【小説】SNSの悪夢
マンションから出てきた男は、急ぎ足で駅へと向かう人の群れに入って行った。
立花は付けてるとは見えない風情で、遅れない様に後をつける、次の仕事は探偵が良いのかも知れない。
ドラマで探偵と言うと、急に出てきて推理を話したりするが、本当のところはそんな事態は無いのだろう。
じっくりと標的の男を見ながら、駅への道を歩いてゆく、皆朝は忙しいから、せかせかと道を歩く。
件の男もマンションを出た時にはゆっくりだった歩みも、駅に近づくにつれ早くなっていった。
駅に着くと仕事に向かう人波の中に埋もれてしまいそうだ、毎日同じ時間に同じ所に向かうのは辛くは無いのだろうか。
誰しも自由な訳じゃ無いと言っていた友人を思い出す、自分が夢に向かっていると言った時に、諦めた声で言っていた。
ここに居るのは自由の無い群れなのか、それともこれが本当に自分の自由だと勘違いしている集まりなのか。
諦めた時に夢を持つ人間を恨んで、その人間を攻撃するのを考えてゆくのか。
電車に乗る人たちは、服さえ同じように見える、学校で規則に縛られて、やっと何をしても良い状態になったのに、自分で規則を作っているのかも知れない。
男が電車を待っている、自分もその電車に乗り込まなければ、そう考えて慌てて同じ車両に乗り込んでみる。
車両はとんでもない混み様で、身体を小さくしたとしても、横の人間には身体が触れる。
身体を触れる事に危機感を持っていたら、乗れない位には混んでいる、リモートワークってのはどうなったんだ?考えつつ気付いた。
そうだ、満員電車に乗る時には手を上げていた方が良いと、何かに書いてあった。
不倫疑惑だけじゃなく、痴漢疑惑までされたら堪ったもんじゃない、そう考えて手を上げる。
携帯はズボンのポケットの中だ、急に見なきゃいけない物も無いだろう、有ったとしても、この状態では仕方が無い、そう考えてあの男の方を見る。
一寸した違和感がある、何だか変だ、隣の女性が嫌な顔をしている、困ったと言うよりは嫌がっている顔だ。
しっかりと見つめる、ここまで混んでいてはハッキリとした事態は見えないが、如何にも痴漢が居る様だ。
近くには男はあの男ともう1人、でもそのもう1人は手を上げて吊革を握っている。
出来るのはあの男じゃないのか、シマッタな、携帯を持っていたら、撮影できたかもしれないのに、後悔が襲ってくる。
まあいい、何日か付いて回れば、他でもやらかすだろう、その時には証拠を晒してやろう。
痴漢は女の敵だ、そして男の妻は俺の敵なのだ。
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