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映画感想文「ラストナイト・イン・ソーホー」女の子を襲う罠の普遍性。B級テイストのA級映画

誘惑を恐れていた。遠い昔のことだ。

だって、森鴎外然り、太宰治然り、シェイクスピアや「レ・ミゼラブル」も、マニュアルがあるのかってくらいに、同じ結末だったから。


そう、いつも前途ある若い女の子が悪い男に騙され、夢も希望も全てを失う。それがお決まりのパターンだ。

007の監督候補でもあった、エドガー・ライト監督の最新作は、すっかり忘れていたそんな恐れを思い出させる、スタイリッシュでおどろおどろしい、甘くてほろ苦い、新感覚サイコ・ホラーだ。

ロンドン、ソーホーの街を舞台に、ファッションデザイナーを目指し学校に通う現代に生きるエルローズ(トーマシン・マッケンジー)、歌手を夢みて舞台に立つ60年代に生きるサンディ(アニヤ・テイラー=ジョイ)の夢と恐れが段々とシンクロしてゆく様を、煌めくファッションと懐かしい音楽で華やかに描く。

CGも使わず鏡あわせを演じる主演の二人が最高。この年齢にしか出せないであろう、緊迫した危うさといたいけさから、目が離せず、きりきりと胸が締め付けられる。

そして、はたと気付く。こうやって愛でることすらも、搾取なのかもしれないと。

いつの間にか反対側の自分を噛み締めながら、あっという間の120分。B級テイストなA級映画。退屈しないこと請け合い、おすすめ。

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