2023/12/28(木)のゾンビ論文 中国のゾンビにタイのゾンビ

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などを評論する論文を排除する

  • 「-Netflix」:ネトフリ限定ゾンビドラマなどを引用する論文を排除する

  • 「-network」:とにかく情報科学の論文を排除したい

検索条件2は、最後の三つの検索キーワードがないため、これらが排除した論文がねらい通りかどうか確かめる目的がある。また、検索条件3では「-philosophical」と「-gender」という一般性の高い検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」四件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」五件(差分一件)

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」七件(検索条件2との差分は二件)

検索条件1は経済学が二件、政治学、言語学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」

カナダのゾンビ企業

一件目。

原題:Zombie firms in Canada
掲載:Economic and social reports
著者:Alexander Amundsen と Amélie Lafrance-Cooke、 Danny Leungの三名
ジャンル:経済学

タイトルの通りゾンビ企業に関する論文。ジャンルは経済学。「-firm」が機能していない。どうしたことだ。

カナダはじめ先進諸国ではゾンビ企業の割合が増えており、カナダでは鉱山や採石などの採掘系の分野でゾンビ企業が増えているとのこと。でもそういう先進国ではウケにくいが必要な分野こそ、公的リソースを突っ込んででも生かしておかないといけないのでは?


仮想通貨ゾンビの市場:DeFiレンディングにおける担保不足

二件目。

原題:The Market for Crypto Zombies: Under-Collateralization in DeFi Lending
掲載:
著者:Murillo Campelloを筆頭著者として、四名
ジャンル:経済学

ゾンビ企業に言及。マジでなんでや。「-firm」じゃなくて「-firms」にすべきか?

zombieの単語は"zombie firm"以外にも、"zombie debt"(ゾンビ債務)、"zombie loan"(ゾンビ貸し付け)、"zombie bank"(ゾンビ銀行)、"zombie corporate loan"(ゾンビ企業貸し付け?)という文字列で出てくる。

ジャンルは経済学。


恐怖、不安、恐怖:新しい権威主義か古い権威主義か?

三件目。

原題:Fear, anxiety, and terror: a new or the old authoritarianism?
掲載:Psychoanalysis and Politics/Societe psychanalytique de Paris
著者:Željka Matijašević
ジャンル:政治学

権威主義を論じている。zombieの単語は"zombie authoritarianism"(ゾンビ権威主義)という文字列で出てくる。意味は"copycat democracy"(模倣的民主主義)らしいが、意味はよくわからない。

ジャンルは政治学でいいだろう。権威主義を受け入れる心理がどうとか言っているが、心理学にそぐわないと思う。


Twitterで新型コロナウイルス感染症に直面する: 英語の直喩の認知分析

四件目。

原題:Afrontando la Covid-19 en Twitter: un análisis cognitivo del símil en inglés
掲載:Universidad de La Riojaに提出された修士論文
著者:Lidia Fernández Cristóbal
ジャンル:言語学?

タイトルの通り、コロナ禍が何に喩えられているかを分析した論文。コロナ禍をゾンビ・アポカリプスが訪れた世界に喩えられているケースに言及している。

ジャンルは、自信はないが、言語学だろうか?



検索条件2「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

検索条件1との差分を調べ、「-narrative」「-Netflix」「-network」が排除した論文がねらい通りだったか確認する。

アンサンブル学習に基づくゾンビ企業分類認識システムの設計と研究

原題:Design and Study of Zombie Enterprise Classification and Recognition Systems Based on Ensemble Learning
掲載:The International Arab Journal of Information Technology
著者:Shutong Pangを筆頭著者として、四名
ジャンル:経済学

「-network」で排除。ゾンビ企業に言及。



検索条件3「zombie -firm -xylazine -biolegend」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

ホッピングデッド。 中国文化におけるゾンビ。 英語への翻訳

原題:The Hopping Dead. Zombies in the Chinese Culture. Translation into English
掲載:Тело в меняющемся мире
著者:Asia A. Sarakaeva と Elina A. Sarakaeva
ジャンル:比較文化学

「-philosophical」で排除。中国文化におけるゾンビを調査したと主張しているが、ゾンビではなくキョンシーだ。タイトルの"The Hopping Dead"は直訳で「跳ねる死体」、つまりキョンシーだ。ゾンビ文化に脳をやられた人間は他文化の伝統を重んじた言葉遣いができないのだろうか。それともゾンビを動く死体の一般名詞くらいにしか思っていないのか。前者ならば他文化への侵略、後者ならばハイチ文化の無理解と断言できる。どちらにせよ私が嫌いなタイプの研究者だ。一応、キョンシーは中国語表記で「僵尸」、英語表記で“jiangshī”と言及してはいるが。

ただ、中国の古代宗教の解説は興味を引かれる。

The authors examine how the idea of evil spirits (with a body or bodiless ones) first appeared in the religious worldview of the ancient Chinese, and trace its origin to the doctrine of existence of multiple souls in one person.
(著者らは、悪霊(肉体を持つもの、あるいは肉体のないもの)という考えが古代中国の宗教的世界観にどのようにして最初に現れたのかを検証し、その起源を一人の人間の中に複数の魂が存在するという教義に遡ります。)

同論文より


気まぐれな気晴らし:装飾、感情、ゾンビ、そしてタイの仏教研究

原題:Wayward Distractions: Ornament, Emotion, Zombies and the Study of Buddhism in Thailand
掲載:NUS Press in association with Kyoto University Press
著者:Arthid Sheravanichkul
ジャンル:評論(書評)

排除キーワードは不明。Justin Thomas McDaniel著『Wayward Distractions』の書評。どういう理由か不明だが、ゾンビを引き合いにして仏教を論じている。

また、批評対象の本は以前も記事の中で紹介したことがある。この時はその本に対して、タイの歴史を「ゾンビ」の一言でひっくるめるとは何事だとぷりぷりしてしまった。



まとめ

検索条件1は経済学が二件、政治学、言語学が一件ずつだった。

経済学の二件は、前回に引き続き排除から漏れた。雑な考えだが「-firm」と「-firms」が区別されているとしか考えられない。firmには名詞として企業という意味と、形容詞として固いという意味と、動詞として固めるという意味がある。名詞の意味しかなかったならばfirmsも排除してくれていたと期待するが、そうはなっていなかったので仕方がない。Googleスカラーのアルゴリズムを熟知する理由がまたひとつ増えた。

また、検索条件3ではあるが、キョンシーを中国のゾンビと呼んでいたのは非常に嫌だった。ゾンビを大衆文化として楽しむ文化圏の人種が、まあ主にアメリカ人だが、ゾンビを固有名詞として扱わずに「死んで蘇ったモンスター」の総称として扱うのはとてもではないが好きになれない。断っておくが「元はハイチのブードゥー教の精霊だろ!」などと原理主義的なことを言いたいわけではなく、各文化に固有の「死んで蘇ったモンスター」を全てゾンビと呼ぶことを批判しているだけだ。この辺がゾンビを「ハイチ人を再び奴隷化しているように」見せる表現と論ずる根拠になるのだろう。

今回は色々と示唆があった。だが、ねらいの論文がなかった。


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