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ここではない、どこかへ 『ロンドン・カプセル』

学生の頃「愛読書です」と言えばオシャレな感じがする
『星の王子さま』を読んだけれど、
私には特に響かなかった。
少し大人になってから、今なら感動するだろうか、
訳者もいろんな方がいるし、と
こだわりの訳者さん・オシャレな装丁の本選んで買って
読んでみたけれど、やっぱり
私には特に響かなかった。

手垢がつきすぎて、花は萎れてしまったのだろうか。


就職したばかりの頃だったか、タイトルにひかれて手に取った本。

一度手放したものを、少し前にまた購入した。

『ロンドン・カプセル』

最初に手に入れた当時、ロンドンを卒業旅行先に選んだこともあり、

ロンドンには淡い憧れを抱いていた。

「ここではない、どこかへ、行ってみたいなぁ」

「ここではない、どこかへ行けば、今よりもっと、素敵な自分に」

実際には就職氷河期と言われる時代に運よく、就職でき

あっという間に楽しいことも悲しいこともたくさん詰まった

充実した日々が始まった。


『ロンドン・カプセル』には、だいたい95年頃から特に増えてきたという

ロンドンに来た日本人45人のプライベート・レポートが載っている。

2000年初版の本で、今とはまた違う当時の30歳前後の女性の

ちょっと勢いのある感じ、

そんな彼女たちの言葉や生活を垣間見ることができて興味深い。


どうして来たのか・何をしているのか・いつまでいるのか

この3つの質問はロンドンに来た彼女たちがいつも聞かれるセットなのだという。


学生ヴィザを取得し、昼間は語学学校に通い、夜はバイト。

学生の労働は週20時間までと法律で決まっているので、

生活にあまり余裕はなく、

家賃が高いので、ハウスシェアで暮らすのが一般的なんだそう。

必要最低限のもので暮らし、かといって窮屈でもなければ退屈でもない。

お金をかけなくても、広い芝生の公園や無料で入れる美術館などがある。

苦労も多いけれど、同時に、気楽でいられる場所であり、

みんな出来る限りロンドンに長くいたいのだそう。

行ってみたいなぁと言いつつ、

行く人と行かない人の違いは何だろう。

姉は、「好きなことをしてていいわね」と、私のことを羨ましがっているようだが、それなら私がイギリスにいる間に来ればいいのに、と言っても来ない。「かおりは勇気があるから」と言うけど、私は別に勇気を出して来たわけじゃない。来たいから、来ることが自然だから来ただけ。
(「ロンドン・カプセル/木越 由美子」カオリ・イナガワさんのレポートより)


ここではない、どこかへ行けば、今よりもっと、素敵な自分に


昔、バンドをしている友人が、突然「インドに行ってくる」と言い

バンドを一時辞めて、実際に何か月かインドへ行った。

ビートルズも行って影響を受けた、というインド。

バンドマンなら一度は憧れる地なのだろうか。

帰ってきて一緒にご飯を食べた時、

「みんな、『インドに行ったら変わるよ!』って言ってたけど、
行ってみたら別に、何にも変わらなかったよ」

と笑う友人を見て、

「なんて正直な人なんだろう」

と思った。

そもそも何を変えたかったのかを聞くのを忘れたけれど、

私はただ正直なその友人をそれだけで素晴らしいと思った。

何も変わらなくて良かったんだ。

日本にいた時はとりつかれるように弾いていたピアノも、今では弾かなくても平気になった。言葉にできない気持ちを、曲を作ることで補っていたのだなと思う。他人のせいにしていた不平不満も、実は、自分にやりたいことをやる勇気が無かったから。そして、コミュニケーションを自分から避けていたからだという事に気付いて、不満ばかり書きつのっていた日記を燃やした。日本に帰ったら両親といっぱい話をして、私のことを知ってもらいたい。そして、両親のこともいろいろ聞かせて欲しい、と今は思う。

カトマンズからヨーロッパを旅してきた人が「ボクは快楽を求めて日本を出て旅をして来たが、いつでもどこでも自分は自分でいればいいんだということがわかったよ」と話してくれた。私も、問題は場所ではなく、自分の意志がどこにあるかだということに気がついた。
(「ロンドン・カプセル/木越由美子」 ミエコ・スズキさんのレポートより)


彼女たちの生活を見ていると、

今のミニマリストと呼ばれる人たちと少し似ているなぁと感じた。

彼女たちの場合は、学費や生活費を稼ぐために必要最低限の暮らしの中で、

本当に必要なものや好きなものを見極めて暮らしている。

荷物がトランク一つだけ、という人もいた。

あの時代、バブルを経験している世代。

彼女たちが他の女の子と違った点は、

海外へ飛び出す行動力はもちろん、

流行り物やステイタスを持つことよりも大事なことがあると、

どこか嗅覚のようなものがはたらいたところのような気がする。


そして、現在のミニマリストたちの方はお金はあるけれど、

あえて周りに物を極力置かずにノイズを消している。

ノイズを消して自分と向き合えば、本来の自分を取り戻すことが出来る。

それは「変わること」というよりは、「自分になること」なのだろう。


ただやみくもに、どこかに何かを探しに行ったのでは、何も見つからない。

探しているものが何なのか知る必要があり、

そしてそれを知っているのは自分だけなのだから。

まずは、本来の自分を取り戻す。

それがロンドンへ行くことなのか、

ミニマリストになることなのか、

マインドフルネスをやってみるのか、

おとなの塗り絵をやってみるのか(笑)、

方法は意外と沢山あるのかもしれない。


そして私は、と言えば、

今はここではないどこかへ行ってみたいとはもう思わない

今、ここが幸せ


「星の王子さま」は何を探していた?

ここではない、どこかへ辿り着いたとき、

そこにはいない、バラをみつけた。

他のどのバラとも違う、王子さまだけのバラを。


ところで、星の王子さまのグリーティング切手は買ったよ。
だってオシャレだから(笑)。

それから、この記事を書き終えたら、
このオシャレな装丁の「星の王子さま」をもう一度読むことに決めた。
なぜなら、読む前から感動を求めていた私。もはや、目に見えないはずの「感動」に「かたち」を求めていたような気がする。
手垢がつきすぎて曇っていたのは私の方だったのかもしれない。
何も考えず、ただ物語を楽しんでみようと思う。


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皆様のお陰です。ありがとうございます♪

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