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君が大切になりすぎた

君の音がしない。
ベッドの中で強く光るスマホの通知画面に、君の名前は並ばない。

たとえば、と前置きするときは、それが叶わないと知っていることばが続く。

たとえば、20代で出会っていたら。
あの街ですれ違っていたら。

例え話なんてしなくても、それがどの瞬間であっても、きっと君に惹かれていた。

だって、きっと今が一番最悪のタイミング。
それなのに、こんなに君を必要としているんだから。

思いつめても仕方ない。
考えたって仕方ない。

泣いて解決するのなら、何リットルでも涙を流す。

わたしにできることは、そう多くはないのだ。
無力で役立たずで嫌になる。

こんなとき、わたしは優しくされすぎた、と思う。

優しくされたいと求めていたけれど、そうされることに慣れすぎた。
ふと手を離れた瞬間に、今まで優しくされてきた場所がぽっかり空いて、そこがキリキリと痛みだす。

君は、わたしが泣いていることを知っている。
だからできるだけ、たくさんことばを残してくれた。

自分が好きな映画。音楽。テレビ。CM。キャッチコピー。
子供の頃の記憶。辛かったこと。
仕事への思い。向き合い方。日常の愚痴。将来の夢。

そして。

わたしの好きなところ。
過去を含めて大切に思ってくれていること。
仕事のサポート。
未来への後押し。

わたしは、それだけの想いを返せていただろうか。
口にするのが苦手なわたしを受け容れて、甘やかしてきたんじゃないか。
もらったものの多さに、身に余るほどの優しさに窒息して、このまま死んでしまいたい。

ああ 憶えている最後の一行は「必ず帰るよ」
宇多田ヒカル「Letters」

「Letters」は仕事で不在にする母親への思いを書いた曲だ。
愛おしく、切なく、会いたいのに会えない思いが、存在を求める切実さが詰まっている。

「また連絡するよ」

君の言葉がリンクする。
信じて待つことが、今のわたしにできること。
今日かもしれないし、明日かもしれないし、もう少し先になったとしても。

どうかわたしから君へ、

ああ 安らぐ場所を 夢に続きを
ああ 君に「おかえり」を
宇多田ヒカル「Letters」

そのことばを、伝えさせてほしい。

君は私を大切にしすぎた。
わたしは君が大切になりすぎた。

私にあなたを。

いつまでも消えることのないこの想いを、届く日まで送り続けるから。

いつもありがとう。
愛しています。
そして、おかえりなさい。

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