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会社に隠れて夜の店でバイトしてた頃、
ある日突然やるにやりきれない気持ちになった私は、上がった後に飲む場所を探していた。

マッドな、という言葉がぴったりくるかのような落ち込み。
ガードパイプに寄りかかって半泣きになりながらぼんやりと携帯を見つめて、
見る人が見たら完全に明日死のうとでも思ってるんじゃないかというふうに見えたと思う。

夜も深くなった頃、通りがかりの男が声をかけてきた。
道に落ちた猫でも拾うような、気軽な感じだったと思う。
すでにどうでもよくなっていた私は、誘われるままなんとなく飲みに行くことにした。

自分はゲーム会社の役員であり、自分で会社も持っているという話で、家も私を拾ったあたりからすぐだという。
毛頭ヤる気などない私は、小綺麗な店でビールなど2、3杯飲みながらダラダラ過ごし、時間をつぶそうと試みる。
夜の闇は、うっすらと溶け始めていた。

金持ちを自負する割にはハンパにケチでしつこくてめんどくさい男だなと思ったのをよく覚えている。
行くか行かないか、おきまりの面倒なやりとりの末、終電までの一時間をマックで過ごすという主張を通すことに成功する。
「帰って」という私の苛立ちをよそに、奴は最後までのこっていた。

それから結局2、3回会ったような気がする。
別に特別な話はなかったけど、きっとお互いがお互い都合のいい仲だっただけ。

築地が移転すると聞いた瞬間、ある朝そいつと銀座から寿司を食べに行ったことが、なぜか昨日のことのように思い出された。

銀座からはちょっとした散歩にはちょうどいい距離だ。威勢のいい呼び声が飛び交う市場の朝は想像以上にまぶしかった。
カウンターで好き放題寿司を頼んで、場外で卵焼きや練り物をつまんで…
隣にいるのが奴とはいえ、なんかそれなりに幸せっぽい朝だった。

あれから奴と会うこともなくなったし、
男友達は多いけれど、出会いといえば衝動的で刹那的なことばかりで。

結婚出産を優先にする気は毛頭ないためか、そんなに彼氏彼氏といってもいられないのだけど、
あの築地のような平和な朝ってもう訪れないのかなと思うと、ちょっぴりセンチメンタルになったりする。

そんな私にも小さな夢の日をくれた市場に、ありがとうと一言つたえたかった。

図解でコミュニケーションを変えることをミッションにここ3年くらい活動