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映画感想文「あしたの少女」大人達が酷すぎて切ない。実話を元にした韓国映画

出てくる大人達がみな酷い。

しかし、残念ながらそうなるかもね、とも思えて。それが切なくて悔しい。

2017年に韓国で実際に起こった女子高生の事件を元に社会派のチョン・ジュリ監督が描く問題作。

ダンスが得意で明るくしっかり者の高校生ソヒ(キム・シウン)は、就職前の実習生として大手企業下請けのコールセンターで働き始める。

希望に燃えて社会への一歩を踏み出した彼女だが、待ち受けていたのは、顧客を顧みない押し売り営業、従業員同士の過酷な競争、不当な労働契約による安月給という、辛い出来事の連続であった。

学校同士の就職率争いに奔走する教師は彼女の状況を知ろうともせず「お前が辞めると来年からうちの高校の採用枠がなくなる」とのたまう。

頼りになるはずの親も、大手企業の傘に入れば幸せになれると彼女の話に耳を傾けない。

同様に様々な企業で実習生として働く友人達もみな、先輩のいじめや会社での過剰労働に疲れ果て、彼女を助けられる状態ではない。

そうやって誰にも助けを求められず、希望に燃えて快活に働き始めたソヒが、たった3ヶ月で精彩を失い自分に自信が持てなくなっていく様が惨すぎる。

実習生という名のもとに未成年の若者を不当に扱う社会の闇を暴くこの映画がきっかけとなり、先日韓国では「職業教育訓練促進法」が改正されたという。

映画ができることとして、本当に素晴らしいと思う。

しかし、まだまだ闇は深い。

後半ソヒの事件を追う刑事ユジン(ペ・ドゥナ)が次々と関係者を糾弾していく過程で浮き彫りにされる、学校、警察、企業、家族、のそれぞれの言い分を聴いていると、彼らも社会構造の中に組み込まれてしまっており、がんじがらめだ。

よって、残念ながらすぐに解決する問題とも思えない。

それでも、これは大人がなんとかすべき問題である。なんとかせねばならない。

そして、この映画は遠いどこか、韓国の話だよね、とも思えず。いま日本のどこかでも同じことが起きているのだと思う。

大人ができることは何か、突きつけられる。

前半はソヒ視点で、後半はユジン視点で語るという構成が良くできている。また始まりとラストの繋がりにより、監督の伝えたいメッセージがより、響く。

力作。未来を担う若者が幸せであるために、自分に何ができるかと考える。そんな作品である。

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