とした、1910年代のファッション・プレートやテキスタイル。もうひとつは、1920年代のフランシス・ジュールダンの室内装飾画を中心としたインテリアです。

ポール・ポワレは私にとってはじゅうぶん有名人なのですが、ガブリエル・シャネルの影に隠れていると考えることもできますね。ポール・ポワレが活躍したのは1910年代ですが、1920年代にはシャネルが出てきて一気に衰退するんですよね。そのせいか、ポール・ポワレはファッション史に与えた影響が大きいにも関わらず、半ば忘れ去られているといわれても……まあ不思議はないですね。この展覧会で、ぜひ、この有名なデザイナーの名前をおぼえてください。あと、バイアスカットのマドレーヌ・ヴィオネも。

もうひとりの、フランシス・ジュールダン。実は、このひとが展覧会の目玉なんですよね。私は不覚にも、初見でした。

このひとの何がすごいかといったら、まだアールヌーボーが下火になりかかっていて、アールデコが生まれてすらいなかった時代から、フランスで装飾性をそぎ落としたモダンデザインを志向していたんですね。だから、ジュールダンのデザインにはアールデコとはちょっと違う機能性がある。それでいて、どこはフランス的な華やかさがある。ジュールダンもまた、アールヌーヴォーとアールデコの狭間でデザイン史から抜け落ちちゃったひとなんですね。本展の、この玄人好みのスタンスが一貫しているわけです。

機能と装飾のポリフォニー、いやあ、かなり玄人好みの展覧会ですね。素人が簡単に手を出したら、大事なところの半分も理解できない。下手したら誤解を招く。これはね、解説者がいりますよ。初心者には。

なお、ここからは本展の批判です。

本展は「いいものを見せて並べる」だけの展覧会としてはすばらしいですが、美術展として観るといささか疑問符がつきます。やっぱり、アールヌーヴォーに対する扱いの悪さには納得できません。

本展ではアールヌーヴォーとその系譜を近代モダンデザインからむりやり切り離しています。展覧会の最初に出てきたヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザーはウィーン分離派、アールヌーヴォーから派生した潮流の芸術家でしょう? なのに、ウィーン分離派という言葉がキャプションなどに出てきていません。これは、あきらかにおかしい。

本展は、近代モダンデザインの全体像を知ったうえで鑑賞しないといけません。そうでないと、鑑賞者が近代モダンデザインに対して間違った理解をしてしまいます。

忘れられがちなことですが、芸術、特に美術鑑賞は学問です。鑑賞者にとっては娯楽かもしれませんが、展示する側は学問として行っています。
美術に限らず、学問全体にいえることですが、ひとりの識者からすべての知識をもらおうという姿勢では偏った知識を持ってしまいます。まずは教科書を読んで知識の全体像をまんべんなく知ることが大切です。
高校までの勉強と同じよう知識を吸収すると、学ぶことで偏見を持つ危険性が出てきます。そうならないようにするために、学問や学者(学芸員)がもたらす知のありようを把握してください。これは、美術鑑賞において重要なことです。これは絶対に忘れないでください。

番外編:おすすめホテル① ザ・ゲートホテル両国 by HULIC

二泊目の宿泊地として、両国にあるザ・ゲートホテル両国 by HULIC のモデストセミダブルに泊まりました。同じ名前のホテルが浅草(雷門)にもあって、そちらのほうは2019年以前はだいぶお世話になっていたのですが、今回は両国のほうに泊まりました。
過去形ですが、雷門も相変わらず素晴らしいです。例のあれのおかげで、2020年~2022年度の定宿がホテル龍名館東京になっただけです。

両国のモデストセミダブルのすごいところは、リモートワークに適した造りになっているところです。それも、中途半端な設備ではありません。Vitra社の高さが調整できるデスクとハーマンミラー社のアーロンチェアが備え付けられています。いずれも、オフィス家具ではとても有名な高級ブランドんなんですが、使ってみるとその良さが分かります。正直、「このクラスのホテルでこんなものが実装されているのか!」と驚きました。

また、ゲートホテル名物(?)の生搾りオレンジジュースとエッグベネディクトが売りの朝食もお試ししていただきたいですね。

ホテルの料金はさほど高くはないので、首都圏の方は小説を制作されるときの「キャンプ」として利用するのにオススメです。関西にこの系統のホテルがあったら3泊4日でやってみたいですね。

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①~④まで説明するつもりが、①と②を紹介するだけで3000字以上なってしまいました。私のエントリーはどうしてこうも「高カロリー」なのか。だから、書くのが面倒になっちゃうんですよね。③以降が続けられるかどうかは神のみぞ知る!


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