2023/11/15(水)のゾンビ論文 資本主義と共産主義とどっちがゾンビ?
ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。
アラートの条件は次の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」
「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認)
検索条件は次の意図をもって設定してある。
「zombie」:ゾンビ論文を探す
「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する
「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する
「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する
「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する
「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する
「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する
また、検索条件2では「-philosophical」と「-gender」という一般性の高い検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。
今回、それぞれのヒット数は以下の通り。
「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」二件
「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」三件(差分は一件)
検索条件1は文学、衛生学が一件ずつだった。
検索条件1「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」
キャスリン・ロッグラの『wir schlafen nicht』(2004)とアイザック・ローザの『La habitación oscura』(2013)における資本主義の幽霊
一件目。
原題:The Ghosts of Capitalism in Kathrin Röggla's wir schlafen nicht (2004) and Isaac Rosa's La habitación oscura (2013)
掲載:Literature and Aesthetics
著者:Daniel López Fernández
ジャンル:文学
二つの小説をベースに資本主義の批判を行う論文。資本主義から逃れるため、あるいは資本主義が生み出したモンスターとして、ゾンビや吸血鬼、幽霊が描かれるために検索に引っ掛かった。これらのモンスターが資本主義批判の文脈でどのように扱われるかは次に引用する通り。
David MacNallyというのは活動家。資本主義の批判しており、そのために『Monsters of the Market: Zombies, Vampires and Global Capitalism』という小説も執筆している。また、ゾンビと吸血鬼は、共産主義の始祖であるカール・マルクスも資本主義の批判に利用しているとのこと。
もしかしてゾンビが各社会・各文化でどう扱われているか知るためには『資本論』も読まないといけないのだろうか…。この論文も資本主義に対する憎しみが見え隠れしているし、きっとゾンビと資本主義が強く結びつく文脈が存在しているのだろう。
ただ、「共産主義 ゾンビ」で検索すると、ゾンビ扱いされて疎ましがられているのは共産主義者の方だが…。
ジャンルは文学。評論もアリだが、小説の内容に沿って現実の社会問題に触れており、小説の内容に触れて自分の考えを述べる評論とは異なるように思う。
幻覚を見せる幻覚剤
二件目。
原題:Hallucinating hallucinogens
掲載:Science
著者:MICHAEL A. SKINNIDER
ジャンル:衛生学
危険な薬物に関するエッセイ。薬物使用者が"zombie-like"(ゾンビのような)行動をとっていた、という目撃証言を紹介しているため検索に引っ掛かった。ゾンビドラッグとして知られている、キシラジンは今回は関係ないようだ。
また、AMB-FUBINACAという薬物が人間をゾンビのようにさせる"zombie-like effects"を有しているとも言及されている。AMB-FUBINACAは厚生労働省も2019年6月に報道発表資料で麻薬に指定している薬物である。
ジャンルは衛生学。薬物で社会が乱れる…という話は衛生学にしている。
検索条件4「zombie -firm -xylazine -biolegend」(差分なし)
上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬は排除されるように設定してある。
Malady Nanm、Malady Zonbi、Malady Lalin: ハイチ北部における苦痛の文化的概念に関する質的研究
原題:Maladi Nanm, Maladi Zonbi, & Maladi Lalin: A qualitative study of cultural concepts of distress in northern Haiti
掲載:Transcultural Psychiatry
著者:Michael Galvinを筆頭著者として、五名
ジャンル:
「-gender」で排除されたと推測。"Cultural Concepts of Distress (CCDs)"(苦痛の文化的概念)という心理人類学で援用される概念を扱った論文。タイトルにある三つの単語はハイチ語で、それぞれを日本語に訳すとMaladi Nanmは「魂の病」、 Maladi Zonbiは「ゾンビ病」、 Maladi Lalinは「月の病」。
Maladiは病とか、障害、疾病という意味らしい。アブストラクトを読んだだけだが。『私はゾンビと歩いた!』を思い出してちょっと興味が引かれたので引用しておく。
まとめ
検索条件1は文学、衛生学が一件ずつだった。
共産主義(というか、マルクス本人)が積極的にゾンビや幽霊といったモンスターを資本主義批判に使っていたのは知らなかった。検索結果と同様に、細々と生き残り革命をもくろんでいる共産主義者の方こそゾンビに喩えられて然るべきだと思うので…。共産主義者の方には申し訳ないが。
ただ、ロメロ監督作品の『ゾンビ』の評論がなぜ必ず資本主義批判の文脈で評価されるのか、今回で理解することができた。次からは資本主義批判とゾンビ映画・小説を絡めている論文を読んだら、共産主義・社会主義が背景にあるかどうか注意してみることとする。もしかしたら、「-capitalism」とかで映画評論系のゾンビ論文を一括排除できるかもしれない。
今回はねらいの論文がなかった。
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