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希望溢れる未来(前)

時は来た。
そう思いながら私は東京を見下ろせる高層ビルにいた。
既に我がバンドの武道館2days公演は3日後に迫っている。
「時は来た。いよいよである。」
声に出してみたとて誰かが返事をしてくれるわけではない。
皆自分の生活で精いっぱいなのであろう。

そうこうしているうちにドアが開きひょうひょうとした一人の男が入ってきた。短パンに半そで、サンダルといういでたちは3年前から何も変わっていない。
「なんだ、肉風呂ジャグジーが楽しめると聞いてきたのに変態ベーシストがいるだけじゃないか。」
入って来て早々酷い言いようである。
「おいおい新人気鋭の人気作家がそんなことを言っていいのかい?」
「私はここ毎日取材に次ぐ取材、そしてエッセイの締め切りに追われて忙しいんだ!くそ!女の一人くらいよこせ。」
と憤慨している彼こそ今巷で話題の新人作家である。ここでは敬愛を込めて「先生」とお呼びする。

言うまでもない、今日ここに集まったのは「先生」の初のエッセイ本に我々の鼎談が載るのである。さて、鼎談と呼ぶからにはもう一人必要であわけだが、そこで登場するのが通称「デルタ」である。彼は大学時代、三角関係につぐ三角関係を魔方陣を描くかの如く作り上げ、それに自らはまり藻掻き苦しんでいたが故にその名がついている。その変態性が才能として開花し現在は「ローカルAVライター」として日々AVのキャッチーコピーを書き上げいてる。そんな彼は「やぁやぁ、清楚で巨乳のインタビュアーはどこだい?」と言いながら入ってきた。それだけでこの空間の偏差値が5ほど下がるのを感じざるを得なかった。

さて、これで役者がそろったわけだが、言うまでもない、我々はかつて「下半身資本論編集部」なる組織を立ち上げ、田舎の芋くさい大学生たちの間で爆発的な影響力を持った『下半身資本論』を先生を中心に刊行したという華々しい経歴を持つ。また、大学卒業直前に「モラトリアム宣言」なるものを出し「一生モラトリアムします。」と記者会見をしていたのを覚えている方もおられよう。そんな彼らが今や、武道館公演を行うバンドマンのベーシスト、ローカルAVライター、新人売れっ子作家となり東京のビルにいる。なんと素晴らしい。まさに殿上人。夢心地。関白の座も近い。

んなことを思っていると、非常に清楚で巨乳のインタビュアーが入ってきた。同時に隣の「デルタ」の体温が2度上がるのを感じた。気色悪い。と思うと「先生」も鼻の下が伸びている。小説の映画化にあたり浜辺美波氏を私欲の為だけにキャスティングしただけはある。ド変態め。斯く言う私はレディーの前でも何も取り乱すことなくインタビューに臨もうとしている。まったく、私の心がけを見習ってほしいものである。

さて、準備も整い、いよいよ鼎談のスタートである。

ー続く



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