2024/8月第一週のゾンビ論文 ゾンビの声からゾンビパウダーを分析せよ
本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。
アラートの検索条件は次の通り。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)
「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。
「-firms」:ゾンビ企業
「-philosophical」「-Chalmers」:哲学的ゾンビ
「-drug」:ゾンビドラッグ
「-network」:情報科学系の論文ならなんでも
「-DDoS」:ゾンビPC
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬
「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも
「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論
「-AI」:人工知能を扱う情報科学系の論文
検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。
今回、8/1~8/11の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。
「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」二件
「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」八件(条件1との重複を含めれば10件)
検索条件1は教育学、医学が一件ずつだった。そして、ねらいのゾンビ論文が見つかった。
検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」
図書館のゾンビ
一件目。
アラート日付:8月1日
原題:Zombies in the library
掲載:Ticker: The Academic Business Librarianship Review
著者:Melissa Johnson
ジャンル:教育学?
ゾンビが出てくるゲームを使ってリーダーシップを育むワークシップの報告。使われたゲームはゾンビ・パンデミックが起きた世界で生き延びるというもの。
そのゲームのデザイン、各デザインが設定された目的、ゲームを通じてワークショップの目的が達成されたことを報告している。
ジャンルは教育学だろうか。
ハイチの「ゾンビ声」の原因はテトロドトキシン中毒か?
二件目。
アラート日付:8月4日
原題:Is tetrodotoxin intoxication the cause of “zombi voice” in Haiti?
掲載:European Archives of Oto-Rhino-Laryngology
著者:Robin Baudouinを筆頭著者として、四名
ジャンル:医学
ゾンビにテトロドトキシンといえばゾンビパウダー。人間をゾンビにする際にゾンビパウダーという魔法の粉を使うそうなのだが、それにはふぐ毒であるテトロドトキシンが使われているとのこと。ゾンビパウダーを人間に噴きかけるとテトロドトキシンが経皮吸収され、その人間は毒により仮死状態になり、その後の呪術行為によってゾンビとして使役されるようになるのだという。嘘くさ。
この論文では、ゾンビ声なるものを定義し、その特徴を分析し、テトロドトキシンによって生じたのかを検証している。結論としては、過去の映像よりゾンビに特有の鼻声(「はなごえ」ではなく「びせい」?)を確認し、テトロドトキシンの症状を考慮したところ、テトロドトキシンがゾンビの鼻声の原因である可能性は十分にあるそうだ。
ちなみにゾンビパウダーテトロドトキシン説はウェイド・デイヴィスがハイチを旅して著した『蛇と虹: ゾンビの謎に挑む』(1988)を出典としているが、1966年にゾラ・ニール・ハーストンがハイチの風俗習慣を著した『ヴードゥーの神々』にはそもそもゾンビパウダーすら出てきていない。
ゆえに、そもそもゾンビパウダーの使用自体が眉唾ではないかと私は想像しているのだが…。論文中でも「鼻声化は自然な場合もあれば病的なもののある」と書かれているし。前提が本当かどうか、危ういのではないか。
さて困ったのは、この論文が本物のゾンビを扱う(と仮定しても矛盾しない)論文ではないかということだ。つまり、私が探し求めている論文。この研究の対象は、事実はともかく、ゾンビパウダーによってゾンビ化された人間である。これは果たして本物のゾンビだろうか。いやそんな気はする。これは本物のゾンビを扱っているのだ。
したがって、この論文をもって今回のアラートチェックは大当たりとする。
ちなみに、なぜ私が本物のゾンビを前にして困っているかと言うと、研究の内容が音声学と神経科学の組み合わせだからだ。前者は何も知識がなく、後者は普通に難しそう。しかもフリーでないから5000円もする。だが仕方がない。買って、読んで、レビューをしよう。いつになるかはわからないが…。
ジャンルは医学としておく。
検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」
上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。
MARS アンケートのルーマニア語への翻訳と翻訳版の言語検証
アラート日付:8月2日
原題:Translation of the MARS questionnaire into Romanian and the
linguistic validation of the translated version
掲載:Revista Română de Medicină de Laborator
著者:Adrian Năznean と Emilian Comșulea、 Anișoara Popの三名
ジャンル:言語学
「-drug」および「-gender」で排除。英語をルーマニア語に翻訳する論文。ルーマニア語の文法が非常に難しいらしいので、研究対象になっているのだろう。タイトルのMARSというのは、Medication Adherence Rating Scale(服薬順守評価尺度)と呼ばれるもの。平易な言葉で作られた質問票だそうで、そんなものでもルーマニア語に翻訳するのは難しいのだぞ、という内容なのだろう。
政治イデオロギーの精神病理学
アラート日付:8月2日
原題:The Psychopathology of Political Ideologies
掲載:Psychoanalysis, Culture & Society
著者:Chris Bell
ジャンル:社会学
「-gender」で排除。内容不明。ゾンビで政治ならば、過去に否定されたにも関わらず何度でも蘇るゾンビアイデアか、生政治を引き合いにゾンビ政治を語るか、そのどちらかだろうか。さすがに対立イデオロギーを有する人間をゾンビに喩えるわけでもあるまい。
ゾンビ アポカリプスでくつろぐ: Left 4 Dead と Back 4 Blood の資本主義休憩室としての Saferoom
アラート日付:8月3日
原題:Getting Cozy with the Zombie Apocalypse: The Saferoom as Capitalist Breakroom in Left 4 Dead and Back 4 Blood
掲載:Replay
著者:Caighlan Smith
ジャンル:ゲームデザイン学
「-gender」と「-AI」で排除。ゾンビを倒すゲーム『Left 4 Dead』などのデザインがプレイヤーに居心地の良さや緊張した空間を提供する手法を分析。
国際危機の真っただ中での青年期と主体性の考察:パンデミック、パンデモニウム、ゾンビのヤングアダルト文学
アラート日付:8月8日
原題:Examining Adolescence and Agency in the Midst of International Crisis: Pandemics, Pandemonium, and Zombie Young Adult Literature
掲載:DIALOGUE: The Interdisciplinary Journal of Popular Culture and Pedagogy
著者:T. Hunter Strickland
ジャンル:教育学
「-gender」で排除。「narrative」もあったけれど。青少年向けゾンビ文学が彼らの精神発達に与える影響を論じる。
大学における総合シリアスゲームの教育的影響:学習の向上とモチベーションの促進
アラート日付:8月8日
原題:The educational impact of a comprehensive serious game within the university setting: Improving learning and fostering motivation
掲載:Heliyon
著者:Lorena Rodriguez-Calzada と Maximiliano Paredes-Velasco、 Jaime Urquiza-Fuentesの三名
ジャンル:教育学
「-gender」および「-AI」、「-network」で排除。「シリアスゲーム」というゲームに教育効果があるか調べた論文。もちろん、ゾンビが出てくるゲームも取り扱っている。
複合現実ゲーム開発の推進: アクションアドベンチャーと FPS ジャンルにおけるビジュアルゲーム分析ツールの評価
アラート日付:8月8日
原題:Advancing Mixed Reality Game Development: An Evaluation of a Visual Game Analytics Tool in Action-Adventure and FPS Genres
掲載:arXiv
著者:Parisa Sargolzaei と Mudit Rastogi、 Loutfouz Zamanの三名
ジャンル:情報工学
「-gender」で排除。意外。仮想現実(VR)ならぬ複合現実(MR)のゲーム開発専用に設計されたルールの紹介。もちろん、ゲームにゾンビが出てくる。
ゾンビの声: バーチャル YouTuber の言語のケーススタディ そして真正性
アラート日付:8月10日
原題:The Voice of a Zombie: A case study of Virtual YouTubers’ language
and authenticity
掲載:Emory Journal of Asian Studies
著者:Sarah Vickery Hartanto
ジャンル:比較文化学
「-gender」で排除。日本のVTuber、特にホロライブの分析。ホロライブにクレイジー・オリーという「スーパーかわいいゾンビアイドル」というのがいるらしい。ゾンビの特徴として縫い目を使うケースが多いが、それゾンビか? アインシュタインの怪物じゃない?
離散イベントシミュレーションを使用した Web ベースの危機カウンセリング サービスの運用のモデル化: 評価研究
アラート日付:8月10日
原題:Using Discrete-Event Simulation to Model Web-Based Crisis Counseling Service Operation: Evaluation Study
掲載:JMIR Formative Research
著者:Byron Chiang と Yik Wa Law、 Paul Siu Fai Yipの三名
ジャンル:情報科学
「-network」で排除。カウンセラーボットの適切な運用プログラムの研究。人間がチャットを完了したしチャットシステムを閉じた後も、カウンセラーボットが待機中と勘違いしている状態を「ゾンビ」と呼んでいるらしい。
最後に
検索条件1は教育学、医学が一件ずつだった。そして、ねらいの論文が見つかった。
しかしその論文は今まで見つけたねらいの論文とは性格が違った。これまではホラー映画に出てくるようなゾンビを対象とした論文が多かった。ゾンビの感染モデルの数値分析や、ゾンビ・パンデミックが起きた世界における人間社会の検証などだ。一方で今回はヴードゥー教のゾンビの特徴を医学的に分析したものである。「ハイチゾンビ」などとも呼ばれるが、こちらを扱った論文をちゃんと読むのは初めてである。
また、今回ゾンビが出てくるゲームをいくつか扱ったが、よくよく比較してみると「ゾンビのゲーム」は二種類に分けられるようだ。まず、多くの人間がすぐに想像するであろう、バイオハザードのような、ゾンビが主人公に襲い掛かるタイプのゲーム。もうひとつは、ゾンビ・パンデミックが起きた際に生存を探るタイプのゲーム。そして、前者は一人用のビデオゲームで、ゲームデザイン学や情報工学の論文で扱われ、後者は複数人用のワークショップ用ゲームで、デジタル・アナログを問わず、主に教育学で扱われるという特徴もある。後者はともかく、前者がねらいの論文であることはほぼないため、どうにか区別して排除したいものだ。
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