2023/04/25(火)のゾンビ論文

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -company -philosophical」(経済学・哲学のゾンビ論文避け)

  2. 「zombie -firm -company」(経済学のゾンビ論文避け)

  3. 「zombie」(zombieの単語が入っていればなんでも)

このうち、「zombie -firm -company -philosophical」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードできちんと経済学と哲学のゾンビ論文がよけられているか確認するために、差分を簡潔に紹介する。

それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -company -philosophical」五件

  2. 「zombie -firm -company」七件(差分二件)

  3. 「zombie」十件(差分三件)

「zombie -firm -company -philosophical」の五件は情報科学が二件、文学、医学、インタビューが一件ずつだった。


検索キーワード「zombie -firm -company -philosophical」


ゲーム化された情報システムにおけるナラティブ トランスポート: ナラティブとタスクの合同の役割

一件目。

原題:Narrative Transportation in Gamified Information Systems: The Role of Narrative-Task Congruence
掲載:CHI: Conference on Human Factors in Computing Systemsという学会のProceedings
著者:Manuel Schmidt-Kraepelinを筆頭著者として、五名
ジャンル:情報科学

まず原題のGamified(ゲーム化された)につまずく。この単語の意味するところは何なのか。それはアブストラクトに書いてある。

Gamification refers to the use of game design elements in non-game contexts to evoke both instrumental and experiential outcomes within users.
(ゲーム化とは、ゲーム以外の文脈でゲームデザイン要素を使用して、ユーザー内の道具的および経験的な結果の両方を呼び起こすことを指します。)

Narrative Transportation in Gamified Information Systems: The Role of Narrative-Task Congruence
アブストラクトより

まだ難しいが、端的に言えば、ゲームでないものをゲーム的に解釈することで道具の使用を促したり効率よく経験を得たりすることができる。といったところだろう。

次に、こう続く。

Although narratives are an integral part of most video games, little academic attention has been paid toward narratives as part of gamification design.
(物語はほとんどのビデオ ゲームの不可欠な部分ですが、ゲーミフィケーション デザインの一部としての物語に学術的な注意が払われることはほとんどありません。)

Narrative Transportation in Gamified Information Systems: The Role of Narrative-Task Congruence
アブストラクトより

要するに、「ゲームでないものをゲーム的に解釈する」際に物語性(=ナラティブ)はあまり注目されていない、と著者は指摘しているのだ。まあ、指摘が正しいかは知らないが。

ここまでくれば、なぜこれがゾンビ論文としてアラートにヒットしたのか想像がつく。ゾンビが出るゲームを例に出して物語性の重要さを調査したのだ。たとえば、本文には以下の記述がある。

For instance, Zombies, Run!, an app regularly hailed as a prime example for good gamifcation design, uses audio plays to immerse users in a zombie apocalypse narrative to motivate users to engage in physical exercise [11].
(えば、優れたゲーミフィケーション デザインの代表的な例として定期的に称賛されているアプリ、Zombies, Run! は、音声再生を使用してユーザーをゾンビの黙示録の物語に没入させ、ユーザーが運動に従事するように動機付けます [11]。)

Narrative Transportation in Gamified Information Systems: The Role of Narrative-Task Congruence
本文より

Zombies, Run!というアプリゲームがあるらしい。実際にゾンビが出たと仮定し、ゾンビから逃げるためにランニングを促す、言ってみればゾンビ版ポケモンGo!である。思ったよりも面白そうだ。

ゲーム内の仮想情報を現実世界に落とし込む。まさにゲーム化の見本のようなゲームである。もちろん、ポケモンGo!もそうなのだろう。で、このゲームから物語性をそれぞれ抜き出して、被験者に諸々の質問をするというのが論文の主旨だ。

現実世界にゾンビを落とし込むあたりが「本物のゾンビ」を扱っていそうな匂いを放っているが、別にゾンビでなくとも可能な論文だ。ということで、これはねらいの論文と判定しない。

ジャンルは情報科学。CHIという学会は2023/02/23のアラートチェック時にも見かけ、その時も情報科学としていた。一貫性のためにも情報科学としておくべきだろう。


寄生虫に重点を置いた宿主の行動変化の操作における生物の役割

二件目。

原題:The role of living organisms in engineering host behavior change with emphasis on parasites
掲載:Journal of Entomological Research
著者:Dehghani Rouhullahを筆頭著者として、四名
ジャンル:医学

アブストラクトからすると寄生中全般の話らしいが、論文の本文中に"zombie ant"の文字列が見える。これはゾンビキノコに寄生され、行動をコントロールされてしまったアリのこと。

もしもゾンビキノコだけの話であれば、ジャンルは植物学。しかし寄生虫全般の話らしいので、医学とした。全文読めればどちらなのかわかるのだが。


オアナ・パナイテによるネクロフィクションと文学的記憶の政治学

三件目。

原題:Necrofiction and the Politics of Literary Memory by Oana Panaïté
掲載:The French Review
著者:Kaliane Ung
ジャンル:文学

「ネクロフィクション」は死に関する創作物のこと。この論文の著者の造語ではなく、ちゃんと存在する単語らしい。わざわざそういう単語を作って学術的俎上に上げているのは感心する。使っている人間はまだ少ないようだが。

しかし、私は基本的に物語を「学術的に」読み解くという行為が嫌いだ。多少の深読み考察は好きだが、学術的に読み解いた考察…いや考察と呼ぶべきかもわからない、何かしらの刊行物は好きではない。やたらと専門用語を使って仲間内で盛り上がる印象しかないからだ。オタクの界隈が仲間内でしか通じない語録で盛り上がるのと違いが判らない。pixiv百科とか。オタクはまだ自分たちの異常性、受け入れられなさを自覚しているが、アカデミシャンは自分たちこそ正統でございという顔をする。そういうところに強い嫌悪感を覚える。感想文ならnoteかブログにでも書いていればいい。Twitterで書き散らすのはお勧めしないが。

閑話休題。…したいところだが、内容は上で書いたことそのものである。過去にネクロフィクションを読み解いた論文を参照し、専門用語で糊塗する。基本的に何が書かれているのかわからない。

「zombie」に引っかかったのは、、もちろん死に関するフィクションゆえに死者を引き合いに出したから。文学作品に限定された論文のようだし、ジャンルは文学。


「ゾンビ・プロム」の舞台裏

四件目。

原題:Behind the scenes of “Zombie Prom”
掲載:Nova Southeastern Universityの学生新聞
著者:Danna Bertel
ジャンル:インタビュー

学生新聞が"Zombie Prom"を取り上げている。ゾンビプロムはミュージカルの名前。英語版だがWikipediaも存在しており、英語圏ではまあまあ有名なミュージカルらしい。

舞台裏と言っているが、内容はスタッフインタビューである。舞台裏は元々そういうものか。


ブロックチェーン対応のマルチドメイン DDoS 協調防御メカニズム

五件目。

原題:A Blockchain-enabled Multi-domain DDoS Collaborative Defense Mechanism.
掲載:KSII Transactions on Internet and Information Systems
著者:Huifen Fengを筆頭著者として、四名。
ジャンル:情報科学

DDoSという単語と一緒に現れるzombieはひとつしかない。ゾンビPC。コンピューターウイルスに感染して、悪意ある人間に乗っ取られ、サーバの攻撃に使われることになった哀れな被害者のことである。


検索キーワード「zombie -firm -company」

この検索キーワードは「zombie -firm -company -philosophical」との差分を表示する。-philosophicalは「philosophicalという単語を含まない」という条件を意味するため、主に哲学のゾンビ論文が差分として表示される。

この節では差分を見ることを目的とするため、各論文の内容にはできるだけ立ち入らない。

神経科学者は新しい物理主義者の心/身体の見方をテストできるか?: DiCoToP (Diachronic Conjunctive Token Physicalism)

原題:Can Neuroscientists Test a New Physicalist Mind/Body View: DiCoToP (Diachronic Conjunctive Token Physicalism)?
掲載:Frontiers in psychodynamic neuroscience
著者:Linda A. W. Brakel
ジャンル:哲学

単にThe Zombieという文字列で現れるが、文脈から言って哲学的ゾンビのことを指しているとみて間違いない。

DiCoTopという概念を前面に出して議論する論文と思われるが、DiCoTopがわからない。直訳すると、”通時接続トークン 物理主義”だ。なにそれ。

ねらい通り、「-philosophycal」で哲学のゾンビ論文をひっかけることができた。


意識の物理主義者の夢の理論を達成する方法: アイデンティティまたはグラウンディング?

原題:How to Achieve the Physicalist Dream: Identity or Ground?
掲載:Grouding and Consciousness
著者:Adam Pautz
ジャンル:哲学

こちらでも単に”zombie”と書いてあるが、哲学的ゾンビのこと。出てくる単語と掲載誌からいって間違いない。本当は「内容からいって間違いない」と断言したいところだが、何が書かれているのかわからない。

日本語で哲学的ゾンビを紹介している文献はないだろうか?(Amazonで探したがなかった)


検索キーワード「zombie」

このキーワードでは経済学・哲学のゾンビ論文がアラートに入ってくる。

特にCOVID-19パンデミックと低金利時のポーランドでのゾンビ化

原題:Zombification in Poland in particular during COVID-19 pandemic and low interest rates
掲載:Bank i Kredyt
著者:Marian Nehrebecki
ジャンル:経済学

"zombie firm"の文字列があったために、「-firm」に引っかかった。


スキャンダラスなディストピア: パンデミック中のラスト オブ アス パート II とサイバーパンク 2077 の宣伝

原題:Scandalous Dystopias: Hyping The Last of Us Part II and Cyberpunk 2077 During the Pandemic
掲載:The Scandal of Adaptationという本
著者:Daniel Singleton
ジャンル:メディア学

ゾンビ・アポカリプス的な世界で生き抜く「ラスト・オブ・アス」というゲームに関する論文。「-firm」という単語は見つからなかったが、おそらく「-company」が"XX company"という文字列をひっかけたものと推測する。


キュイボノ? COVID-19 政策措置が上場企業に与える影響に関する大規模な証拠

原題:Cui bono? Large-scale Evidence on the Impact of COVID-19 Policy Measures on Listed Firms
掲載:Journal of Pre-proof
著者:Michael HaimannとChirstoph Kaserer、Kristian Ljubicicの三名。
ジャンル:経済学

”Cui bono?”は「誰の利益になるのか?」という意味の格言。"zombie firm"の文字列が論文中に散見される。


恐怖と表象:先住民の文学的アイデンティティーの構築における暴力

原題:Horror and Representation: Violence in the Construction of Postindian Literary Identities
掲載:The University of Vermontに提出された芸術学の学位のための修士論文
著者:Caleb Hayes
ジャンル:芸術学

Postindianはアメリカ先住民のこと。昔はインディアンと呼んでいたため、このような表記に。論文は、要するにアメリカ映画が先住民をいかに差別的に扱ったかの歴史を暴力をキーワードに読み解く、というもの。

で、その読み解く対象にゾンビ映画が入っていた、と。"milling company"(製粉会社)という単語で「-company」が引っかかった。

こういうのはジャンル分けに迷うが、"for the Degree of Master of Arts"とあったので芸術学で良いだろう。他にも文学、人文学、歴史学とかでもアリだが。


まとめ

「zombie -firm -company -philosophical」の五件は情報科学が二件、文学、医学、インタビューが一件ずつだった。

ゾンビのゲーム化は私にとって非常に興味深い内容であった。私が求めていいる「ねらいの論文」はゾンビが本当に現れたと仮定した場合を論じたものである。ほとんどがゾンビ・パンデミックシミュレーションになるはずだ。

一方で、ねらいではない論文とはゾンビをそのまま「フィクションにおける」モンスターとして扱って論じる論文だ。あるいは、「zombie」の単語こそ出ているがゾンビそのものを指さない場合、「zombie fungi」や「philosophical zombie」、「zombie firm」などを使った論文も含まれる。

しかし、ゲーム化という観点はどうだろう。当然、ゾンビが本当に現れたケースとは言えない。しかしフィクション上のモンスターとして扱っているわけでもない。まさにその中間の存在としてゾンビを規定し、扱うことになるだろう。今回こそ特定のアプリゲームに注目したためにねらいの論文としなかったが、ものによってはねらいの論文と捉える必要があるだろう。あるいは、VRゲームにおけるゾンビも中間の存在であるから検討しなければならないはずだ。悩ましい。

今日はねらいのゾンビ論文なし。


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