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SUPERMARINE (3-後半)

 PB9の注文は来なかった。ペンバートン=ビリングは戦争期間中、工場を英国政府に無償で提供した。だが彼らがそれを断った時、PBは彼の愛した飛行機会社への興味を失ってしまい、イギリス海軍航空隊へ入隊した。ドイツの飛行機工場への爆撃計画でより名声を得られるだろうと踏んでのことだった。後年、PBは彼がどのように敵の列の背後で罠にはまり、観賞用のライオン像でドイツ兵の頭をぶん殴って逃げたかという話をすることになる。そのライオンは来客を彼の生還ストーリーで楽しませるためにPBの居間の飾り棚に長年飾られた。一方、スコットペインは何も作ることなく工場の経営は続け、ボスもいなければ資金もなくなっていた。しかし彼は簡単に打ち負かされるような男ではない。1914年12月5日、彼はPBに会社の支配権を譲渡するよう説き伏せた。

 海岸沿いの哨戒兼対潜水艦用のフロート水上機S.38を12機を受注するまでは工場は他社の飛行機の修理の事業でなんとか食い繋いだ。同じくPB25偵察機や対ツェッペリン用戦闘機PB311E ”ナイトホーク” などいくつかの土着の飛行機が開発された。

画像1ペンバートン=ビリング社のネイビープレーン。草創期の海軍の水上飛行機であるネイビープレーンはワイヤレスセットと銃が搭載された複座機としてデザインされたが、脆くて動力不足だった上に軍用路を持ってしても離陸し辛かった。

 その頃ペンバートン=ビリングはそれまでの彼の他の偉業を捨てたのと同じくらいの早さで海軍での役割を降り、修理したPB9を彼の英国議会選挙の宣伝用に使っていた。彼のキャラクターと、英国政府がパイロットになる人材を戦闘に送りこみ事実上殺し続けたせいで英国軍の軍用機がいかにお粗末で悲惨であるかを主張し続けたその悪評を生かして彼は成功し、勇往邁進な航空政策で選出された最初の議員となった。(しかし)英国社会を弱体化させるためにドイツのスパイとして働いている英国の同性愛者の陰謀がある、と彼が主張し、その彼の任期はすぐに茶番へ成り下がってしまった。女優のモード・アランは彼が彼女のことを”クリトリスのカルト(The Cult of the Clitoris)”だと非難すると、彼を法廷へと連れ出した。PBは彼自身で弁護を行い、この件を公に彼の奇妙な陰謀論を表明する根拠として利用した。

 1916年9月、ヒューバート・スコット・ペインはついにPBから工場の全ての所有権を獲得し、社名をスーパーマリーン・エアクラフト株式会社へと変更した。これは第一次世界大戦中にスーパーマリーンによって行われた最も重要な仕事を形作ることになっていた新しい契約と同時に起こっている。これらは海軍の航空部門のために作られたデザインのことで、特筆すべきはA.D.フライングボートとN1.Bベイビーである。これら二つのフライングボートは工場の仕事の中で重大な影響力があり、後の航空業界の残りの部分においても同様であった。

画像1ペンバートン=ビリング偵察機。ネイビープレーンと似ているが、これは第一次世界大戦中の偵察機においてポピュラーな外観であった。後方についているプロペラがポッドのようなフロントシートに座す偵察員に見晴らしの良い視界をもたらす。
画像1N1.Bベイビーは第一次世界大戦中数少ないフライングボートの戦闘機である。このベイビーは戦争が続いていたら北海でドイツの水上機と戦っていたであろう卓越したデザインであった。また、ベイビーはスーパーマリーンが大成功を収めた1920年代初頭のレーシング・フライングボートの基礎となった。

Chapter 4 へつづく。




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UPERMARINE AN ILLUSTRATED HISTORY
CHRISTPHER SMITH
2016







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