【小説】SNSの悪夢
「あなたは痴漢が居ると知っていて乗ってたんですよね、何故大声を出したりしなかったんですか?」何だかオカシイと思うのは、自分だけでは無い筈だ。
「解っていて乗っていたんですが、いざ自分が痴漢に会うと、声が出せないもんなんですよ、次は絶対に声を出しますけどね。」大きな声で主張してくる。
「声出せないんですか?」何気なく聞いた言葉に、憤慨した顔でもう1つ大きな声が迫ってくる。
「声なんて出ませんよ、男の人は解らないんでしょうね、自分の心まで侵された気分になるのは。」反応が大きすぎて戸惑う、来るかもしれないと、気を入れて乗った電車でしょ?
「パーソナルスペースどころの話しじゃ無いんですよ、触られるんです、直ぐには反応できないですよ。」そんな物なのかもしれない、理解できない気持ちを横に押しやって、納得した気分を頭に押し込む。
「解かりました、それじゃあ、痴漢を捕まえる方法を考えましょうか?」彼女の怒りを鎮めるために、言葉を選ぶ。
「そうですね、私も捕まえたいと思っていたんですよ、あの車両で痴漢にあうって話しか噂では言われて無くって、痴漢の顔を見たんですよね、あなたが見たのなら捕まえられる。」そこでホッとした顔をして、自分を見てくる。
「でも、後で見たと言っても、捕まえられないですよ、証拠も何も取って無かったから。」言い訳がましく、期待を挫く。
「顔を見たのなら大丈夫です、あの男を携帯でずっと撮り続けたら良いんですから、絶対に又痴漢しますよ。」自分にしろと言っているのかな、別に撮影はするつもりだったが、納得は出来ない。
「私に撮影しろと言っているんですか?」声を潜めるのも忘れて言葉を出した。
「ごめんなさい、そんな風に聞こえましたか?協力して貰いたいと思って、言葉を間違えてしまいました。」素直に謝ってくる。
「失礼します。」店員が料理を並べに来た、並べている間は2人とも無言になる。
2人で食事をするのを、店員は如何思っているのだろう、大声で話しているので、カップルが喧嘩していると考えているかも知れない。
「美味しそうですね、私もグラタン頼んだら良かった。」並べられた食事を見て彼女が言った。
「あなたのも美味しそうじゃ無いですか、取り敢えず食べましょう、冷めますよ。」自分の前に置かれた暖かい料理を見て言った。
「そうですね、立花さんが良い人で良かった、協力してくれる人がなかなかいなくて。」彼女は前に置かれたパスタを啜り乍ら話す。
「そこ迄いい人では無いですよ。」本当のことを話した。