2024/3月第四週のゾンビ論文 モルモン過激主義とゾンビ

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network

  2. 「zombie -firms -Chalmers -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

  • 「-firms」:ゾンビ企業

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビ

  • 「-drug」:ゾンビドラッグ

  • 「-network」:情報科学系の論文ならなんでも

  • 「-DDoS」:ゾンビPC

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬

  • 「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。

今回、3/25~3/31の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」二件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」四件(検索条件1との差分は二件)

検索条件1は経済学、社会学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」


ゾンビ都市主義:金融資本主義時代の「黙示録」

一件目。ギリシャ語で書かれている。

アラート日付:3月25日
原題:Zombie urbanism: «αποκάλυψη» στην εποχή του χρηματοπιστωτικού καπιταλισμού
掲載:Aristotle University of Thesselonikiに提出された卒業論文
著者:Μπέντρος Μπέντρος Βρεζ
ジャンル:経済学

"zombie urbanism"(ゾンビ都市主義)なる概念が議論されている。この表現は過去にも扱ったことがある。

その時はWiktionaryを引いて定義を紹介した。

The phenomenon of having an abundance of sold but uninhabited housing.
(売れているのに誰も住んでいない住宅が大量に存在する現象。)

Wiktionary "zombie urbanism"より

この論文では、ゾンビ都市主義を説明・紹介し、要因と条件を調査している。ただ、大規模な調査ではなくて、個々のゾンビ都市を紹介してその要因と条件を調べているので、一般化が難しそうだ。

ちなみに、「日本 ゾンビ都市主義」で検索しても該当する研究・調査報告は出てこない。バブルが弾けて以降の日本では不動産を忌避する傾向にあるように思うし、山の多い土地柄もあるため諸外国との単純比較は難しいか。

ジャンルは経済学。


アイダホ州のモルモン過激主義とゾンビ

二件目。

アラート日付:3月28日
原題:Mormon Extremism and Zombies in Idaho
掲載:Dialogue: A Journal of Mormon Thought
著者:Amanda Hendrix-Komoto
ジャンル:社会学

Leah Sottile著『When the Moon Turns to Blood』(月が血へと変わるとき)という本のレビュー。この本は、実母ロリ・ヴァロウと義父チャド・デイベルが子供二人を殺害した「タイリー・ライアン、J. J. ヴァロウ殺害事件」を追うノンフィクション作品である。この事件は、キリスト教から派生したモルモン教を信仰する二人がカルト思想に行き着いて、子供が悪霊に憑りつかれて闇に堕ちたり、ゾンビになってしまったと考えたことにより、生じたとのこと。

反対尋問では、人間が悪霊に取りつかれて「闇に落ちる」、あるいは「ゾンビ化する」という信仰を母親がライアン氏(※1)に一度も説明しなかったことが明らかになった(先週にはヴァロウ被告の旧友メラニー・ギブさんが出廷し、被告がタイリーさん、J.J.君、チャールズ・ヴァロウ氏(※2)を「ゾンビ」と呼んでいたと証言している)。

※1このライアン氏は成人した長子。実母と義父が殺害したのは彼の弟と妹。
※2殺害された子供たちの実父。
Rolling Stone掲載
Miles Klee担当
『過激信仰で娘・息子・夫を殺害、残された子供の無念「母はただの人殺し」米』より

Wikipediaによれば、殺害事件を詳細に描写したこの本は21世紀のモルモン教を理解するための重要な本と呼ばれているという。

タイトルにアイダホ州とあるのは、事件がアイダホ州で起きたため。モルモン教の19%がアイダホ州に住んでいることからも、タイトルに持ってくる重要性があるのだろう。ちなみに、最も多く住んでいるのはユタ州の55%。

また、この論文はジョセフ・エドワード・ダンカンジェームズ・エドワード・ウッドによる連続殺人事件やなど、アイダホ州で生じた別の殺人事件も扱っている。こちらはモルモン教は無関係だが、『When the Moon Turns to Blood』がこれら事件を理解するのに役立つ…という名目で引用している。というのは、過激思想であっても宗教が殺害事件に結びつくわけがないと考えているからだ。その辺の根拠も示してあるので、中々読みごたえがある。

しかし、なぜロリ・ヴァロウたちは悪霊に憑りつかれた人間をゾンビと呼ぶようになったのだろうか。ゾンビはもともとヴードゥー教のモンスターのはずだが、キリスト教徒もゾンビへの恐怖を固有に有しているのだろうか。そう思って調べてみると、次のような解説を見つけた。キリスト教の世界観に基づいたゾンビ解説は中々見かけないため、面白い見解だと思う。

で、ゾンビですが、本来、死ぬと審判の日まで眠り続け、審判が下されるのを持ち続けるわけですが、それを途中で起こされると、審判を受ける資格を失う。と言うことを意味する模様です。例え、自らの罪で地獄へ堕ちるとしても、いずれ神による救済があるわけで、いつかは救われる身なのですが、審判を受けさせて貰えないと言うことは、生涯、救われることなく、天国にも地獄にも行けず、ただ彷徨い続けることを意味するのです。それ故に、欧米では、ゾンビは怖いのです。

Chakra6低速回転中
『ゾンビは怖い?』より

ジャンルは社会学。書評でも良いが、現代のモルモン教をどう理解すればよいか?を提示しているように見えたため、社会学とした。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビは排除されるように設定してある。

普通の人間をスーパーヒーローに変える 5 つの幻想

アラート日付:3月25日
原題:These 5 Illusions Turn Ordinary Humans into Superheroes
掲載:Scientific America
著者:Stephen L. Macknik と Susana Martinez-conde
ジャンル:神経科学

「-narrative」で排除。人間が自身をスーパーヒーローと勘違いするために必要な神経科学的刺激を解説する。記事の導入のためにゾンビのコスプレがいるぞ、と言っているだけ。


冷凍保存装置と人間の生命の尊厳: 倫理的アプローチ

アラート日付:3月25日
原題:Cryonics and the Dignity of Human Life: an Ethical Approach
掲載:Nnadiebube Journal of Languages and Literature (NJLL)
著者:Umeh, George-Franklin と Umeh, Ann C
ジャンル:哲学

「-philosophical」および「-gender」で排除。冷凍保存は技術的にも限界があり、倫理的にも間違っていることを示すらしい。冷凍保存から蘇った人間はゾンビなのか?と問うている。このゾンビは哲学的ゾンビか肉体的な意味でゾンビか、果たしてどちらか。


西オーストラリア州の低所得層の学校における栄養教育の支援

アラート日付:3月31日
原題:Supporting nutrition education in low socioeconomic schools in Western Australia
掲載:Issues in Educational Research
著者:Susan Hillを筆頭著者として、六名
ジャンル:

「-gender」で排除。タイトルからわかる通り、栄養教育の支援を体験型セッションを通して行い、その効果を測る論文。体験型セッションでは食事と栄養に関連付けられたキャラクターが使われた。たとえば、果物や野菜、乳製品、赤身の肉に全粒穀物製品と健康を象徴する『Superhero Foods』というキャラクターに、ファストフードや清涼飲料水、菓子類を象徴する『Zombie Foods』などだ。後者は不健康を象徴しているのだろう。


マインランド: 限定されたマルチモーダル感覚と物理的ニーズによる大規模マルチエージェントインタラクションのシミュレーション

アラート日付:3月31日
原題:MineLand: Simulating Large-Scale Multi-Agent Interactions with Limited Multimodal Senses and Physical Needs
掲載:arXiv
著者:Xianhao Yuを筆頭著者として、四名
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。MineLandとかいうMinecraftのマルチエージェントシミュレータ?なるものを使ってオープンワールドの腹圧な人間関係をシミュレーションするらしい。Minecraftにはゾンビが出てくるため、検索に引っかかった。



最後に

検索条件1は経済学、社会学が一件ずつだった。

今回はヒットした論文が異常に少ないが、実際に少なかったことに加え、アラートに表示された論文へアクセスしようとしたらNortonが有害なサイトとしてブロックしたり、関連性の高い結果がなかったことに起因する。Googleスカラーのアルゴリズムに支配され、ウイルス対策ソフトに制限され、まるで調査妨害を受けているように感じられるが、タイトルを読んだだけでも私のほしい論文である「本物のゾンビを扱った(としても矛盾しない)論文」でないことは明らかなので、問題はない。タイトルからして面白ければ、今回のモルモン教のゾンビのように、読むし調べるし。

今回はねらいの論文がなかった。


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