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近鉄

以前も書いた気がするが、「近鉄」こと近畿日本鉄道と「阪急」こと阪急電鉄は非常に物語の舞台或は登場人物として優れている。と勝手に思っている。

無論私は沿線住民ではなく、旅行で関西に行く際に利用する程度の人間であるので、田舎民特有の憧れというフィルターが存在しているのもあるかも知れない。西から京都へ向かう時は新大阪で新幹線を降りて、梅田まで行き阪急に乗り換えて京都へ行くほどである。

とにかく、この二つの鉄道が入り込んできた物語に魅かれやすいのは事実である。

先日、前野ひろみち氏の『満月と近鉄』という小説を読んだ。4つの短編集である。

素直な感想は「なじゃぁこりゃ!」である。久々に脳天が揺れるような感覚、こんなおもろい本、というか作家さんいたんか!4つの短編集であるが、それは一つの筋として繋がり、前野氏の人生とリンクした時、とんでもない爽快感、衝撃であった。解説を書いている仁木英之氏が初めて原稿を読んだ時の衝撃も頷ける。

なんでそんな設定思いつくの?という話から、駆り立てる青春の初期衝動まで、ぶっとんでるようだけど丁寧に描くストーリー…。私自身の人生にとっては「修学旅行での行先」ぐらいの認識しかない奈良という古都を舞台にしているにもかかわらず、なんか懐かしいなと思わせる青春の思い出。近鉄の窓からこぼれた光が照らすコマ送りの記憶のような、平城宮の涼しい風が吹いた時のような、とにもかくにも自分のあの青春と奈良に行きたくなった。

「近鉄は僕や」と言って、どこへでも行けると確信してしまうその青々さを、良い意味での世間知らずさを取り戻しに。



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