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19滴目

故郷

母の家に里?帰り?

やっぱり来るんじゃなかったな

自分に帰る家がないと
思い知るだけ

祖父母の愛の結晶の家
娘に惜しみなく与えた
彼らの生きた証

暖かいまっすぐな愛の中
まっすぐすくすく育った母という
娘さんの棲家

新興宗教サークル仲間に
満たされて暮らす
出戻り極楽御殿

祖父が妻を心から愛し敬い
祖母が美しく穏やかに暮らした跡

家中に飾られた
祖父が彫った額縁に収められている
祖母が描いた油絵

祖母の闘病のために祖父が増築した
桜の木で出来た機密性の高い居室

リビング一面のガラス棚を
埋め尽くす食器美術館

こんなにも保存されたお城
以前までの私には見えなかった
うるさいほどの愛の爪痕

私の育った家は
完全に消え去った
暴力と再構築で
自らの拒絶と自然な締め出しで

見るもおぞましい夢の痕


私が帰る場所は、
私が棲む場所は
やっぱり「ここ」にしか
ないんだと

結局甘えられない、
年老いた母
傷ついた母

結局甘えられない、
裏切った夫
傷つけた夫

結局私が甘えられるのは
日本という
祖国だけ
地球という
故郷だけ
宇宙という
自然だけ
言葉という
  だけ

==

それでも愛を
知覚できるようになったことを
知る旅だったのなら
それでよしという
ことにする

例えばひとりで大丈夫だと
去勢を張る母の強がりならば
それもまた一つの愛なのかと

求めた形で貰えないことなんて
この世の常で
あたしはきっとこれからも
愛に彷徨う
たびびとで

それでもそんな
逆境を糧に
築き上げた本物の家族
必死で守っていく
これからも。

===

実家?

「実家」

実の家、
実の家

実の
実の?

それはない
実の家、なんてみんな持っていたの?

わたしそれない
それないyo
だからこんなに
私この世から仲間外れ、?

不思議な不思議な
幻の存在

「実家」

===

母には可哀想ではっきりとは言えないけれど、
父は母を愛してはいなかったのだと思う。
そもそも父は女を愛せる人間じゃなかった。
お母さんはずっと、透明人間だったのだ。

母は、立派な父母に、蝶よ花よと甘やかされて育ったお嬢さんだ。外見の可愛い、ちょっと不器用で危なっかしい、初めての子ども。全力で社会のレールに乗せた彼らの傑作品。

だけど、自分に人権を認めない男を掴んだ。
あまりに異性を見る目がない。愛されることが当たり前だと思い過ぎていて、男が、自分という人間を愛してないことに、気づけなかった。あるいは支配、所有も、恋の一つの形なのか?

親の思い通りに喜んでなった娘。親と相思相愛過ぎたのだ。満たされ過ぎていた。

父にはおそらく心に大きな大きな空洞があって、おそらくその心の穴に、「デキル女」が吸い寄せられるのだろう。デキル女にはダメ男、デキル男にはかわいそうな女。世界はそういうふうに出来ている。「相補性」。それが恋と生殖の仕掛けだ。

父の母である祖母は、夫である祖父から「絶対に子どもを叱るな」と言われて、その言いつけを頑なに守って育てた。3人の子のうち、第一子の伯父と、第三子の叔母は産まれつき穏やかな性格で、叱られなかったことでまっすぐに育った。
でも第二子の父は違った。いじめっ子のガキ大将。ジャイアンだ。ジャイアンを、おかあちゃんが叱らなかったらどうなるか。父は、おそらく叱ってほしかったのだ、怒って欲しかったのだ、おかあちゃんに。
でも、1度だけ父親から激しい折檻を受けた。兵隊仕込みの激しさだった。たった1度だけ。そのたった一度の「叱られ体験」に、父はその後の人生を支配されているのだろう。その一度の叱られ体験(親の世間体を壊したこと)だけは気をつけるようになった。だけど人から叱られるとパニックになる。
自分への教育に誤りがあったことを、父はわかっているはずだ。おそらく恨んでもいた。だから高い理想と情熱をもって公教育に一生を捧げた。そしてその反動は、当然家庭に向かった。
あまりの暴力の酷さに、祖母は、妻である母に、毒を盛るよう、毒を手渡したことがある。母はもちろん、良い子なので、盛れなかった。

私は、そのとき祖母が盛ればよかったのだと思う。

生殺与奪は母の手にある。あたしはそれでいいと思う。躾に失敗した息子が、殺人事件を起こす前に、母の愛と責任のもと、優しく葬るほうが世の中のためである。自傷はまだしも、他害する男は世の中の害悪だ。

私は私の殺意と、これからも付き合っていかなければならない。

===

独裁者

付ける薬が
ない人間もいる

そういう人を
どうすればいいんだろう

反省すらできない人
自らの罪を受け入れられない人を

自らの正当性を主張し続ける人を
どうやって許せるのだろう

1人殺めれば
すむ問題を
1人2人3人
いつのまにか7人8人
どんどんたくさん
不幸にできる
へたをしたら
1万人に伝播する
100万人に伝播する
1人殺めれば
すむ問題を

止める
癒す

反省できない人を
許す
殺さずに許す

実害を加えられた人間には
許すことなどできないから

私じゃない誰かが
彼を許して
薄まった誰かが
彼を癒して

許せない私を
誰か許して
許さなくていいって
誰か
許せない私を許して 


スケープゴート

私が 父に向けた殺意が
父から私に 返ってきていて
私を 今にも殺しそうである

父がわけもわからず
母に向けた殺意と実害は
母をとおして
私に燻っている

父が受けた
祖父からの殺意と実害を
父は祖父に
返すことができず

祖母が責任を感じて
息子に向けた
愛ある殺意は
祖母がずっと飲み込んだまま死んでいった

わけもわからぬ殺意と実害を働いた男は
結局さいごまで
付ける薬はないようで
反省を口にすることができず

B29で原爆を落とした実行者も
その罪が重過ぎるが故に
罪悪感で自分が死ねるほどの
罪であるが故に

結局誰かが
愛ある殺意を飲み込み続けるしか
皆を守る方法はないのでした

殺意を飲み込み続ける者が
この世には必要なのだ
なぜか私は父親を守る

理不尽夫人


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