2023/04/22(土)のゾンビ論文 ゾンビに感じる理性と感情?

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -company -philosophical」(経済学・哲学のゾンビ論文避け)

  2. 「zombie -firm -company」(経済学のゾンビ論文避け)

  3. 「zombie」(zombieの単語が入っていればなんでも)

このうち、「zombie -firm -company -philosophical」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードできちんと経済学と哲学のゾンビ論文がよけられているか確認するために、差分を簡潔に紹介する。

それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -company -philosophical」三件

  2. 「zombie -firm -company」四件(差分一件)

  3. 「zombie」七件(差分三件)

「zombie -firm -company -philosophical」の三件は教育学、心理学、医学が一件ずつだった。そして、今回はねらいの論文が見つかった。


検索キーワード「zombie -firm -company -philosophical」


2014年、Allenらの「疫学モデルの摂動 ゾンビが攻撃しても、私たちは生き残れる」

一件目。

原題:2014-Allen-EtAl-Perturbations in Epidemiological Models-When zombies attack we can survive
掲載:SIMODE
著者:Robert AllenとCassandra Jens、Theodore Wendtの三名
ジャンル:教育学

4/20(土)の記事に続き、再びSIMODEによるゾンビ・パンデミックシミュレーションの論文紹介だ。であれば、ジャンルは教育学。

こちらは私も以下の記事で解説している。

要するに、基本的なSZRモデルの数式をちょっといじると人間の生存可能性がぐんと向上するという内容だ。「ちょっといじる」というのが数式においては摂動に当たり、現実の行動においては人間の結束力を以てゾンビの破壊に赴くことに当たる。

二年前にたどたどしく書いた記事だと思ったのだが、存外きちんとした解説っぽい記事になっている。このゾンビ論文で論じられている内容に興味があれば、私の記事を読んでみていただきたい。手前味噌で申し訳ないが。


モンスターの心 : 認知と感情の恐ろしい不均衡

二件目。

原題:Minds of monsters : scary imbalances between cognition and emotion
掲載:Personality and Social Psychology Bulletin
著者:Ivan HernandezとRyan S. Ritter、Jesse L. Prestonの三名
ジャンル:心理学

まず、アブストラクトから以下を引用する。

In ratings of fictional monsters (e.g., zombies, vampires) targets seen as more imbalanced between capacities for cognition and emotion (high cognition-low emotion or low cognition-high emotion) were rated as scarier compared to those with equally matched levels of cognition and emotion (Studies 1 & 2).
(架空のモンスター(ゾンビ、吸血鬼など)の評価において、認知能力と感情能力のバランスがより悪い(高認知 - 低感情または低認知 - 高感情)と見なされるターゲットは、認知レベルと感情レベルとが同等に一致するターゲットと比較して、より恐ろしいと評価されました(研究 1 & 2)。 )

Minds of monsters : scary imbalances between cognition and emotion
アブストラクトより

乱暴に言い換えると、理性と感情のバランスが悪いターゲット(ここでは研究対象であるモンスターのこと)は怖がられやすいということだ。今回、ターゲットとされたのはたとえば次の18種類のモンスター。ゴジラ好きとしては抗議したくなるラインアップだが、仕方がない。

宇宙人、ビッグフット、ブロブ(映画『ブロブ/宇宙からの不明物体』より)、「古典的な」ゾンビ、悪魔、フライングモンキー(『オズの魔法使い』より)、フランケンシュタインの怪物、幽霊、ゴジラ、「感染した」ゾンビ、キングコング、ミイラ男、悪魔にとりつかれた人間、プレデター、トロール、吸血鬼、狼男、エイリアン(映画『エイリアン』より)。

興味を引くのは「古典的な」ゾンビと「感染した」ゾンビの二種類を挙げている点だ。この二つを区別する基準は論文中に見つからないが、おそらく『恐怖城』や『私はゾンビと歩いた!』に出てくるようなゾンビを古典的とし、『ドーンオブザデッド』や『ウォーキング・デッド』に出てくるようなゾンビを感染したものとして区別しているのだろう。前者二つは「感染して」ゾンビになったわけではないため、これでいいはずだ。

これらについて、被験者に恐怖や理性、感情の有無をスコア化してもらう。というのがこの論文の主旨である。

かなり面白い。私はかねてより「ゾンビ映画はホラー映画ではない」と主張しているのだが、その理由は「ゾンビは別に怖くないから(グロくはある)」の一点張りだったため、誰にも聞き入れられたことはなかった。私の心の内を、この論文は数値化してくれるのかもしれない。であれば、この論文を読み解き、きちんと理解することがこれからの私の趣味談議に大いに役立ってくれるに違いない。

それを抜きにしても、ゾンビは決して何かの比喩や単なる映画のモンスターとして扱われてはいない。他のモンスターと並べられると映画のフィクションとしてのゾンビを取り扱っているようにも見えるが、「実際にゾンビ(や他のモンスター)が存在する」という仮定を入れてもこの論文は成り立つ。全部読んだわけではないが、そう思う。

ということで、今回のアラートチェックはこの論文を以て大当たりとする。

いずれレビューをしたい。(2月と3月の分もまだ終わっていないが…)


古代永久凍土から復活した真核ウイルスに関する最新情報

三件目。

原題:An Update on Eukaryotic Viruses Revived from Ancient Permafrost
掲載:Viruses
著者:Jean-Marie Alempicを筆頭著者として12名
ジャンル:医学

このマガジンで永久凍土のゾンビウイルスに関する論文を紹介するのはこれで三度目になる。過去の二回は、以下の記事のそれぞれ十件目と一件目である。

この論文では最新情報があるらしい。まず、アブストラクトには次のように書いてある。

While the literature abounds on descriptions of the rich and diverse prokaryotic microbiomes found in permafrost, no additional report about “live” viruses have been published since the two original studies describing pithovirus (in 2014) and mollivirus (in 2015). This wrongly suggests that such occurrences are rare and that “zombie viruses” are not a public health threat.
(永久凍土に見られる豊富で多様な原核生物のマイクロバイオームに関する文献は数多くありますが、ピソウイルス (2014 年) とモリウイルス (2015 年) に関する 2 つの最初の研究以来、「生きた」ウイルスに関する追加の報告は発表されていません。これは、そのような発生はまれであり、「ゾンビウイルス」は公衆衛生上の脅威ではないことを誤って示唆しています。

An Update on Eukaryotic Viruses Revived from Ancient Permafrost
アブストラクトより

まず、2014年と2015年にゾンビウイルスに関する最初の報告があった。その後しばらくの間報告はなかった。ゆえにゾンビウイルスの脅威を過小評価している、と。

そして今回、ゾンビウイルスについて新しい報告があるらしい。古代シベリアの永久凍土から13種のウイルスを取り出し、その特徴を報告したそうだ。その特徴というのがかなり医学的に専門な内容なので、ここでは立ち入らない。

この論文はオープンアクセスであるため、リンク先へ飛んでブラウザ上でグーグル翻訳を使えば、内容を大まかに読むことができる。ウイルスの解析部分はともかく、冒頭のゾンビウイルスの脅威については目を通しておくと面白いかもしれない。


検索キーワード「zombie -firm -company」

この検索キーワードは「zombie -firm -company -philosophical」との差分を表示する。-philosophicalは「philosophicalという単語を含まない」という条件を意味するため、主に哲学のゾンビ論文が差分として表示される。

この節では差分を見ることを目的とするため、各論文の内容にはできるだけ立ち入らない。


ロシアの物理学者は私たちの驚異的な概念を誤解している

原題:Russellian Physicalists get our phenomenal concepts wrong
掲載:Philosophical Studies
著者:Marcelino Botin
ジャンル:哲学

掲載誌名からわかる通り、「-philosophical」に引っかかった。

何を誤解しているかはわからないが、物理主義とラッセル一元論?がぶつかって議論を巻き起こしているらしい。しかしほぼ名指しで「ロシアの物理学者は誤解している」とは。なんとも好戦的な。


検索キーワード「zombie」

このキーワードでは経済学・哲学のゾンビ論文がアラートに入ってくる。

ゾンビ企業は本当に感染するのか?

原題:Are zombie firms really contagious?
掲載:EconPapers
著者:Norbert ErnstとMichael Sigmund
ジャンル:経済学

タイトルに"zombie firms"の文字列。ねらい通り「-firm」に引っかかった。

Ever since Caballero et al. (2008), it has been taken for granted that zombie firms cause contagion in non-zombie firms that ultimately leads to a misallocation of resources. … However, we do not find any economically significant zombie firm contagion e_ects in non-zombie firms.
(カバレロら(2008)以来ずっと、ゾンビ企業が非ゾンビ企業に伝染し、最終的にリソースの不適切な配分につながることは当然のことと考えられてきました。…しかし、非ゾンビ企業では、経済的に有意なゾンビ企業の伝染効果は見られません。

Are zombie firms really contagious?
アブストラクトより

感染はしないらしい。


言語、フェミニズム、人種差別

原題:Language, Feminism, and Racism
掲載:Stance
著者:Cecilia BeckerとJennifer Saul
ジャンル:社会学

4/11(火)の記事で取り上げたものと同じ論文。前回はリンクを貼っていなかった。それはStanceへアクセスしてもこの論文が見つからなかったからだ。


トランスサイトーシス効果によって支援される卵巣癌の効率的な治療のためのオレンジ由来の細胞外小胞ナノドラッグ

原題:Orange-derived extracellular vesicles nanodrugs for efficient treatment of ovarian cancer assisted by transcytosis effect
掲載:Acta Pharmaceutica Sinica B
著者:Feng Longを筆頭著者として、12名
ジャンル:医学

"zombie experiments"や"zombie mouse model"など、興味を引く文字列が並んでいる。この論文では、大まかに言えば、人為的にマウスに卵巣がんを作ることが”zombie experiment”に当たるらしい。

「Abcam社から薬品を買った」という一文があり、その中のcompanyに引っかかったらしい。


まとめ

「zombie -firm -company -philosophical」の三件は教育学、心理学、医学が一件ずつだった。

そのすべての論文が興味深かった。教育学のは既知のものだったが、心理学のは上述の通り私のねらいのゾンビ論文だったと言える。また、最近よく見る永久凍土のゾンビウイルスについても、まとまった報告を読むことができて大変うれしい。正直なところ、与太ではないかと疑っていたのだ。それもこれも真面目な医学論文でゾンビウイルスなんて単語を出すのが悪い。

ということで、今日はねらいのゾンビ論文あり。大当たりの日であった。


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