アートとまちづくり

アートからまちづくりへ

大学で6年、公立文化施設で9年アートに関わり、ポンっと一般社会に出てしまった私。何をどう仕事にしたら良いのか正直わからない時期もありました。
幸い、私が関わっていた現代美術や演劇のワークショップは、人や地域と関わることが前提といいますか、その上に成り立つ表現だったこともあり、人や地域に対して特別なハードルを感じたことはありませんでした。
むしろ、アートのアートらしい面をあまり好まなくなっていたため、新しい領域に挑戦する、みたいな感覚でもありました。

え?

街に関わり始めて驚いたのが、人がいない。店がない。
魅力的な店舗もありますが、飲食店が多い。
当初何件かあった物販のお店もひとつ、またひとつと姿を消していきました。
「街にはお客さんがいない」一番に感じたことはそれでした。
そして、店主から聞こえてくるのは「昔と比べて人がいない・・・」というぼやきでした。
もちろん、郊外の大型商業施設の出店、ライフスタイルの変化、インターネットでの買物・・・人が少なくなる理由を挙げればキリがありません。
タマゴが先か、ニワトリが先か・・・よく分かりませんが、この街は売る人と買う人の関係が上手くいっていない。
もしかすると、この街に限ったことだけではないかもしれません。
お客さんがいないのは原因ではなく、現象なのです。

アートを当てはめる

そこで私にできたことは、アートでやってきた経験を当てはめること。
街のこだわりを持ったお店で話を伺えばうかがうほど、哲学っていう言葉がピンとくるほど、店主さんは個性的です。さながら、アーティスト。
通りやお店を何かに見立てる。
参加型のイベントを使って関わる人を増やしていく。
私はアートやアーティストと一緒にやってきたことをそのまま街に活かすことにしたのです。
ええ、偉そうに言いましたが、それしかできなかったのです。

活性化とかにぎわいとかまちづくりとか言ってしまうと、プレッシャーになります。
その点、「企画」なので気負いません。
できることだけやります。
楽しいこと、喜びが想像できることだけやります。
そんなスタンスを選択できたのもアートのおかげでした。

街に入れ知恵_サイトスペシフィック

私が特に意識している概念を二つご紹介します。
まずは舌をかみそうなこの言葉。サイトスペシフィックについて。

街の歴史や地理、物語などの特性を考えたとき、どんな店や場だったら成立する、もしくは面白いか・・・というアプローチを心がけています。
一般的な出店や場づくりには、人通りが多いことや利便性、ターゲットと言われる人のニーズを捉えることが上位概念ですが、この考え方は必ずしもそうではありません。

街に入れ知恵_ワークインプログレス

もう一つは、ワークインプログレス。

“その過程も作品”という考え方に依ると、完璧な体験を提供することより不完全なものをその未来の姿も含めて楽しんでしまおうという意識が生まれます。
だからこそ関わり合いのなかで、人も場もお互い成長でき、コミュニケーションが絶えず循環する環境となります。
愛される場になるには、お互いに“つくりあう”過程が重要です。

脱商業施設の時代はきっと来る

美術史の流れを思い起こせば、かしこまったホワイトキューブ(美術館)から、パブリックアートへと新しい流れができた過去があります。
私はうすうすその流れは街にもやってくるんだと思っています。
綺麗な商業施設でなく、雑多で未整理で魅力的、面白い、楽しい街の魅力に目を向ける人たちは今後、きっと増えます。

なぜなら、人はそうやって行きすぎることにバランスを取るからです。
街を楽しみたいと選択するようになり、街の機能はもっと重要になります。
その時に、選んでもらえる街になりたい・・・そう思って関わり続けています。


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